予期せぬ出来事








ゆだん、した、と侍は言ったらしかった。
切れ切れの掠れ声で、よく聞き取れない。

「無理して喋んな、休んでろ。」

月を映す窓の鉄格子から身を離し、次元は冷たい床に腰を下ろした。ルパンが来るまで、まだしばらくかかるだろう。
捕われ放り込まれたのは、半地下の狭い物置だった。扉の鍵も外の見張りもどうにだってなるが、同行者がぴくりとも動け
ないとなると話は別だ。
どうやら毒を仕込まれたらしい。仕事を済ませ合流した五右ェ門は、みるみるうちに動きを鈍くしていった。手負いの男を抱
えて逃げることは早々に諦め、ルパンの助けを待つことに決めてしまうと、次元は群がる敵に両手を挙げたのだった。



「・・・・・・首尾は、うまく、いったのか。」

顔の筋肉だけはかろうじて動くらしい。忠告を容れず、侍は苦しい息の下喋り続ける。仲間になって数年、いまだに胸襟を
完全に開かないこの男にしては珍しい饒舌さだった。失態を恥じる気まずさがそうさせるのかもしれないと考えながら、次元
は侍をちらりと見やる。

「・・・・・・心配すんな、バッチリだ。それにしても、そんな体でよくあれが斬れたな。」
「斬ったあと、毒が回った、らしい。」
「・・・・・・痺れるのか。」
「感覚が、ない。」
「これ分かるか。」

肩を叩いてみた。

「遠くで、触られている、ようだ。」
「麻酔みたいなもんだな。なんにしろ、時間が経てば・・・・・・、」

ふと、そこに目が止まった。
乱れた様子もない袴が、中心だけ不自然に盛り上がり、ぴんと張っている。意味を理解するのにしばらくかかった。

「・・・・・・見るな、次元。」

静かな声で、侍が言う。

「・・・・・・ああ。」

悪いことをした。
侍に背を向け、煙草を探す。火器を全て取り上げられたのを思い出して、舌打ちした。
すぐ近くで、梟が鳴いた。



鉄格子の影がずいぶん伸びた。

      何やってんだ、ルパン。

何でもない様子で寝そべったまま、次元は未だ来ぬ相棒に向かって腹の底で毒づいた。背後に横たわる侍の息づかいは
次第に浅く早くなり、今や微かな喘ぎ声すら混じり始めている。
今が一番効いている時間帯らしい。毒の副作用か何か知らないが、ぴくりとも動けない侍を苦しめているのが、痛みや痺れ
でないことだけは確かだった。ただ痛いだけの苦痛なら、こんなに甘い呻きを上げはしまい。

「・・・・・・っふ、・・・・・・んくっ・・・・・・、」

必死に抑えてもなお漏れるのだろう。ガランとした部屋に、ひそやかな声がさざ波のように満ちた。

      これはダメだ。

いたたまれず、手の中の煙草を握り潰した。
これ以上この声を聞くのはまずい。侍にも悪いし、何より俺が     

俺が何だってんだ?

ぎょっとして、それから、考えることを次元は放棄した。むくりと起き上がる。
想像を絶する苦しみの中にいるのだろう、侍の顔は真っ赤だった。涙の滲む目で、ちらりと次元を見上げる。

「・・・・・・すまぬ次元、うるさかっ・・・・・・、」
「目つぶってろ、五右ェ門。」
「・・・・・・?」

訝しげに歪んだ侍の目が、次の瞬間、驚愕に見開かれた。

「・・・・・・じ・・・・・・げん・・・・・・!?」

手の中でそれが、まるで拒むようにびくびくと跳ねる。熱かった。無言で侍に背を向け、何も見ないようにして、それを撫でた。

「・・・・・・や・・・・・・めろ、・・・・・・な、にを・・・・・・!」

横たわった体はやはり全く動かない。それでも、感覚は戻り始めているようだった。しゅ、しゅ、とこする手に煽られるように、
荒い息が上がる。

「・・・・・・くっ、・・・・・・っふ・・・・・・、は・・・・・・!」

こらえ切れずに漏らす鳴咽の狭間で、侍がうわ言のように、よせ、やめろと繰り返す。
楽にしてやりたいだけだ、と自分に言い聞かせた。激しく動かすほどに、侍の声が切なく駆け上がってゆく。これが聞きたい
訳じゃない、早く終わらせたいだけだ。畜生!

      なんで俺が勃ってんだ!

腹立たしいやら胸苦しいやら、訳の分からない感情がせり上がって弾けそうだ。ほとんど八つ当たりのような勢いで、次元
は手を動かし続けた。
「じげん」と名を呼ばれ、ハッとした。
か細い声だった。

「・・・・・・頼む、もう・・・・・・、やめ・・・・・・、」

手の中のそれは限界まで漲っているのに、ヒク、ヒク、と動くだけで一向に爆ぜる気配がない。毒に冒されどこにも行けない
侍の苦痛は、結局、次元の手で取り除けるものではないらしかった。

「・・・・・・。」

手を離し、ぐったりと次元は横たわった。
闇が、二人を飲んだ。



    *



「ねえ、どうしちゃったのあの二人?」

優雅な手つきでティーカップを置き、不二子はルパンを覗き込んだ。

「だろー? 俺にもサ〜ッパリだ。」

声を潜めてルパンが目配せする。視線の向こう、ソファに陣取る侍とガンマンは一見いつも通りだったが、二人の間に漂う
空気はただ事でなかった。

「こないだのヤマ、二人してとっ捕まって、俺が迎えに行った時にはもうあの調子よ。」
「何かあったのね。」
「ま〜ったく、俺の知らないとこで喧嘩なんかしや〜がって。」

ふて腐れるルパンをつと眺め、不二子は呆れたような声を上げた。

「馬鹿ねルパン、あれは逆よ。」
「ぎゃくゥ!?」

ポカンと口を開けたルパンが思わず二人を振り返り、口を開けたまま向き直る。

「そ〜れはないんじゃない不二子ちゃん。」
「あなたって、」

クスリと笑う女の唇が、滑らかに光る。

「変な所で鈍いのね。それとも、心のどこかでそれは嫌、って思ってるのかしら。」
「何でえそりゃあ。」

ますます渋い顔になるルパンの手を、不二子はそっと搦め取った。

「賭けてもいいわよ、あたし。」
「お?」

つつ、と掌を撫でる女の指を取り、「いいね」とルパンが目を細める。

「乗るぜ。じゃあ俺が勝ったら、不二子ちゃん何でもしてくれる?」

「いいわ。その代わりあたしが勝ったら・・・・・・、」
「も〜ちろん、何だってしてあげちゃうあげちゃう♪」

突き出された男の唇をヒラリとかわし、不二子は「約束よ」と囁いて立ち上がった。

      それにしても、あの二人がね。

重苦しい空気を背負い、次元と五右ェ門は仏頂面で向かい合っている。
こらえ切れず、不二子は笑みを漏らした。



     *



「・・・・・・なに?」

早朝の修業帰りで微かに上気していた侍の顔は、ルパンの一言で俄かに血の気を失った。

「・・・・・・だから、いなくなったの、次元が。」

なぜか決まり悪そうにルパンが頭を掻く。マグナムとキャッシュカードがない、とか、今朝早く出たんじゃねえか、とか言うル
パンの言葉を、五右ェ門はほとんど放心して聞いた。

「・・・・・・五右ェ門?」
「・・・・・・ああ。」

我に返り、「すまん」とルパンに詫びる。

「・・・・・・拙者、ちと、失礼する。」
「大丈夫か、お前。」
「何がだ。」

つい語調がきつくなった。ルパンが「いや」と片手を上げる。

「・・・・・・すまぬ。」

踵を返し、自室に向かった。
閉めたドアに寄り掛かり、頭を抱える。

      拙者のせいだ。

出て行くとしたら、それは自分であるべきだった。次元は何一つ悪くない。
あれから三日、五右ェ門は次元に声を掛けようとしては失敗していた。何と言っていいか分からなかったというのもあるが、
何より、見たこともないような男の沈鬱な表情に、力一杯拒絶されているような気がしたのだ。
あんな顔になるのも、無理はなかった。
次元にしてみれば、あれは身の毛もよだつような経験だったに違いない。自分にもっと忍耐があれば、騒々しく苦しんでみ
せたりしなければ、不本意であろうあんな行為に次元が手を染めることもなかった。

      不本意。

胸がぎゅう、と音を立てた。
この痛みは何だ。      いや、本当は分かっているのではないか。
自らに問うた。

お主は、嫌であったか。

目を閉じる。もうこれで何度目か分からなかった。蘇るのはいつもあの感覚だ。
毒のせいで厚い被膜に隔たれたような、思うに任せぬ浮遊感に包まれてはいたが、男の手は、確かに侍の猛々しい部分を
煽った。
頑なな背を見せる男の、手だけがひどく荒々しかった。

      やめろ!

薄甘い高揚を振り切るように、侍は両手で頬を叩いた。
ふと思い至る。もし、次元が出て行った理由が、こんな自分にあるのだとしたら。

慄然とした。

激しく頭を振る。自分にそんな趣味はない。あの男はただの同僚だ。
はっきりさせなければ、と思った。何より、次元のために。あの男が純粋に自分を救おうとしたことは分かっている。自分は
それを素直にありがたいと思っている。それで終わりだ。それだけだ。



ドアを開けると、ルパンがいた。「ん」と言って差し出されたメモには、「45 Creffield Road」とだけ記されている。

「・・・・・・何だ、これは。」
「次元な、多分、そこにいるから。」
「・・・・・・。」

何と言っていいか分からない五右ェ門に、ルパンは片目を瞑ってみせた。

「頼んだぜ、五右ェ門。ちゃ〜んとあのバカ連れて帰れよ。」
      承知。」

メモをおしいただき、男に背を向けた。



「・・・・・・いいの? ルパン。」

廊下の陰から不二子が現れる。「しゃああんめえよ」と、ルパンはため息をついた。

「・・・・・・あいつのあんな顔見ちまっちゃあな。」
「あなたって、ほんと馬鹿ね。」
「あたた〜。」

相変わらず厳しいねえ、と首を振り振りルパンが去ってゆく。その背に向かって、不二子は呟いた。

「・・・・・・そういうところ、嫌いじゃないけど。」

微かな声は、もちろんルパンに聞こえない。



     *



やけにジメジメとした場所だった。
近くに沼地でもあるのか、腐ったような水の匂いがする。虫の音に混じって、時折、牛蛙が思い出したようにブー、と鳴いた。
煌々と照る月は、三日前の姿より少しだけ欠けている。
あの晩も、月が明るかった。男の背中越しに、それが見えた。

      だから、思い出すなと!

ぶん、と首を振り、挑むように戸口に立つ。
ノックしてほどなく、ドアは開いた。呆けきった顔が覗く。

      !」

全く予想外の来訪だったらしい。侍を見るやいなや蒼白になった男の口から、煙草がぽろりと落ちた。ぎゅうう、と絞まる胸
を無視して、五右ェ門は声を張り上げた。

「忘れろ次元、拙者も忘れる。」
「・・・・・・。」

落ちた煙草に男がのろのろと視線を移す。何か言った。

「・・・・・・よ。」
「何?」

覗き込もうとする侍から逃れるようにして、男はドアを引き掴む。

      忘れられたら苦労しねえよ。」

勢いよく閉まりかけたドアに、侍は体を無理やり挟み入れた。

「なにす      、」
「すまぬ次元!」
      ?」

一瞬、男はぽかんとした。すぐ我に返り、「お前が詫びるこたねえ」と吐き捨てて再びノブに手を掛ける。

「いや、拙者が悪い。あんな気色の・・・・・・、悪い・・・・・・、」

顔が赤くなるのが分かる。自らを叱り飛ばして続けた。

「・・・・・・気色の悪い思いをさせて・・・・・・! お主が塞いでしまうのも無理はない。だが拙者には分かって、」
「いいから、お前もう帰れ。俺に近付くな。」

ぐいぐい身を乗り入れる五右ェ門を、次元が押し戻す。

「そういう訳にはいかん。お主が元に戻るまでは・・・・・・、」

「畜生」と次元が呟いた。


突然、息ができなくなった。


      !?」

押し付けられた男のシャツに、侍は喘いだ。
背に回されているのは男の腕か? こめかみに当たっているのは、まさか     

「・・・・・・次、元?」
      お前は悪かねえ。」

男が喋ると同時に、こめかみのそれがむにむにと動く。唇だということがどうしても信じられなかった。髭が痛い。

「・・・・・・お前のせいじゃねえ、俺がおかしいんだ。」
「だから、それは拙者の、」
「あれを思い出すと勃っちまう。」
      、」

抱きすくめた五右ェ門をようやく離し、次元は「引いたろ」と笑った。苦しげに歪んだ笑い顔に、体の奥がくうう、と変な音を立
てる。
なんだこれは。
自分に確認するように、ゆっくり言葉を口にした。

「・・・・・・拙者は、お主を、そういう目で見たことはない。」
「・・・・・・俺だってねえよ。」

食い入るように見つめ合った。
次元の無骨な指が、顎に触れる。どうして自分が目を瞑るのか、分からない。

固い唇だった。

「・・・・・・嫌じゃ、ねえのか。」

窺うような声に、目を開けた。意外の念をありありと浮かべ、次元が見つめている。自分でもそう思う。

「・・・・・・拙者も、おかしいらしい。」

また、息ができなくなった。



    *



引きずり込まれた部屋は真っ暗だった。あちこち蹴つまずいた末、柔らかなものの上にどさ、と倒される。ソファか何からし
い。
全てが信じられなかった。触れる肩や握り合う指がいちいちゴツいのも、次元の匂いに自分がひどく興奮しているのも。何
より信じられないのは、男のやりようだった。

      こんなに優しいとは、聞いておらぬ!

そっと吸われる首筋が、耐えがたいほど甘く疼く。次元が身を離し、「ん?」と聞いた。

「・・・・・・何でも・・・・・・、ない・・・・・・。」
「五右ェ門・・・・・・、」

      だから、そんなに優しい声で呼ぶな!

「・・・・・・また、撫でていいか。」

      抗えないではないか!

黙って目を瞑ったのを承諾と取ったのだろう、手が伸びてきた。

     !」

この前と全然違う。男の手の厚みも欲情も葛藤も、全部ダイレクトに伝わってくる。たまらず体を捻った。

      駄目だ。」

ぐい、と両手を押さえられ、頭の上で繋ぎ留められる。

「・・・・・・顔が見てえ。こないだは見れなかったからな。」

少し闇に目が慣れて、ニヤリと笑う次元の顔が見える。そんな風に笑うくせに、男の手つきは壊れ物を触るようにはかなく、
優しかった。絶え間ない愛撫の合間にきゅっと握られると、意に反してびくう!と体が跳ねる。抑えようとして、五右ェ門は必
死で四肢に力をこめた。

「・・・・・・そんな顔して耐えてたのか、あの時も。」

見下ろす次元が、ごくりと喉を鳴らす。

「お主こそ・・・・・・、」
「なんだ。」
「・・・・・・ずいぶん辛そうではないか。」

無理矢理笑ってみせた。
男の目つきが変わった。

「・・・・・・っあ!」

あてがわれた手が、遠慮なくそこをしごき始める。快感がぎゅんぎゅん集まってきた。まずい。このままでは、

「・・・・・・イクか?」

男が顔を寄せて囁く。ぶんぶんと首を横に振ると、手が更に早まった。

「じげん・・・・・・!」
「見てえ、五右ェ門・・・・・・!」

い、やだ、と言った瞬間、全てが放たれた。
熱い液がじんわりと布に広がっていく。「やべ」と慌てるような次元の声を、五右ェ門はまだ抜け切らない恍惚の中で聞いた。

「袴が・・・・・・、」

濡れた袴を脱がそうとする男を押しのけ、起き上がった。

「・・・・・・袴など、いい。」
「五右ェ門?」
「脱げ、次元。」
「な・・・・・・、」

唖然としている男に、掴みかかった。

「拙者も見なければ、気が済まぬ。」
「・・・・・・。」

次元が、不意に笑った。

「いいぜ。」

五右ェ門の手を離し、男がシャツを無造作に脱ぎ捨てる。こちらを見据えたままスラックスを下ろし、ゆっくり下着を引き下
げてみせた。

      、」

そそり立つそこに見入る侍に「どうした」と笑い、次元は自らを軽くしごき始める。
気づくと男の手をはがしていた。次元が何か言う前に、そこに唇を付けた。

「うお・・・・・・!」

思わず声を上げる男を見上げ、目だけで笑ってやった。

「・・・・・・ずいぶん、急くじゃねえか。」

次元が頭を撫でる。お主だって、今にもイキそうではないか。黙って熱いものを啜り上げた。

「・・・・・・ぅう・・・・・・!」

先走りが口中に溢れる。くっ、とか、ふう!とか、初めて聞く次元の喘ぎに、自分のものもきゅんきゅん疼く。急かしているの
はどっちだ。煽られるままに、五右ェ門は次元をしゃぶり上げた。

      っ待て、五右ェ門!」

いきなり引き抜かれ、「なんら」と変な声が出る。肩で息をしながら、次元が侍をソファに押し戻した。乱暴に袴を剥ぎ取られ、
両脚を思いきり広げられてから、ようやく男の意図に思い当たる。

      まさか。

褌がぐい、とずらされ、指で割り広げられた。剥き出しになったすぼみに男の吐く息が当たり、次いでぬめった舌がぬるん、
と触れる。思わず声が出た。一瞬、次元と目が合った。

     !」

突然襲い掛かった見知らぬ感覚に、侍は身をよじり腰を上げて暴れ狂った。尻穴を派手に舐め散らかしながら、次元が、
捕まえた両脚をがっちりと抱え込む。身動きもできず、侍はただ悶え続けた。男の舌にいたぶられるその感覚が、だんだん
甘い疼きに変わっていくのが耐えられない。必死で抗う侍の尻が、さらに広げられた。前触れもなく、尖った舌が捩じ込ま
れた。

「〜〜〜〜〜!」

徐々に侵入されるそこから、今度ははっきりとした快感が湧き上がってくる。次元の手が褌の前に突っ込まれた。ヌルヌル
の性液を拭い、そのまま軽くしごき始める。後ろも前も次元に甘く攻められて、五右ェ門は腰を揺らめかせ声を上げ続けた。
狂う、と思った。
不意に手が外され、舌も引き抜かれた。ふ、と息をついた瞬間、

「・・・・・・んん!」

指を奥深くまで入れられ、五右ェ門は痛みに呻きを上げた。物も言わずに次元はそこを広げ続ける。

「次元、・・・・・・待て、・・・・・・次元!」

必死で腕を押さえ付けると、男はようやく「なんだ」と顔を上げた。五右ェ門を見ているようで、見ていない。

「お主、入れるつもりか。」
「嫌か。」
「当たり前だ。」
「・・・・・・。」

どこか朦朧としたような次元の目が、ふいに焦点を結んだ。

「そうか。・・・・・・悪かった。」

ゆっくり指が引き抜かれる。ホッとしたせいか、抜ける瞬間、「んぅ」と声が出た。慌てて咳ばらいしてごまかしたが、次元の
反応はない。
そっと顔を上げ盗み見て、五右ェ門は息を飲んだ。

      次元!」

男はそれどころではなさそうだった。
あんぐりと口を開け、今にも侍のものを飲み込もうとしている。

「待て、じ、・・・・・・んんっ!」

温かいものに根元まで包まれたかと思うと、厚い唇が先端に向かってぬるう、と滑る。

      詫びだ。」

一言放った口が、また先端にしゃぶりついた。外気に晒された竿の部分に添えられた手が、ゆっくりそこをしごき始める。

「・・・・・・っ!・・・・・・ん・・・・・・!」
「気持ちいいか、五右ェ門。」

      いいも悪いも!

のたうち回り、五右ェ門は声を上げまいとして歯を食いしばった。
高ぶりはもうそこまで来ている。だめだ、まだ、次元が     

「お主      、お主は・・・・・・、」

伸ばした侍の手を軽く握り返し、「気にするな」と次元は笑った。

「すげえ・・・・・・、脈打ってるぜ、五右ェ門・・・・・・、」

ちゅ、ちゅ、と派手な音が響く。

      堪えろ!

不意に、握られていた手が自由になった。機に乗じて体勢を整えようと肘を付いた瞬間、五右ェ門はそれを見た。
隆々と勃起した黒いものを、男は自ら激しくしごいている。

「次元!」

自分でもびっくりするような大声が出た。
面食らい、次元が顔を上げる。

「・・・・・・なんだ、ご」
「入れろ。」
      、」

起き上がり、まがまがしくそそり立つものから次元の手を無理やり外した。苦しげに男が横を向く。

「いや、やめとけ、お前・・・・・・、」
「いいから入れろ。好きだ、次元。」
「・・・・・・!」

変貌した男の顔を長く見ていることはできなかった。歯が当たるような接吻を受け止めながら、五右ェ門は、尻の穴に次元
が押し当てられるのを感じた。来る、と思う間もなく、

      いっ     

経験のない衝撃と痛みに、目の前が真っ白になった。

      門、五右ェ門!」

次元の声が聞こえる。薄目を開けるのにしばらくかかった。心配そうに覗き込む男の顔に、吹き出しそうになる。

「いてえか、五右ェ門、大丈夫か。」
「・・・・・・少しは、加減しろ。」

苦しげな侍の声に「すまん」と詫びる次元の声も上ずっている。

      抜くか、五右ェ門。」
「いま・・・・・・、動かすな・・・・・・。」

ゆっくり起き上がり、そこを見た。根本まで完全に入ってしまっている。信じられない思いで見つめていると、萎えた侍のも
のに次元の手が添えられた。

「・・・・・・撫でるのは、いいか。」
「・・・・・・。」

よくない気がしたが、返答を待たず男はさすり始めた。そっと動かすのは侍を撫でるその手だけで、挿入した部分は微動だ
にしないのに、はー、はー、と荒い息が次元の口から漏れ始める。

「・・・・・・気持ちいいのか、次元。」
「・・・・・・すげえ、いい・・・・・・、」
「・・・・・・。」

五右ェ門自身がむくむく、と大きくなった。

「・・・・・・。」

次元が、手を早めた。
まだ動かさない男のものが、侍の中でもうはっきり分かるくらい激しく脈打っている。撫でてやりたい衝動に駆られたが、そ
れは今、五右ェ門の中にあるのだった。

「・・・・・・次元。」

男の首に腕を絡めた。次元が驚く間もなく、侍の腰がゆっくり動き出す。

「・・・・・・ごえ・・・・・・も、ん・・・・・・?」

目で問う男にく、と笑い、侍は囁いた。

      来い、次元。」
     !」

男の顔が、けだもののそれに変わる。

      後悔すんなよ。」

凄まじい衝撃に襲われ、侍は呻いた。
一番奥まで突っ込んだそれを激しく動かしながら、次元も何か呻いている。堪らずのけぞった侍の腰を、ぐいと抱え上げた。

「すげえ・・・・・・、」

結合部を食い入るように見つめながら、男は腰を波打たせ続ける。そんなところを見るな、と言いたいがもう声が出なかった。
こすられる中がじんじんと熱を帯び始め、特にある一箇所が狂おしいほど疼く。次元のものがそこをなぶるたびに息が荒が
るのを抑えようとして、五右ェ門は歯を食いしばった。

      ここか? 五右ェ門。」

悟られた。次元が先端を回すようにして、ぐりぐりとそこに押し付ける。「ちがう」と言ったつもりだが、男は笑うばかりだった。

「イこうぜ、一緒に。」

乳首に吸い付き、侍のものをしごきながら次元が囁く。無理だ、自分はもう今にも達してしまいそうなのに。かぶりを振る五
右ェ門の頬を掴み、次元が激しく口付ける。吸い尽くされて目を開くと、泣き出しそうな顔が見えた。男が、口を開く。

「俺も、好きだ。」
「・・・・・・!」

何か言う前に、快感が来た。
熱い手の中に解き放った瞬間、侍の中に男がぶっ放した。
後のことは、よく覚えていない。



     *



一緒に帰るのは死んでも嫌だとゴネてみたが、侍の答えはにべもなかった。

「お主を連れて帰るとルパンと約束した。連絡しておいたから、アジトで待っているはずだ。」

うええ。
きっとさぞかしニヤニヤしてやがるんだろう。
引きずられるようにしてたどり着いたアジトのドアを眺め、次元はため息をつく。

「何をしておる、入れ、次元。」

へーへー。
ドアを開け、「たでーま」と声を掛ける。奥から、「おけーり」と声がした。次元の声に負けず劣らず、元気がない。

「・・・・・・?」

リビングのソファに納まるルパンは、ニヤニヤどころかしょげ返っていた。横に立つ不二子はやたら生き生きしている。

「おめでとさん、お二人さん。」

ヒラヒラと手を振るルパンに、五右ェ門が「何の話だ」とうそぶいた。耳まで真っ赤にしやがって、それじゃ丸分かりじゃねえ
か。頭を掻き、次元は「ありがとよ」と言ってやった。侍がますます赤くなる。

「あたしの勝ちね、ルパン♪」

高らかに不二子が宣言するのを見て、そういうことかよ、と次元は心底ゲンナリした。本当に帰ってくるんじゃなかった。

「約束よ、何でもしてくれるんでしょ。」
「分〜かったよ。」

自業自得だぜ、ルパン。
うなだれていた男は急に顔を上げた。ほとんどやけくその勢いである。

「男に二言はねえ。何でも言いな、不二子。」
「じゃ言うわ。キスして、ルパン。」
「・・・・・・へ?」

予想外の答えに、ルパンも次元もぽかんとした。

「あら、そんなにイヤ? じゃあいいわ。」

くるりと背を向ける不二子より早く、ルパンがその前に回る。

「とととと〜んでもない! 喜んで!」

細い肩を抱き寄せ、んー、と唇を突き出してから、こちらを向いてルパンは顔をしかめた。

「・・・・・・何してんだお前ら、ちったぁ気ぃきかせろ。」
「ったく、付き合ってらんねえよ。五右ェ門、行くぞ。」

まだよく分かっていない様子の侍を促し、部屋を後にする。



     *



「・・・・・・お前も、いつだってねだっていいんだぜ。」

ドアを閉め声を掛けると、五右ェ門は目を剥いた。

「ば、馬鹿を言え、あのような真似ができるか。」
「じゃ俺がねだるのはいいか?」
「なに?」
「キスしてくれよ、五右ェ門。」

軽く顎を上げてみせると、侍はぐ、と詰まった。
辺りをそっと伺ってから、ゆっくり近付いてくる。次元の帽子を少し上げ、肩に手を掛けると、小さな声で言った。

「・・・・・・目をつぶれ、次元。」
「はいよ。」


笑い出しそうになるのを堪え、幸せな気分で次元は目をつぶった。


ドアの向こうで聞き耳を立てている二人に、お前ら絶対物音立てるんじゃねえぞ、と思いながら。
















2009年12月29日に発行したジゲゴエ小説コピー本「4*5」掲載作品です。
本をお読みになった方はお気づきかと思いますが、作品には必ず「45」という数字をどこかに入れようという示し合わせがあ
りました。私のはあまりうまくいっておりませんが(^−^)。
しかし、本当に君はなれそめものが好きだね! ええ大好きです(^−^)!

このお話に、砂糖蜜子さんが挿絵をつけてくださいました!→こちら(エロ注意)



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