フルカラー(2)
漢侍受祭 お題「華」
「・・・・・・付き添いがいるなんて聞いてねえぞ。」
取り次ぎに出たスキンヘッドが、ポケットに手を突っ込み凄んでみせる。次元は深々と頭を下げた。
「へい、元々伺う予定の女がちょいと倒れまして。今日は代わりの者なんですが、なんせこいつ口がきけ
ませんで。」
「ほおお。」
無躾な視線を避けるように、五右ェ門が目を伏せた。
「あっしぁ通訳代わりでして、へい。」
「ふん、まいいだろ。上がんな。」
奥へ通され、広い廊下を進む。本当に来るはずだった芸妓の方は、ルパンがうまくやったようだ。
部屋の前にたどり着き、「親父」とスキンヘッドが声をかける。開いた襖の奥に、銀髪の男が座っていた。
手をついて顔を伏せたまま、五右ェ門が総毛立つのが分かる。あれがヤマシロらしい。
「・・・・・・名は、なんてえんだ。」
六十後半といった所か。男には分かりやすい頬傷があった。しゃがれた声で「聞こえねえのか」と促す。
「へい、あやめと申します。口がきけねえもんで、あっしが。」
ヤマシロが次元をチラリと見やる。
「てめえはそこを一歩も動くな。」
「へえ、それはもう。」
「あやめ、か。来い。」
くい、と五右ェ門が顔を上げる。
スタスタ歩く足取りに、迷いはなかった。
ヤマシロの横をすっと通り過ぎる。「おい」とヤマシロが声をかけた瞬間、
「・・・・・・!」
音もなく、あいくちが男の喉に押し当てられた。
「てめ・・・・・・!」
声を上げかけたスキンヘッドが、ゴツ、という音と共にどさりと倒れる。
「かてえ頭だな、おい。」
マグナムで殴った右手を振りながら、次元が歩み出た。
「・・・・・・刺客か。」
つまらなさそうに、ヤマシロが呟く。
「・・・・・・待ち兼ねたよ、この時を。」
あいくちを当てる五右ェ門の手は、震えていた。ヤマシロの口の端がニヤリと歪む。
「何笑ってんだい。命請いしな。」
「めんどくせえ。儂ももう若かねえし、さして惜しくもねえ命だ。好きにしな。」
放り出された言葉に、一瞬侍がためらった。
「・・・・・・おめえ、あやめ、って感じじゃねえな。」
ヤマシロの目がすうっと細くなる。思い出したように、言った。
「・・・・・・椿、の方がいいぜ。」
「!?」
侍が反応した瞬間、ヤマシロの肘が入った。
「ぐッ・・・・・・!」
体を折る五右ェ門の背後に回ったヤマシロが、「動くな」と次元に鋭く叫ぶ。床の間の兼定をスラリと抜
き、五右ェ門の喉にあてがった。
「・・・・・・何が目当てだ、おめえら。」
静かな声で、ヤマシロが尋ねる。
「決まってんだろ、あんたを殺りに来たんだよ。」
咳き込みながら、五右ェ門が身をよじる。
「恨みがあるのか、儂に。」
「・・・・・・。」
黙して答えない侍に、「おめえ」とヤマシロが問うた。
「つば」
ドゴオオオン、という轟音に、言葉は突然掻き消された。爆風で障子紙が一斉に破れる。ルパンだ。
考えるより先にマグナムが火を吹いた。
糸が切れたように、ヤマシロが崩れ落ちる。掴まれたまま、重みに耐え兼ねて五右ェ門が膝をついた。
兼定がぽとり、と畳に落ちる。
「ヤマシロ!」
「気絶してるだけだ。至近距離から弾が掠めたら、誰だってそうなる。」
愛銃を背に突っ込み、次元は五右ェ門の腕を取った。
「行くぞ。じき追っ手がかかる。」
「・・・・・・。」
答えず侍は兼定を手に取った。倒れた男に刃を向ける。ヤマシロに定めた視線は、もうびくとも動かな
かった。
「やめとけ、椿。」
「・・・・・・ほっといてくれ。」
振りかざすのと同じ勢いで、ひゅっ、と振り下ろす。
弧を描いた刀が、その半ばで、突然、止まった。
「!?」
自ら止めておいて、侍が驚愕の表情を浮かべる。
「なんだいこれ!?・・・・・・腕が・・・・・・、動かない・・・・・・!」
「・・・・・・そりゃあ、あれだろ。」
眺める次元が、のんびり言った。
「五右ェ門ががんばってんだろ。」
「・・・・・・!」
侍の前に立ち、次元は顔を覗き込んだ。
「悪いことは言わねえ。やめときな。あんた、こいつ殺ったって成仏しないぜ。」
「・・・・・・大きなお世話だよ!」
叫ぶなり、五右ェ門は次元の唇に喰らいついた。唇を離した途端、次元が「くっ!」と呻く。やっと体の自
由がきくようになった侍が、今度は棒立ちの次元を眺めた。
「ほう、がんばるな、次元。」
「こいつもかい・・・・・・!」
いまいましげに、次元が五右ェ門を睨み据える。
「いいのかい、あんた達。このままじゃずっとあたし憑きだよ。」
「だいぶ慣れた。」
侍の言葉に虚を突かれ、次元は「えっ」と声を漏らした。
「お主が修羅に落ちる手助けをするくらいなら、それもよかろう。」
「・・・・・・。」
「その代わり、泥棒稼業を学んでもらうぞ。役に立たんようでは困る。」
「・・・・・・馬鹿だね。」
次元がぽつりと言う。
「・・・・・・ほんと馬鹿だよ、あんた達。」
「そうかもしれんな。」
しばたいた目から涙がすっと流れ、髭の中に滑り込んだ。
その時。
五右ェ門の手の兼定が、ぼうっと光った。
「あんた・・・・・・!」
いたのかい、と放心したように次元が言う。兼定が光を強めた。
「旦那が止めたのだろう、無益な復讐を。」
人が悪いよ、と呟く次元の目から、涙がぽたぽたと落ちる。
「よかったな。」
侍の笑みに、次元はぐしゃぐしゃの顔でにっこりした。
「・・・・・・ルパンに、伝えておくれ。ありがとうって。」
「うむ。」
「あと、この髭にもね。」
「承知した。」
まったくこの髭まだがんばってやがる、と恨み言を言い、次元は突然くすくす笑い出した。
「なんだ、急に。」
「思い出したのさ、この髭のことでね。・・・・・・あんたには教えといてあげるよ。」
耳貸しな、と次元は言い、顔を寄せた五右ェ門に何事か囁いた。みるみるうちに侍の顔が真っ赤になっ
ていく。
「じゃあね、ありがとう。」
「おい、椿・・・・・・!」
呼ぶ五右ェ門の手から、兼定がふっと消えた。
「・・・・・・。」
呆然と佇む侍に、「お、やっと逝ったか」と次元が声をかける。
「・・・・・・ああ。」
「なんだこりゃあ、ぐしゃぐしゃじゃねえか。」
自分の顔をゴシゴシ拭く次元を直視できず、侍はさりげなく目をそらした。
「それじゃ、ずらかるか。」
のんきな声で、次元が言う。
*
夜道を走る二人の前方に、ルパンの気球が飛んで行くのが見えた。
「むちゃくちゃしやがんな、あいつ。」
「・・・・・・。」
黙々と走る五右ェ門を、次元はチラリと横目で見る。来た時と同じ艶めいた格好だが、顎をぐいと出し膝
をつけずに走る様はやはり男のそれで、ああ五右ェ門が帰ってきたと次元は思った。・・・・・・だがそれなら
ば、これは一体なんだ。
「!」
不意に五右ェ門が足を止めた。
「どうした。」
「・・・・・・鼻緒が。」
大きなサイズとは言え女物の草履だ。飛んだり走ったりするようにはできていない。
屈む侍に、「立ちな」と次元は声をかけた。
「・・・・・・?」
不審気に立ち上がる侍を、ひょいと抱え上げる。
「な、何をする!」
驚く五右ェ門を間近で見つめ、やっぱりそうだと次元は確信した。暴れる侍に構わず、走り出す。
「下ろせ、次元、この馬鹿者!」
「いいじゃねえか、お姫様。」
飛ぶように次元は夜道を駆けた。アルファロメオのシートにどさりと下ろし、ふて腐れたような侍の顔を
覗き込む。
「・・・・・・なあ、五右ェ門、」
「・・・・・・。」
「お前、何かあったか?」
「!?」
明らかに、侍は狼狽した。
「べ、別に何もない。・・・・・・なぜだ。」
そっぽを向く頬に、次元の手がかかる。ゆっくり近づき囁く声が、耳にかかった。
「・・・・・・何か出てんだよ、お前。」
「・・・・・・!」
厚い唇が、抗弁を阻んだ。
入ってきた舌が舐めるのは口内だけなのに、五右ェ門の様々な場所は敏感に反応した。次元が性急
に裾をたくし上げ、太腿をまさぐり始める。ぷぁ、と唇を離し、五右ェ門は叫んだ。
「やめろ、次元! こんな所で・・・・・・!」
「お前が変なもん出すからだろ。」
口についた紅をぐいと拭い、次元は侍の襟をこじ開ける。音を立てて首元に吸い付かれ、息も絶え絶え
になりながら、五右ェ門はなおも抗議の声を上げた。
「変なものなど出しておらん、・・・・・・っ、・・・・・・この格好のせい・・・・・・だろう・・・・・・!」
「いいや違う。来る時は何ともなかったんだ。」
「・・・・・・!」
それはついさっき、椿も言っていた。
椿が、(つまり自分が!)卑猥なポーズでねだってみせたという話を思い出し、駆け上がる羞恥に五右
ェ門はぎゅっと目を瞑った。次元が顔を上げる。
「おま、また何か出してるだろ。」
「出しておらん!」
真っ赤な顔で叫ぶ侍に、次元はほとんど気の狂いそうな顔をした。
「ああああもおおお! くっそ!」
「!!」
両足を引き上げ、大きく開いた真ん中の隆起に、次元が顔を埋める。五右ェ門が高く鳴いた。無我夢中
で褌を取り去り、現れたものを一度しごき上げると、既に溢れていた先走りで手がぬるぬるになる。その
まま後門に塗りつけ、中指を押し入れた。
「あ! あああ!」
あまりの性急さに、準備ができていなかったのだろう、侍の膝が妙なリズムで跳ねる。ひくひくと震える
ものをなだめるように舐めてやり、ゆっくり喉の奥へ飲み込んでいった。中指を波打たせるように中をや
わやわと刺激すると、侍の喉から、規則的な息が漏れ始める。少しづつ、少しづつ、次元は指の抜き差し
を広げていった。
「・・・・・・ふ・・・・・・っ、ふ・・・・・・っ・・・・・・!」
全てを次元に塞がれた下半身が、自らくねる。動きに合わせて揺れる着物は、いまやほとんど原型を
留めていなかった。きつく締められているのは帯のみで、緩みきった袷は、むき出しの肩や腹を申し訳程
度に覆っているだけだ。
あっけなく、侍は果てた。
一滴残らず飲み干して指を抜き、「五右ェ門」と次元が声をかける。頬を紅潮させ、荒い息を吐く侍の視
線はまだ定まっていない。口をつたうよだれを舐め取ってやると、やっと意識を取り戻したように、こちらを
見た。
「じ・・・・・・げ・・・・・・、」
「愛してるぜ。」
「・・・・・・。」
侍が身を震わせる。深く深く口付け、さまよう侍の舌を捕えて強く吸った。
喉の方まで垂れている雫を辿るようにキスを移していくと、小さく尖った突起が目に入る。あむ、と口に
含んだ。
「んん!」
侍の腰が跳ねる。
「ずいぶん敏感だな。」
「いま・・・・・・、そこを吸うな・・・・・・!」
次元の頭をぐいぐい押して、侍が懇願する。次元の中で何かが燃えた。強く吸った。
「んんんんっ!」
侍の膝が伸びる。
「そんなに好きだったのか、これ。」
「ちが・・・・・・、今は・・・・・・!」
声を殺すように、侍が拳を口に当てる。吸う力を弱め、舌で何度も突起を撫でてやると、頭を押さえてい
た手の力が次第に抜け、熱い吐息が漏れ始めた。ちらりと目をやったそこは、もうびんびんに蘇っている。
「・・・・・・五右ェ門、後ろ向け。」
促すと、侍はきっと睨み返してきた。
まだ何か闘ってやがんな。
苦笑して、白い胸に次元は顔を擦り付けた。
「・・・・・・頼むよ。」
五右ェ門が、大きな息を吐いた。
黙って起き上がり、ゆっくり後ろを向く。
「・・・・・・五右ェ門・・・・・・!」
がば、と後ろから抱きしめると、侍が次元の腕を掻き抱く。もうたまらなかった。
尻を高く持ち上げ、絡み付く着物をめくり上げる。赤い襦袢から覗く双丘にキスをした。
「・・・・・・絶景だ。」
「・・・・・・この阿呆め。」
「違いねえ。」
少し笑った。割れ目を両手で押し広げた。口を開いた後門に、ゆっくり舌を捩じ込んでいく。
「・・・・・・あ・・・・・・、ああ・・・・・・、」
それは、何もかも取っ払った後に侍が放つ声だった。
目を瞑り満足して、次元は前の方へ手を伸ばす。はちきれそうなそれを撫でると、五右ェ門の腰が激し
く揺らめいた。
「次元、もう・・・・・・!」
なんて淫らな声だろう。
「もう、何だよ。」
「・・・・・・!」
振り返る五右ェ門の視線に射殺されても構わないと次元は思った。「くそ、」と侍が呟く。
「・・・・・・入れろ・・・・・・!」
物も言わず、次元は侍の肩を引き掴んだ。座席に納まり、五右ェ門を跨がらせる。侍の熱い体内に自
身を埋める瞬間、肉を押し広げる感覚と共に、訳の分からない声が出た。
「ん・・・・・・、っく・・・・・・、っふ・・・・・・!」
揺さぶるたびに喘ぎを漏らす侍の顎に、頬に、キスをする。
侍が次元にしがみついた。くぐもった声が聞こえる。
「次元、もうもたん・・・・・・!」
「ああ、俺もだ、いくぜ・・・・・・!」
「・・・・・・!」
アルファロメオが、一際激しく揺れた。
*
荒く激しい息と唇を絡ませたまま、折り重なって二人は脱力する。
「・・・・・・やっぱ、聞いときゃ良かったかな。」
ぐしゃぐしゃになった侍の頭を撫でながら、次元が呟いた。
「・・・・・・何をだ。」
顔を上げた五右ェ門に「椿にな、」と言いかけ、次元は口をつぐんだ。
「いや、何でもねえ。」
「・・・・・・。」
身を離し、隣に移りながら、五右ェ門が背中で言う。
「・・・・・・お主は、聞かなかったのか。」
「!?」
夢心地だった次元が、突然跳ね起きた。
「ちょっと待て五右ェ門、お前何聞いたんだ。」
侍は答えず、ただ笑って次元を見た。顔中に口紅の赤が散らされ、乱れ放題の髪が踊っている。
「帰るぞ、ルパンが待っている。」
華のような笑顔だった。
祭の10題目達成作品です。なげーよ(^−^)
ヤマシロはむかし椿に超惚れてたとか、裏設定があります。
ちなみにヤマシロのモデルはアカギです。(^−^)
コバキヨや真樹夫様の、オネエ言葉が聞いてみたい!
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