「無題」第1稿








 2課棟の裏手も陽射しは強い。
 草を踏む足を止めると、ふと土の匂いが濃くなった。
 出しかけた煙草をそのままにして、後藤は、足元の光景に見入った。
 女は少し口を開けて、音も立てずに眠っている。顔にかかる木陰がかすかに動くたび、まつげの黒が
色を変えた。
 しばらく見つめてから、後藤は女の傍らに腰を下ろした。膝を抱えて煙草をひねくりながら、また女を見
つめる。

 蝶々が無音で飛ぶ。

 ざ・・・・・・、と風が上がり、ほつれた髪が頬にかかった。女が目を開く前に、視線を海に移す。

「・・・・・・後藤さん。」

 まだどこかさまよっているような声に、海を見ながら後藤は「やあ」と応えた。

「悪いね、休憩中に。」
「・・・・・・。」

しのぶが起き上がる。髪についた草を取る様子に、決まりの悪さが窺えた。

「いい場所だね。」
「・・・・・・気に入ってるの。」

機械音が聞こえてきた。ハンガーの作業が始まったらしい。とうとう後藤が煙草を1本抜き取った。

「・・・・・・気、遣わせちゃったかな。」






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