二人の軽井沢 外伝(中)
雨脚はだいぶ弱まったようだ。
どのくらいそうしていただろう、ふいに抱き締める腕を緩め、後藤はしのぶの顔を覗き込んだ。
やだ、そんな優しい目・・・・・・。
しのぶはどきまぎしてまつげを伏せる。心臓の音がうるさくて、どうやって息をしていいかも分からない。
後藤の顔が近づき、鼻と鼻が触れ合った。しばらく触れ合わせてから、後藤がやおらまぶたに口づける。
「・・・・・・!」
唇が熱い。後藤はちゅっ、ちゅっと音を立てながら、両目に、眉に、額に口づけてゆく。ゆっくりと頬ずり
をする後藤が、少しほほえんだような気がした。
唇をつまむようなキス。
煙草の匂い。
胸と胸が密着し、後藤の無骨な指がしのぶの首筋を強く撫でる。ゆっくり押し入ってきた後藤の舌を、し
のぶもかすかに舐めてみた。緊張の塊が少しずつ少しずつ溶けだし、心地よさとなってしのぶの中を流
れ始める。
「少し落ち着いた?」
ふいに後藤に問われ、しのぶは目を開けた。
「な・・・・・・、なにが?」
「だってしのぶさん、さっきまで怒ってるような顔してたんだもの。」
「・・・・・・別に怒ってなんか・・・・・・、」
「うん。顔が柔らかくなったね。」
「あっ・・・・・・、」
しのぶの背後に回り、首の後ろを強く吸う。
「この首筋にねえ・・・・・・。」
「首がなによ。」
「どれだけ俺が苦しめられたか、」
知らないでしょ、と後藤は囁いて、おかえしとばかりに軽く歯を立てた。びくんと跳ね上がるしのぶの乳
房を、両手に包み込む。
「ね、気持ちいい?」
「・・・・・・。」
「言ってよ。どういうのがいいのか分かんないしさ。」
乳首をくすぐる。
「んんっ!」
「気持ちいいの?」
「言・・・・・・わない!」
「じゃ俺がんばるしかないなあ。」
あっと思う間もなく、しのぶは後藤の下に組み敷かれていた。しのぶの両手をしっかりと握ったまま、パ
ジャマの上から唇で乳首を探りあて、後藤は音を立ててパジャマごと乳首を吸い立てる。
「んんーっ・・・・・・!」
思わずのけぞる体をしのぶは必死で抑えた。同時に、目をつぶって快感を味わおうとしている自分に驚
く。
「しのぶさん、すごくエッチな顔してる。」
「・・・・・・やっ・・・・・・!」
しのぶは後藤を振りほどいて体を起こし、後藤の目に片手をかざす。目を塞がれた後藤は構わずしの
ぶの鎖骨を吸いながらパジャマのボタンを外し、肩、背中、と、しのぶの手の届かない方へ舌を這わせな
がら脱がせてゆく。
「きれいな背中だねえ。」
あらわになった白い背中を後藤の舌が上下するのに合わせて、しのぶの息が上がっていく。肩甲骨を
舐められて体が跳ね上がる。そのまま耳の後ろまで一気に舐め上げられると、たまらず甘い声が漏れ
た。
「後藤さん・・・・・・。」
息も絶え絶えに、後藤へ体を預けるしのぶをしっかり抱きとめて、後藤はしのぶの下腹にそっと手を伸
ばす。
「あ・・・・・・、だめ・・・・・・!」
水をたたえた場所がなぞり上げられた。しのぶは顔を横に向けて快感と恥ずかしさに耐えている。
「・・・・・・よかった。」
後藤の声にしのぶは思わず振り返った。
「感じてくれてるんだ、しのぶさん。」
後藤は本当にほっとしているようだった。
緊張、してたのかしら。後藤さんも。
後藤の顔を見つめながら考えているしのぶに後藤は「ん?」と目で問う。
しのぶは少しだけほほえんで目をつぶった。一番敏感な場所をこれ以上ないくらい優しくなぞる後藤の
愛撫をちゃんと感じたいと、しのぶは思った。
衣ずれの音すらしない静寂の中、しのぶは意識を一点に集中させる。
「しのぶさん・・・・・・、」
後藤が窺うようにそっと囁く。後ろを向いて軽く唇を合わせた刹那、しのぶが、
「とろけそ・・・。」
と声をあげる。
後藤はもう抑え切れなかった。2人は向かい合い、ゆっくりとお互いを迎え入れた。
どこかへ漕ぎ出すような体の動きに応えながら、しのぶは後藤の顔を見つめる。
両手をついて没頭している後藤は何かと闘っているようにも見え、狼のようだとしのぶは思った。頬にそ
っと手を触れられ、後藤がしのぶを見る。
「・・・・・・気持ちいい?」
今度はしのぶが尋ねてみた。後藤はにやりと笑って答える。
「 最高。」
後藤の動きが激しさを増す。もはや2人とも昂ぶりを隠さなかった。
たった1つの意志をもった塊と化して、2人はその瞬間を迎えた。
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