「無題」第2稿
ふと気づき、草を踏む足を止めた。濃い土の匂いが立ちのぼる。
日射しは全てに平等に降り注いだ。2課棟の裏も例外ではなく。
出しかけた煙草をそのままにして、後藤は、足元の光景に見入った。
女は少し口を開けて、音も立てずに眠っている。顔にかかる木陰がかすかに動くたび、まつげの黒が
色を変えた。
しばらく見つめてから、後藤は女の傍らに腰を下ろした。膝を抱え、煙草を1本抜きかけては戻して、飽
かず女を眺める。
蝶が、無音で飛んだ。
ざ・・・・・・、と風が上がり、長い髪が頬にかかる。女が目を開く前に、後藤は視線を海に移した。
「・・・・・・後藤さん。」
まだ、どこかさまよっているような声。海を見ながら「やあ」と応えた。
しのぶが起き上がる。髪についた草をつまむ様子に、決まりの悪さが窺えた。
「悪いね、休憩中に。」
「・・・・・・。」
作業が始まったのだろう、ハンガーの方から機械音が聞こえる。手慰んでいた箱からとうとう1本抜き
取り、火をつけた。
「・・・・・・気、遣わせたかなと思って。」
「別に」と答えるしのぶの声は、風に半ばかき消された。
「・・・・・・少し、外の空気が吸いたくなったの。」
「あ、そお。」
炎を守ろうとしてかざした手に、しのぶの視線が注がれる。
壁を殴った拳はまだ痛い。
似合わないことはするものじゃない。
広がった煙が瞬時にかき消えるのを眺めてから、しのぶは笑みを漏らした。
「痛いんでしょう。」
「そりゃあもう。」
「自業自得よ。」
声を上げて笑い出す。後藤はあーあ、と転がった。
オレンジの字が、加筆修正部分です。
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