ハッピー☆ハッピー☆ウェディング








「だっ、だっ・・・・・・、だめだ! ま〜だ腹いてえ!」
「あんまり笑っちゃかわいそうよ、ルパン。」
「ケッ! そう言うお前だって笑ってんじゃねえか、不二子!」
「次元、もうよせ。」

縺れ合い、転がるようにして4人はアジトへなだれ込んだ。ベールをむしり取った次元が、ウェディングドレスの
裾をからげてバスルームへとすっ飛んでゆく。

「ちょっと、それ一人で脱げるの、次元?」
「ほっとけ!」
「よい、不二子。拙者が行く。」

笑いながら、タキシード姿の五右ェ門が次元を追う。肩をすくめて不二子はキッチンに入った。背後でルパンは
まだヒーヒー言っている。

「・・・・・・あの神父、式のあいだ中肩震わしてたよなぁ。とっつぁんはとっつぁんで、ず〜っと号泣してるしよ。俺ァ
もう死ぬかと思ったぜ。」
「ルパン、いい加減にしないと次元に殺されちゃうわよ。」

上機嫌のルパンはたしなめられてもへいちゃらだ。「次〜元ちゃん、もう脱いじまうの?」と言いながら、バスル
ームへ消えてしまった。

「・・・・・・命が惜しくないのかしら。」

呆れつつコーヒーをいれる不二子の耳に、賑やかな男どもの声が聞こえてくる。しばらくたって、案の定、マグ
ナムの発射音が家中に響き渡った。

「ちょっと、いい加減にしなさい! コーヒー入ったわよ!」
「・・・・・・。」

しおしおと出て来たルパンの頭頂部には、見事な一筋の禿げができている。その後ろ、五右ェ門になだめられ
ながら出てきた次元は、もう気楽なランニング姿に戻っていた。


「かたじけない、不二子。」
「まったくもう。」

ソファーテーブルにカップを並べる不二子を、五右ェ門が手伝い始める。苦虫を噛み潰したような顔で、次元が
ソファーの端にドスンと座った。

「お前らもう帰れよ。車取りに来ただけだろうが。」
「つ〜れないなあ次元ちゃん。コーヒーくらい飲ませてよ。」
「そうよ、私が淹れたのよ。」
「フン。」

平気で次元の隣に座ろうとするルパンを引っ張り、不二子が自分の隣に促す。空いた席にすとんと腰を降ろし
た侍と横の次元を眺め、うふふ、と笑った。

「ねえ、それで二人の名字はどうするの?」
「ああ?」
「あなたたち結婚したんでしょ。どちらかの名字に揃えなくっちゃ。」
「・・・・・・。」

考えたこともなかった、という表情で二人は顔を見合わせた。

「・・・・・・次元だろ。」
「石川でござろう。」

ほとんど同時に口をついて出る。一瞬の間ののち、二人は勢いよく立ち上がった。

「・・・・・・いや、こればっかりは譲れねえぞ! 俺ァ『次元』で通ってるんだ、五右ェ門は『五右ェ門』なんだから、
名字が変わったって大して困らねえだろ!」
「石川の名を軽く考えられては困る! 拙者が次元になったら、石川家が途絶えてしまうではないか!」
「あらでも五右ェ門、次元と結婚しちゃったらどのみち後継ぎなんかできないわよ。」

余計なことを!と次元は不二子を睨みつけた。五右ェ門の気が変わったらどうしてくれんだ!

「・・・・・・それについては、考えてある。」

鬼のような形相の次元をよそに、侍が厳かに言う。三人は身を乗り出した。

「何だ、考えって?」
「ルパンと不二子の子を譲り受けるのだ。拙者が立派な十四代目として育てる。」

思わず次元は吹き出した。今度はルパンと不二子が同時に立ち上がる。

「いやややや五右ェ門ちゃん、じゅーよんだいめってのはちょっとな、」
「冗談じゃないわ! ルパンの子供なんて産まないわよ!」
「あららっ!? ふ〜じこちゃん、そりゃあないんじゃないの?」
「だってあり得ないもの! もう、そんなことよりあなたたちの名字の話でしょ!」
「俺は絶対に無理だ。大体、『石川大介』なんておかしいだろ!」
「『次元五右ェ門』だって妙でござる! 何やら良からぬ匂いがする!」
「だあ〜もうやめやめやめ!」

ルパンの一喝で、場はようやく静まった。肩で息をしながら、四人はもそもそと腰を降ろす。「いいかお前ら!」と
ルパンが高らかに言い渡した。

「名字は揃える必要なし! 話がややこしくなるだけだ。大体お前ら戸籍あんのかよ。」
「ねえ。」
「知らぬ。」
「・・・・・・それ早く言えよ。」

はあああ、と脱力した男共を眺め、不二子が「なーんだ」と口を尖らせる。

「何が『なんだ』だ。面白半分で引っかき回しやがって。」
「あらご挨拶ね。同じ名字になれなくてほんとは残念なくせに。」
「なんだと、」
「はいはい不二子ちゃん、そ〜ろそろおいとましましょうね!」

火種を揉み消すように、慌ててルパンが立ち上がった。ぐいぐいと戸口の方へ不二子をせき立てる。

「そうね、いろいろ堪能したし。どうもお邪魔さま。」
「帰れ帰れ。」
「ねねねね不二子ちゃん、そんでさっきの十四代目の話なんだけっどもね…、」
「何の話?」
「ま〜たまたとぼけちゃって…!」

賑々しくルパンと不二子が帰って行き、部屋にはようやく静寂が訪れた。


「・・・・・・やれやれ。」

立ち上がり、侍がテーブルを片付け始める。その手を次元が遮った。

     後にしろよ。」
「・・・・・・。」

少し逡巡したのち、侍はカップをテーブルに戻した。促されるまま、次元の横に座る。帽子を上げた次元が、侍
をじっと見つめた。
どちらからともなく、腕が伸びた。
互いの首に絡ませ合い、相手の体に潜り込むようにして抱き合う。頬を合わせ体の重みを預けきって、二人は
互いの生命そのものに浸った。
侍がふうう、と息を漏らす。次元が覗き込むと、少し笑った。

     なかなか湧かぬものだな、実感が。」
「ああ。」

しかし何だろうこの感じは、と次元は考えていた。実感がないと言いながら、侍が腕の中で満たされているのが
分かる。そしてきっと侍も、次元が満ち足りているのをいま感じている。
こんな日が来るとは思わなかった。
俺とこいつがまさか、約束を交わすなんてな。
今度は次元が少し笑う。ん?と顔を上げた侍の唇を、唇で悪戯した。ちゅ、ちゅ、と甘やかな音が上がる。ノック
に応じるようにして差し出された侍の舌を軽く食みながら、ほとんど夢見心地で次元は問うた。

「五右ェ門・・・・・・、一つ・・・・・・、頼みが・・・・・・、」
「着ないぞ。」

あっさりと夢は破られた。

     なんで分かったんだよ。」

むくれる次元に、侍がくっくっと笑う。

「お主のやましい考えは、すぐに分かる。」
「ちぇ。」

笑い声が大きくなった。ひとしきり笑い、それから、言う。

     まあ、よいか。」
「えっ、」

虚を突かれた次元に、五右ェ門は素早くキスをした。楽しそうだ。

「お主も恥ずかしいのを堪えたからな。拙者も、お主に見せるくらいは我慢するか。どうせたいしたものでもなし。」
「五右ェ門・・・・・・、」
「呼ぶまで来てはならぬぞ。」

すっと立ち上がり、侍はバスルームに消えた。


・・・・・・言ってみるもんだ!
思わず立ち上がり部屋をウロウロして、それでも落ち着かず次元は煙草を取り出した。立て続けに三本も吸っ
た頃、ドアのすぐ外で衣ずれの音が聞こえた。

     五右ェ門? できたのか?」

返事はない。ドアを開けると、そこに、五右ェ門は、いた。

「・・・・・・別に、どうということはなかろう。」

拳をきつく握り締め、胸を張って侍は立っている。いかつい体に白いレースがひらひら纏いつく様は、さっきの次
元と同じだった。ただ、明らかに違うことがある。肩をいからせ顎をぐいと上げて、傲然と立つ姿はこんなにも雄
々しいのに。眩暈を抑えて次元は生唾を飲んだ。

     なんなんだ、この、ふるいつきたくなる感じは!

何でもない様子を装って立つ侍の、目尻がうっすら潤んでいる。固く結んだ唇が、羞恥を忍んで微かに震えて
いる。匂い立ち、溢れ出る色気に捕えられて、次元は自分が溺れているような気すらした。

「・・・・・・そうだな、どうってこたねえな。」

上の空で放った言葉に、侍がそれ見ろという顔をする。

「だから言ったであろう。さて、気が済んだなら着替えて・・・・・・、     ん?」

戻ろうとした侍が、腕を取られて振り向いた。隙をついて両膝をすくい、勢いよく抱き上げる。バランスを崩した侍
が次元にしがみついた瞬間、ドレスの裾が波のようにうねった。

「な、何だ次元!?」
「ああ、ちょっとな。」
「ちょっと何だ。早く降ろせ。」
「暴れると危ねえぞ。」
「だから降ろせと・・・・・・、っ!?」

ぐい、と抱え直した瞬間、ドレスの腰にヤバいものが触れた。侍がぎょっとした顔で次元を見上げる。

「お主、まさか・・・・・・、」
「悪ぃ。」

バレてしまったら仕方がない。急激に漲ったそこを侍に押しつけ、黒髪に顔をうずめて次元は詫びた。

「何だか分からねえが、・・・・・・すげえ興奮してる。」
「このへんた・・・・・・、んむ!」

非難が出るより早く唇を塞いだ。押し戻そうとして手を突っ張る侍の頭をかき抱き、深く口づける。

「・・・・・・ん! ・・・・・・っ・・・・・・、」

白いグローブの手が、少し緩んだ。思い出したように次元の肩を押しては、また動きを止める。とうとう腕は力な
く滑り落ち、床に向かってぷらんとぶら下がった。激情を注ぎ込んだ唇を離し、次元は侍の目を覗く。熱を帯び
て少し潤んだ目が次元を睨みつけ、それから睫毛がそっと伏せられた。

「・・・・・・この変態め。」
「そうだな。愛してるぜ。」
「まったく・・・・・・。」

ふて腐れたような唇を軽くついばんだ。今度は侍の方から噛みついてくる。そのまま長い接吻になった。互いの
奥底に深く深く潜ってゆくような口づけを、夢中で交わす。

「・・・・・・ふ・・・・・・、」

やっと浮上したように息をつく侍を、次元は抱え直した。

「さて、行くか。」
「・・・・・・どこへ?」

ぽーっとした顔で侍が問う。晴れやかに笑い、次元は答えた。

「知らねえのか? 新婚初夜にはな、花婿が花嫁をこうやって抱えて新床へ連れてくもんだぜ。」
「に・・・・・・!?」

途端に暴れ出した五右ェ門を、次元は慌てて抑えた。

「何だ、どうした五右ェ門!?」
「降ろせ! 拙者、花嫁として、に、新床に連れてゆかれるなど・・・・・・!」
「ああ、」

それもそうか。降りようとしてもがく五右ェ門をなだめながら、次元は「じゃあこうしよう」と提案した。

「交代でどうだ? 全部終わったら、俺がドレスを着て逆をやる。」
「そういう問題ではない!」

真っ赤になって侍がしがみついてくる。

「後生だ次元、この格好では嫌だ、せめてこれを脱いでから・・・・・・!」

ほとんど泣きそうな声で懇願する侍に、ますます血が上る。そうやって恥ずかしがる姿が一番クるんだがな。い
きり立つ下半身を侍に押しつけ、「大丈夫だ」と次元は囁いた。

「俺が脱がせてやるよ。寝室に着くまでの辛抱だ。」
「ちが・・・・・・! 次元! 待て!」

ますます赤くなり動揺する侍の様子が、次元に燃料をガンガン投下する。これはもう俺だけのせいじゃねえよな、
と思いながら、次元は寝室に突進した。
バタンと閉まったドアの奥から、一際高い侍の声が上がる。


日はようやく西に傾き始めたところだった。
まだ初夜は始まってもいない。
















月子さんが書いてくださった「ハッピー☆ウェディング」の続きを書いてみました。
続きなので、まさかのドレス次元でスタートです(^−^)。なんだかんだ言って、結構ノリよくドレスとか着ちゃう二
人が、私は大好きです(^−^)。




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