二人の軽井沢 外伝(下)








 まだ上下している後藤の肩を、しのぶはそうっと撫でた。うつぶせる腕の隙間からこちらを見る後藤の
物憂げな瞳から目が離せない。求められるままに唇を合わせる。
 長いキスの後で、しのぶがぷいと横を向いた。

「・・・・・・しのぶさん?」
「後藤さんて・・・・・・、」
「うん、」
「・・・・・・上手なのね。」
「ええ?」

 後藤は心底驚いたようだった。

「そんな話は聞いたことがないなあ。」
「なによそれ。」
「ええと・・・・・・、なんで怒ってるの、しのぶさん?」
「べつに。」

 背を向けようとするしのぶを、後藤は抱き締めた。

「そんなに上手だった?俺。」
「・・・・・・。」
「だとしたら、俺としのぶさんだからだよ。」
「そうかしら。」
「だってさ・・・・・・、」
「・・・・・・?」

 しのぶが後藤の方に顔を向ける。

「しのぶさんがあんなに乱れると思わなかったもの。興奮した。」

 低い声で呟いて、しのぶのこめかみにキスをする。

「・・・・・・!」
「いでっ!」

 しのぶがいきなり背を向けたので、後藤は頭突きを食らった格好になった。しのぶは先刻のことを思い
出したのか、なにやらもぞもぞしている。

「ねえ、素直に言おうよ、しのぶさん。」
「なにをよ。」
「すごくよかったってさ。」
「・・・・・・おやすみなさい!」

 しのぶは、頭から毛布をかぶって縮こまった。

「か〜わいいなあ、しのぶさん。大好き。」
「・・・・・・。」

 毛布の中から白い手がそろそろとさし出された。後藤はその手を唇に押し当てる。そのまま2人はほん
の少しだけまどろんだ。

 外はもう明るくなっているだろう。



     *



 素晴らしく晴れた朝だった。2人はなんとなく言葉少なに車に乗り込む。

「・・・・・・ゆっくり眠れた?」

 車を出した後藤がとぼけた顔で尋ねた。

     !」

 しのぶは思わず後藤の顔を見つめ、少しにらんでから、

「ええ。」

と返した。

 濡れて輝く街道が眩しかった。






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