アフター(2)

                                              漢侍受祭 お題「戒」







 バスタオルを引っかぶり縺れるようにして、2人は暗い廊下を進んだ。五右ェ門の部屋の前で次元が足
を止め、開けてくれと目で促す。
 ガチャ、という音が、闇に響いた。

「・・・・・・っ、はッ・・・・・・!」

 ドアを閉めた途端にうなじを熱いものがぬめり、五右ェ門は思わず声を上げた。バスタオルがばさ、と
落ちる。首筋から耳へ、耳から唇へと厚い舌は場所を移し、やがて口腔をこじ開け侍の舌を搦め捕った。
のけ反る五右ェ門の膝の間に、次元が脚を割り入れる。こすり上げられ駆け上がる快感から逃れようと
して、よろめいた侍の背が壁にゴツ、とぶつかった。

「捕まえとくこともできねえな、これじゃ。」

 両手を掲げてみせ、次元が笑う。後ろからかき抱くと、侍が小さな声で言った。

「・・・・・・ベッドへ・・・・・・、」
「・・・・・・ああ。」

 絡み合ったたままヨロヨロと寝台へ向かい、どさりと倒れ込む。いつものように侍の脚を撫でようとして
次元がふと気づき、諦めて腿をポンと叩いた。

「・・・・・・思ったよりつれえな、これは。」

 何もできやしねえ、と呻く。

「・・・・・・やめるか。」

 呟く五右ェ門の目を、次元が覗き込んだ。

「・・・・・・やめるか?」
「・・・・・・。」

 次の瞬間、ベッドが激しい音を立てた。
 互いの体を舐め、噛み合う2人から荒い息が漏れる。
 両手の利かない次元に、自然、五右ェ門がのしかかる格好になった。唇を離した侍がふと見せた躊躇
を、次元は見逃さなかった。あまり経験がないのだ。闇雲に次元をまさぐろうとする五右ェ門を、「待て」と
制した。

「・・・・・・?」
「俺はいい。それよりお前をよくしてえ。」
「しかし、その手では・・・・・・、」
「・・・・・・頼みがある。」

 次元の目に、見たことのない真剣な光が宿る。

「自分でしてみせてくれ。」
「・・・・・・!」

 目を見張り、侍は即座に「断る」と斬って捨てた。

「それは絶対にせぬ。己にそう課している。」
「知ってるさ。たいしたもんだ。だから、」

 熱っぽい目が、侍を捉えて離さない。

「俺の手だと思え。お前がやるんじゃねえ、俺がやるんだ。お前は俺の言うとおりにやるだけでいい。戒
めを破ることにはならねえ。」
「・・・・・・。」

 まだ容れられない様子を見て取り、次元は溜め息をついた。「こんなこたあまり言いたかねえんだが」
とボソボソ言う。

「・・・・・・俺は、お前を悦ばせる時が一番イイんだ。」
「・・・・・・。」
「死ぬほど悦ばせてやりてえ。頼む。」
「・・・・・・。」

 侍が静かに起き上がった。
 黙って次元に背を向け胡坐をかく。
 ぽつりと言った。

「・・・・・・騙されてやる。」

 一瞬、耳を疑った。

「五右ェ門・・・・・・、」

 そろそろと近づき後ろから抱きしめると、侍が「今日だけだぞ」と念を押す。

「・・・・・・ああ。最初で最後だ。」

 囁いて、首筋の真後ろを吸う。五右ェ門の喉から「んく」と音が漏れた。みの虫状の手で侍の両腕を持
ち上げ、胸の辺りに持って行く。

「指で触ってみろ、俺がするみてえに。」
「・・・・・・。」
「五右ェ門、」

 キッと唇を噛み、侍が顔を上げた。長い指が伸び、両の乳首をかする。

「・・・・・・!」
「強くするな。くすぐる感じでいい。」
「・・・・・・。」

 観念したのか目を瞑り、侍は言われたとおりに指を動かし始めた。人差し指がぎこちなく上下するたび
に乳首が頼りなく振れ、徐々に隆起していく。覗き込みながら耳をしゃぶると、「あ」と微かな声が漏れた。
堪らず次元が前に回り込む。目を瞑ったまま、侍が請うた。

「見るな・・・・・・、次元・・・・・・、」
「ムリだ。続けてくれ。」

 情欲まみれの声に打たれたように、侍がこちらを見る。「頼む」と告げると、くっと喉を鳴らし横を向いて、
また突起をいじり始めた。

 こんな光景があっていいのか。

 呆けたように、次元はそれを眺めた。盛り上がった褌の前をびしょびしょにして、目を閉じ乳首をこねく
りながら、救いを求めるように「次元・・・・・・!」と侍が叫ぶ。

 身を乗り出し、そこを舐めた。
 侍がはしたない声を上げた。

 指も乳首も一緒に舌で転がしてやると、狂わんばかりに侍は悶えた。吸い立て、尖り切らせてから、せ
わしなく唇を移す。長くもちそうになかった。褌を軽く噛んで引っ張り、「んん」と呼ぶ。侍が目を開け、次
元の頬を撫でた。指を舐めて促すと、美しい手が、褌をそっと横へずらす。

 飛び出した愛しいものに一度キスしてから、指を咥えて導いた。おずおずと握る手の甲をベロンと舐め、
そのまま先走りの滴る先端へ舌を走らせる。侍が喘いだ。しごいてくれ、と言うのとほぼ同時に、手は動
き始めた。

「五右ェ門・・・・・・、すげえ・・・・・・!」
「言うな・・・・・・!」

 息が早くなる。舐めても舐めても先端からは液が溢れ出し、しごき上げる侍の指を濡らし続けた。頭で
腹を押し、体を完全に横たえさせてから、顎で脚をぐいと開く。すぼんだ場所に舌をねじ込むと、「うああ
あ」と侍が緩い声を上げた。

「入れてみろ、五右ェ門、」
「・・・・・・!」

 指が伸びてきて、入口につぷ、と入る。
 口を開けたまま、舌をしまうのも忘れて次元は見入った。ぐ、ぐぐ、と少しずつ入ってゆく指が突然止ま
り、侍が「ぁう」と声を漏らす。

「・・・・・・そこだろ、五右ェ門。」
「・・・・・・!」
「なぞってみろ。ゆっくり。」
「だ・・・・・・めだ・・・・・・!」
「大丈夫だ。力抜け。」

 入口から袋にわたる丘を舌でなぞってやると、弾かれたように腰が浮いた。指がゆっくり動き始めたか
と思うと、急に激しさを増す。声も出なくなった侍の口からふー、ふー、と繰り返し息が漏れた。

 身を離し、ただ眺める。大股を開き、身をよじって自らを慰める五右ェ門の目から、涙が零れた。唇が
開く。

「次元、」

 一声、高く呼んだ。
 次元の中で何かが吹っ飛んだ。

 包帯の手を侍の背に突っ込み、がば、と抱き起こす。次元の膝に跨った侍が、唇に喰らいついてきた。
互いの熱いものがこすれて、激しく揺れる。

「・・・・・・早く・・・・・・、もうやべえ・・・・・・!」

 言い終わらない内に、侍が腰を浮かした。そこにあてがわれただけで、次元が切羽詰まった声を上げ
る。白い手を次元の両肩に置き、性急に侍が沈み込んだ。

「あ、あああ、あ・・・・・・!」

 同じ声が闇に響く。



    *



「・・・・・・明日、病院に行くぞ。」

 夜着に腕を通しながら、侍が言った。

「何だ、どこか痛めたのか?」
「・・・・・・お主の入院手続きだ。」

 次元がぽかんとする。「何ィ!?」と跳ね起きるまで、たっぷり10秒はかかった。

「ちょっと待てよどういうことだ!? 1日でもう俺の世話ぁギブアップか!?」
「お主の世話くらい何でもない。」

 ぷいと後ろを向き、侍は帯を締め始めた。

「じゃあ何だってんだ。」
「・・・・・・。」

 侍が何か言った。聞きそびれ「ああ?」と覗き込む次元を睨み据える。

「毎日戒を破らされるのではたまらん、と言ったのだ。」
「何だそりゃ。」

 飲み込めない様子の次元に、五右ェ門が口ごもる。

「この調子では、お主を風呂に入れるたびに、あんなことになるではないか。」
「・・・・・・ああ、」

 やっと合点がいったらしい。慌てたように「五右ェ門、」と次元はみの虫を侍の肩に置いた。

「言ったろう。お前はお前のルールを破っちゃいねえ。あくまで俺の代わりとして・・・・・・、」
「そんな訳に行くか!」

 一喝してから、ハッと侍が口をつぐむ。次元はハタと気づいた。

「お前・・・・・・、」
「うるさい。」
「破ったのか?・・・・・・つまり・・・・・・、」

 自分で気持ちよくしちまったのか?

「ごえ、」
「とにかく!!!」

 侍が次元の手を振り払い、背中で叫んだ。

「明日は病院だ! 早く寝ろ!」
「待て、五右・・・・・・!」

 バタン、と恐ろしい音を立ててドアは閉まった。なんてこった。

 開けられねえ!

「五右ェ門、俺が悪かった! もうしねえ! 五右ェ門!」

 空しく叩かれるドアの裏側で、あと30分は許すまいと侍は誓った。 












ホントでしょうか。ゴエ自慰しないって(^−^)
少なくとも本人はそう努めていて、でもなんだかんだでちょくちょく破戒してるといいと思います。
そしてその都度頭を抱えているとなおよいです(^−^)






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