UNDO(後)






五右ェ門が出て行ってから、何日かが過ぎた。
正確に何日かは分からない。窓も戸も閉め切ったので、今が昼か夜かも分からなかった。暗い部屋の中で、次元は酒瓶と一
緒にただ転がっている。どうして自分がこんなに荒れているのか、それも分からなかった。そのうちきっと五右ェ門が、耳のな
い姿で戻ってくる。そう思うと訳もなく苦しくなり、手近な瓶を掴んで煽ってはまた転がった。

トイレに行こうと部屋を出たときだ。玄関の外で、すんすんという鳴き声が聞こえた。

「まさか・・・・・・、」

ドアに駆け寄り開けた途端、白銀の塊が飛びかかってきた。

「イシカワ!」

尻餅をついた次元に、イシカワは尻尾を振って体をすりつけてくる。反射的に撫でてやりながら、次元は混乱する頭を何とか整
理した。イシカワが戻ってきた。まじないはまだ解けてない。
つまり五右ェ門は、女とキスをしていない。
「・・・・・・、」
へなへなとその場にへたり込む。胸を塞いでいた重しが急に軽くなったような感覚が、さらに次元を混乱させた。これは何だ。
呆然とする次元の首に、イシカワがまた顎を乗せてくる。いつものように撫でてやることが、もうできなかった。
何だこれ。何だこれ。
頭の中がぐるぐる回る。よそよそしく置いた手が不満なのだろう、イシカワが鼻を鳴らした。床に伸びたまま次元は考え続けた。



眩しさにふと目を覚ます。いつものリビングの床だった。部屋は真っ暗だ。何か、いま明るかったような気がしたのだが。
腕の中で何かが動いた。ああ、イシカワか、おとなしくしろ。抱き直そうとして、その体に毛が生えていないことに気がついた。

「・・・・・・うわあああああ!」
「な、なな、何だお主!」

全裸に首輪をつけただけの五右ェ門が、腕の中で跳ね起きる。慌てて突き飛ばし、次元は飛びすさった。

「ち、違うんだ五右ェ門、・・・・・・お前元に戻ったのか・・・、これはあれだ、イシカワが・・・・・・!」
「・・・・・・、」

闇の中で、裸の侍が着物を探しているのが分かる。床にたたんであるそれを押しやると、こちらに背を向けて五右ェ門は身に
つけ始めた。呻くように言う。

「・・・・・・また戻って来てしまったのか、拙者は。」
「ああ。今夜・・・・・・。」

心臓が飛び出しそうなくらい脈打っている。「部屋に戻る」と言い残し、次元はほうほうのていでリビングを出た。震える身体に、
五右ェ門の体温が、体の重みが、まだ残っている。いま分かった。なんてことだ。

あの侍が好きだ。
そして問題は何一つ解決しねえ。



     *



翌朝、五右ェ門に呼ばれて、次元はリビングに入った。朝の身支度をきちんと済ませ、侍は床に端座している。久々に開けた
窓から入る光が、男の黒髪を照らしていた。何だかもう眩しくて仕方がない。

「・・・・・・外してくれぬか。」

首輪をつまみ、五右ェ門が次元を見上げる。どうして今まで気がつかなかったのだろう。ふわふわと甘くてどこか落ち着かない
この浮遊感を、侍といるとき次元はいつも感じていた。それがどういうことか、今になってやっと分かるとは。

「――― 五右ェ門。」

好きだ。

「・・・・・・俺も一緒に連れて行け。」
「・・・・・・。」

侍が目を伏せる。構わずに次元は続けた。

「俺に見られずにまじないを解きたいんだろ、分かってる。だが、イシカワになった途端、俺んとこに戻って来ちまうんじゃ、一緒
に行くしかねえだろう。」
「・・・・・・。」

無言はすなわち同意と取るべきだろう。五右ェ門には惚れた女がいる。みぞおちが締めつけられる。

「その・・・・・・、」

言葉が続かない。喉の奥につかえた塊を飲み込み、次元は言った。

「・・・・・・女を・・・、俺は見ない。約束する。五右ェ門、協力させてくれ。」
「・・・・・・。」

長い沈黙ののち、侍が頭を下げる。

「・・・・・・すまぬ、次元。」
「五・・・・・・、」
「それはできぬ。頼む、一人で行かせてくれ。」
「どうすんだよ、それで。」
「修業だ。修業でこの想いを断つ。」
「な・・・・・・、」

絶句したのは呆れたからではない。「想い」を侍が初めて口にしたからだ。馬鹿か俺は。分かっていたことじゃねえか。動揺す
る自分を罵り、侍を諭す。

「よく考えろよ五右ェ門。無理に断つ必要なんかねえだろう。それにすぐイシカワになっちまうんじゃ、修業も何も、」
「――― やってみなければ分からぬ。」

強い口調だった。顔を上げ、五右ェ門が次元をしかと見る。

「この想いは断たねばならぬ。己に克つとはそういうことだ。何としても克つ。ここでは―――、」

言葉を切り、ためらってから、侍はそれを言い直した。

「――― お主がいては・・・・・・、それができぬのだ。」
「・・・・・・。」

――― そうか。
邪魔になっちまうのか、俺は。

侍が次元を見上げる。苦渋と葛藤を浮かべて、次元を見る。そんな目をするな、五右ェ門。すまねえ。
俺はとうとう役に立たなかったな。
鍵を取り出し、男の首に下がる錠を手に取った。侍が静かに目を伏せる。

五右ェ門―――、

鍵を差し入れようとした手が、不意に侍の顎をくい、と上げた。男が驚いてこちらを見る。

「じ―――、」

そんなつもりは、毛頭なかった。
キスしていた。

「・・・・・・!」

あの甘い浮遊感が体ごと包み込む。どうしようもなく愛しさが募った。すまん五右ェ門、これっきりだ。硬直している侍の頬を、
両手で包む。想いを込めてもう一度だけ口づけようとした、そのとき―――、
侍の体から、ピンクの光が溢れ出した。見たことのあるもやが立ち込め、五右ェ門の姿を包み隠したかと思うと、一瞬にしてか
き消える。

ほわん。

「―――!!」

互いに仰天して、二人は見つめ合った。唇に拳を当て、顔を真っ赤にして侍が後ずさる。

「お・・・・・・、お主、何を・・・・・・!」
「お前、おま、みみ、耳・・・・・・!」
「!」

ハッと気づいて五右ェ門は耳に手をやった。銀色の大きな耳は跡形もなく消えている。尻尾もない。愕然として口をパクパクさ
せたのち、耳のあった場所を手で隠し、侍は次元に背を向けた。

「ちが、これは違うのだ、何かのまちが・・・・・・、」

ぐいと肩を掴んで引き寄せる。両手をはがし、侍の頭をもう一度確かめた。耳はない。思いきり男を抱き締めた。

「!!」
「お前・・・・・・、お前なぁ・・・・・・!」

自分の声が震えている。

「早く言えよ! 五右ェ門!」
「な・・・・・・―――!」

かぶりつくようなキスで、もう何も言わせなかった。激しく吸いつくたびに、侍の喉の奥から、引きつるような音だけが漏れる。

「!・・・・・・!・・・・・・!」
「好きだ――― 好きだ、五右ェ門。お前もそうだったのかよ。」
「せ、・・・・・・拙者は別に、好きでは―――、」
「嘘つけ!」

また唇を塞いでやった。目を白黒させた侍が次元を引きはがし、やっとのことで言う。

「ま、待て、次元。誠か? 本当に・・・・・・、」
「好きだ。何べんだって言ってやる。お前は他に惚れてる女がいるんだと思ってた。俺だったんだな、五右ェ門。なあ。」

もう一度侍の頬を両手で包み、覗き込んで次元は問うた。信じられないという表情で次元を見つめ返し、とうとう侍が、こくりと
頷く。

「五右ェ門・・・・・・!」

挟んだ顔を引き寄せ、口づけた。抱き締めてもまだ現実感がない。侍の頭を何度も撫でて、本当に耳がないことを繰り返し確
かめた。
だらりと下がっていた五右ェ門の腕が、そろそろと持ち上げられる。背中へと回されたその腕にそっと抱き返されて、ようやく次
元は信じることができた。本当に自分だったのだ、侍が惚れていた相手は。五右ェ門が何度も不可解な逃亡を試み、無理に
想いを断とうとしていた理由が、今やっと分かった。
口づけながら薄目を開く。堅く目を閉じ、必死に次元の唇を食む五右ェ門が見えた。

「・・・・・・!」

途端に次元の、何と言うか下の方で、爆発が起きた。慌てて侍の肩を掴み身をはがして、一歩後ろに下がる。

「・・・・・・?」

ぽーっとした目で問う侍に、「いや、」と次元は口ごもった。

「その、何だ・・・・・・。ちょっと、外出て来る。」
「・・・・・・。」

いくら何でもこれはねえ。五右ェ門だって引くだろう。背を向け去ろうとした次元の腕を、取る手があった。

「―――!」

息を詰めて振り返る。真っ赤な顔で手を引く侍と目が合った。まだ首輪がついたままだ。困ったような視線を床に伏せ、小さな
声で、しかし確かに、五右ェ門は言った。

「・・・・・・ゆくな。」
「・・・・・・!」

首だけ捩じ向けたおかしな格好で、次元は硬直した。はっきり言ってもう前は見せられないのだ。

「お前・・・・・・、分かってるのか?」

侍が息を飲む。それからキッと顔を上げ、堂々と言い放った。

「――― どうしていいかは分からぬ。」
「・・・・・・俺もだ・・・・・・、」

引き寄せられるように抱き合った。いいのか五右ェ門、本当にいいのか? 俺はもう止められ―――、
突然、次元の背筋がぴんと伸びた。

「ごえも・・・・・・!?」

とっくにばれていたらしい、その場所を侍の手がしっかり握る。遠慮もせずに撫でくりながら、侍は挑むような目で次元を見た。

「――― 何だ。」

この野郎・・・・・・!

ビンビンに勃ったものを侍に触られていること自体いたたまれないのに、荒い息まで漏らしてしまう自分が情けない。やけくそ
の気分で、次元は侍の股間に手を伸ばした。

「・・・・・・!」

声は上げず、五右ェ門がきつく目を瞑る。気がつかなかった。侍のものも、袴を持ち上げるくらいに張り詰めてしまっている。硬
めの布が邪魔だった。帯を解き、褌を乱暴に緩めて生のそれをモロ出しにする。侍も次元のジッパーを下ろし、前立てから裸
の陰茎だけを引き出した。どちらも興奮していきり勃っている。黙って見つめたのち、示し合わせたように二人は互いのそれを
しごき始めた。

「はぁ・・・・・・、はぁっ・・・・・・、」
「・・・・・・くっ、・・・・・・っ・・・・・・!」

荒い息だけが部屋に満ちる。前屈みになってしまう侍を促し顔を上げさせては、唇を啄んだ。侍の息が激しくなり、絶頂が近い
ことを知る。しごく手は緩めずに、もう片方の手のひらで、ぬるぬるの尖端を撫で回した。

「う・・・・・・っ!」

侍の眉が切なげに歪む。次の瞬間、手のひらに熱いものがびしゅびしゅと当たった。

「・・・・・・んっ・・・・・・、」

無防備な侍のイキ顔を、声もなく次元は見つめた。ほのあかい頬も半開きの唇も、快感のあまり微かに震えている。

「くっ・・・・・・!」

突然波が来て、次元のものも勝手にぶっ放してしまった。抑える余裕もなく、ほとんど侍にかけてしまう。

「うわわ、すまねえ。」
「・・・・・・。」

慌ててティッシュを取り粗相したものを拭おうとして、次元はその手を止めた。首輪をつけ、乱れた衣服からまだ緩く勃つペニス
だけを出したまま、膝立ちの五右ェ門が気まずそうに目を伏せる。突き上げるような衝動が次元を襲った。

――― ひん剥きてえ。

「――― 貸せ、次元。」

ぼそりと言い、侍が次元の手からティッシュを引き取ろうとした。その手を次元は遮る。戸惑いこちらを見る五右ェ門の額にキス
してから、軽く指で突いてやった。ころんと床へ転がった体に、黙ってのしかかる。

「・・・・・・!」

はっとした表情を侍は見せたが、袷をそっと広げる次元の手を押しのけようとはしなかった。どうしていいか分からないのかもし
れない。精液はなだらかな腹と首輪の方にまで散っている。放ったばかりの侍のペニスも精液にまみれ、今はもう力なくてろん
と垂れていた。ごくりと次元は喉を鳴らす。侍の裸を見るのは何もこれが初めてじゃない。いつも緩く開いている袷からは、胸
元なんかしょっちゅう見えていた。だが―――、
こんなにいやらしい乳首だったか・・・・・・!?
つむ、と突いた。白い腹がひくんと震える。左右のそれをつまんでみた。侍は下唇を噛み、耐えている。こりり、と指で乳首をす
り合わせてみた。陰茎が明らかに持ち上がった。

「・・・・・・!」

気がつくとしゃぶっていた。舌を絡ませると、もう侍が荒い息を抑えられなくなる。舐めては指でこね、ぴんぴんに尖ったものを
唇に含んでは、甘く吸い上げた。

「・・・・・・っ!・・・・・・っ・・・・・・!」
「――― 感じやすいんだな、お前。」
「違う、こんなことは―――!」

言いかけて侍は口をつぐんだ。ニヤリとして次元はその顔を覗き込む。

「こんなの初めて、か?」
「たわけ・・・・・・!」

身をよじって逃げようとするのを押さえ、乳首の先を軽く噛んだ。声を上げそうになるのを必死に我慢して、侍が体をくねらせる。
波打つあばらから腹への隆起を一気に舐め下ろし、陰毛を梳いて、その先の屹立したものをぱちゅんと口に含んだ。

「・・・・・・ぁ・・・・・・!」

五右ェ門がとうとう声を漏らす。もっと聞きたくて、根本まで唇を下ろした。舌を絡めてしゃぶしゃぶと上下させると、声を上げま
いとがんばる侍が七転八倒して悶絶する。たまらなかった。両足首を掴み、思い切り開いて持ち上げた。

「!?」

腰を引き上げられ、混乱した侍が足をバタバタ動かす。すぐに腿へと持ち替え、親指で、玉袋の更に下の方を割り開いた。

「・・・・・・。」
「やめろ・・・・・・、次元!」

秘められた場所を凝視されているのに気づいた五右ェ門が、慌てふためいた声を出す。

「見るな! そんな所・・・・・・、気持ち悪かろう!」
「俺も、そう思ったんだがな・・・・・・、」

ちゅ、とすぼみに唇をあてた。侍が小さく「ぁ」と漏らす。

「――― 全然だ。」

むしろかわいくすら見える自分はおかしいのだと思う。固くつむった穴を舌でこね、はむはむと唇でほぐした。何が起きているか
分からないのか、侍は硬直している。時折きゅう、とすぼまる様がまた次元を昂ぶらせた。

「・・・・・・気持ち悪いか、五右ェ門。」

舌先が少しだけなら入るくらい、穴が柔らかくなってきた。侍が必死にこくこくと頷く。「そうか」と呟き、穴の周りを思い切り吸っ
た。

「あぁあぁ・・・・・・!」

聞いたこともない緩んだ声が聞こえる。視線を上げると、よだれを垂らしているペニスが見えた。手を伸ばして軽く握り、くちゅく
ちゅとわざと音を立ててやる。

「なるほど、こりゃあ気持ち悪そうだ。」
「お主は・・・・・・!」

仰向けから跳ねるように上体を起こし、侍がこちらを睨みつける。「ん?」と目で問い、陰茎と尻の穴を同時に責めてみた。大股
開きで肘をついた五右ェ門が、のけぞって喘ぐ。

「ぁ・・・・・・! あ・・・・・・!」
「言ってみろ五右ェ門、俺が何だって?」
「お主は・・・・・・、意地が悪い・・・・・・!」
「お前が素直じゃねえんだよ。」

どう、と倒れる五右ェ門の膝を伸ばして、一旦寝かせてやった。くったりしている体をうつぶせにしてやり、腰を抱えてよっ、と引
き上げる。自然、侍は尻を突き出す格好になった。嫌がってまた身をよじる。

「嫌だ、このような格好・・・・・・!」
「まあ、ちょっとイシカワを思い出すな。首輪もついてるし。」
「!」

隙を突いて指を挿れた。

「――― ぁ、」
「いてえか?」
「・・・・・・!」

膝と肘をつき、前方を見つめたまま五右ェ門は声も出せずに固まっている。半分くらい入れた指を抜き、体のあちこちに飛び散
っている精液を掬い取った。再びつぷ、と押し入れた指先を、五右ェ門の菊門が少しずつ飲み込んでいく。許されないことをし
ていると思う。奥へ奥へと進むと、侍が嫌がって白い尻を揺らし始めた。

「やめ・・・・・・ろ、次元、やめ・・・・・・!」
「・・・・・・。」

気絶しそうだ。エロすぎる。
根元まで挿れた指の腹で、熱い内壁を行ったり来たりして撫でてみた。侍が突然跳ね上がる。

「っあ!」
「どうした。」

慌てて指を止めた。這いつくばった胸を激しく上下させ、五右ェ門が息も絶え絶えに言う。

「今すぐ・・・・・・、抜け・・・・・・、次元・・・・・・、」
「・・・・・・。」

関節をほんの少しだけ、曲げてみた。

「ぁあ!」

侍がまた跳ねる。間違いない。指の腹の当たるそこを強く圧すると、侍は床につっ伏し、顔を隠してむせび泣いた。

「んん・・・・・・んん! 次元! 頼む・・・・・・!」
「・・・・・・。」

まともに思考が働かない。無言で指を引き抜いた。途端に崩れ落ちかかる侍の腰を片手で支えて、もう一度精液を掬った指を、
今度は二本、ひくつく穴にゆっくり挿し入れた。

「ああぁ・・・・・・!」

もはや侍の矜持は崩れかけ、声に溶け出してしまっている。床につけた五右ェ門の頬を、涙が伝った。初めてのことに戸惑い
抗いながらも、次元をくわえた蕾を何とか緩めようと懸命に動かしているのが分かる。愛しかった。穴の淵に唇を当て、中の丸
みを帯びた場所を二本の指で交互に撫でながら、入口を舐めてくつろげてやる。

「んっ、う・・・・・・、んぐっ、はっ・・・・・・、」

ぐずるような侍の声が、次元をどうしようもなく掻き立てた。しかしその声を漏らさせているものが苦痛なのか快感なのか、今ひ
とつ判断がつきかねる。

「五右ェ門、気持ち悪いか? やっぱ駄目か?」
「・・・・・・。」

浅い息を短く吐きながら、侍が、涙まじりの顔をこちらに向けた。

「駄目だと、言ったら、お主は、やめるのか。」
「・・・・・・。」

答えることができない。次元を見つめ、侍はふんと鼻を鳴らした。尻を引いて指を強引に抜いてしまい、むくりと起き上がる。

「五右ェ門・・・・・・、」
「・・・・・・。」

膝下に絡まった袴を脱いで押しやったかと思うと、突然侍は膝を開いた。真っ白な腹の下に、萎えた陰茎がふにゃりと垂れて
いる。自らそれをたぐり上げ、もう片方の手で次元のものを掴んだ。

「!」
「男が、」

にじり寄り、腰を突き出して、握った熱いものの先端を尻穴に当てる。くちゅ、という音と、侍の微かな吐息が上がった。

「五右ェ門・・・・・・、」
「これしきのことで怯むな。」
「・・・・・・大丈夫か。」
「知らぬ。」

うそぶく五右ェ門の頬が、涙で光っている。唇を寄せて吸い取りながら、次元は囁いた。

「――― 優しくは、してやれねえぞ。」
「承知の上だ。」

きっと顔を上げ、侍は笑った。

「拙者も、お主と交わりたい。」
「・・・・・・。」

こいつは男だ、と思った。
誰よりも男らしい、こいつは男だ。
はだけた白い肩をぐいと掴み、眩しい侍の顔を見つめて、「分かった」と次元は告げた。

「挿れてえ。我慢しねえぞ、五右ェ門。」
「ん、」

汁を垂らす自分のものをすぼみにあてがい、侍の体を後ろへ倒しながら脚を開く。体重をかけ、尖端を尻穴に少し埋めた。口
をあんむ、と開くように穴が拡がり、次元の劣情をゆっくりと飲み込んでいく。
やばい。もうやばい。
自分のふがいなさが信じられなかった。五右ェ門の中に入っていると思うだけで動悸がして、今にも暴発しそうだ。

「五右ェ門、も少し・・・・・・、力抜けるか・・・・・・?」
「・・・・・・、」

侍が首をのけぞらせ、ふー、と大きく息を吐く。床に置かれた手が、何かを求めてさまよっている。触れてやると、次元の手を強
く握った。握り返し、ぐ、ぐぐ、と押し込んでゆく。
全部入り切らないうちに、次元の動きは止まった。

――― 嘘だろ・・・・・・!

「あ・・・・・・、次、元、お主・・・・・・、」

言うな、五右ェ門―――!

絶頂のてっぺんで、次元は呻く。中で放たれる感覚に仰天しているのだろう、開ききった侍の脚が震えている。全部吐き出して
しまったそれを抜く気力もなく、次元は侍の上に倒れ込んだ。

「――― 大丈夫か。」
「うるせえ。」

泣きたい気分で呻く。こんなことは今まで一度もなかったのに。侍の手が伸びてきて、頭を撫でた。

「・・・・・・小さくなって、きた。」

五右ェ門が、囁くように言う。尻の中で次元を感じているのだ。時折ひくひく震える次元のものに反応するように、侍もきゅう、と
締まる。むくりと次元は身を起こした。

「――― 五右ェ門。」
「何だ。」
「全然足りねえ。・・・・・・もっと、いいか。」
「・・・・・・。」

次元の下で侍が、黙って見つめ返してくる。突然、髭の両頬をむにっとつねった。

「いで、何す・・・・・・、」
「またすぐ果てるのではないか。」
「何だと・・・・・・!? この野郎!!」
「やれるものならやってみろ。」

莞爾と笑う五右ェ門に覆いかぶさり、口づけた。
頬から離れた手が次元の背に回される。もっと感じ合いたい。腹をぴったりくっつけて、ゆっくりと腰を回した。間に挟まれた五
右ェ門のものも、中で柔らかくなった次元のものも、ゆらゆらと漂うように共に揺れる。

「ん・・・・・・、ん・・・・・・、」
「――― 悦いか?」
「・・・・・・。」

侍は目を瞑り答えないが、少しずつ上気していく頬で分かる。気持ちいいのだ。硬くなってきた互いの陰茎が、体の間で主張し
始めた。漕ぐように揺れる二人の動きは徐々に大きくなってゆく。中で放った精液に導かれ、侍の更に奥へ奥へと、次元は滑り
込んだ。侍が、とうとうたまらない声を上げる。

「次元・・・・・・、」
「気持ちいいんだろ。」
「・・・・・・。」

返事の代わりに侍は唇を寄せてくる。吸いながら体を抱き直し、「いくぞ」と次元は呟いた。

「あ・・・・・・!」

ガチガチになったものを一番奥までぐうっとねじ込む。腰を入れ、そのまま中を掻き回した。熱い肉筒はだいぶほどけて、まろ
やかに次元を包む。ただ気持ちよくて、肉に肉をこすりつけた。

「・・・・・・! ・・・・・・!」

声を漏らしながら、侍もこらえ切れぬように動き始めている。あのお堅い禁欲主義者がこともあろうに尻穴の奥をかわいがられ、
目覚めてしまった快感に喘ぎ転げている。自分のせいだ。次元の興奮は頂点に達した。無我夢中で腰を振るほどに熱が生ま
れ、侍の切ない声と共に体に流れ込んでくる。どんどん膨らんで張り詰めていく。侍が手を伸ばした。膨張した熱が一気に爆
ぜた。抱き締めた。世界が無音になった。
腕の中の体温だけが、この世のすべてだった。



     *



首の上の重みで目が覚めた。何かと思ったら五右ェ門の頭だ。汗の光る額にキスしてやると、侍も目を覚ました。すぐに次元
の上からどこうとする男を引き止めて、頬に張りつく黒髪を手で梳いてやる。

「・・・・・・何か、変な感じだな。」
「何が。」

五右ェ門も自分も声が枯れてしまっている。少し笑って、次元は続けた。

「・・・・・・覚えてないだろうがな、イシカワになってた時、お前毎晩こうやって俺の首に乗っかってきたんだぜ。」
「――― 誠か。」

侍がガバッと跳ね起きる。「誠さ」と返し、まあ落ち着けと次元は男を再び引き寄せた。

「――― あれか、イシカワでいる間は、気持ちが素直に出ちまってたってことか。」
「知らぬ。」

五右ェ門は顔を伏せ、もそりと答える。構わず次元は続けた。

「・・・・・・毎晩こうやって抱いて寝てたんだ。かわいかったな。」
「イシカワの方がよいなら戻るぞ。」
「妬いてんのか。」

照れ隠しと知っていて、わざと聞いてやる。「たわけ」とうそぶく男のつむじに、むちゅっと唇を押し当てた。

「やっと分かった。あの狼は、やっぱりお前と繋がってたんだな。」
「・・・・・・。」
「大好きだ。――― お前も、イシカワも。」

侍は黙っている。ただ、次元のシャツを握る手だけがきゅっと締まった。髪をいじる手を止め、頬に手を添えてやる。

「・・・・・・こっち向けよ、五右ェ門。」

侍が顔をゆっくりこちらに向ける。覗き込んで、聞きたかったことを口にした。

「俺に言えなくて、ずっと苦しんでたのか。」
「・・・・・・。」

美しい眉が、少しだけ歪む。小さな小さな声で、侍は言った。

「・・・・・・言えば、仲間でさえいられまい、と・・・。」
「・・・・・・。」

侍が初めて明かした胸の内だ。込み上げてくるものをこらえながら、次元は囁く。

「言ってくれよ、今。」
「―――、」

息を詰め、侍が睫毛を伏せる。「・・・お、」と言いかけては口をつぐみ、とうとう言った。

「――― お主だけだ。」
「―――、」

胸が詰まって何も言えなくなった。五右ェ門を抱き締める。五右ェ門も次元を抱き締める。同じもので心を満たし、いつまでも二
人はそうしていた。



     *



よく晴れた朝、アジトの前に停まった派手なスポーツカーから、ルパンと不二子は降り立った。ここを出てから既に一か月近く
たっている。

「たっだいまー! じげーん、五右ェ門はどんな塩梅だ〜?」

奥の方からどたばたと音がして、ドアがバタンと閉まる音がした。すぐに、ランニング姿の相棒が現れる。

「よ、ようルパン。久しぶりだな。」
「よー次元。五右ェ門ちゃんは?」
「あああいつか、あいつなら元に戻ったぜ。」
「ええっ!?」

びっくりしたのは不二子の方だった。ルパンが不思議そうに女を眺める。

「どったの不二子ちゃん。」
「い、いいえ何でもないの。」
「いよ〜お、五右ェ門!」

ルパンの声に、次元も振り返った。何とか急いで着物は身につけたようだが、侍の頭は寝ぐせでボサボサだ。まあ、今の今ま
で一緒に寝ていたとは分かるまい。次元は腹の中で十字を切った。

「あらら、珍しく遅いのね五右ェ門ちゃん。」
「う、うむ、たまにはな。それより拙者、元に戻ることができた。」
「そうだってな、どれどれ?」

頭をぺたぺたやり、後ろを向かせて、ルパンは耳と尻尾を確かめる。

「おーおほんとだ、よかったな〜。」
「いろいろ心配をかけてすまなかった。」
「ってことはだ、好きな子連れてきてちゅーできたんだな。」

ルパンの無邪気な質問に、侍はぐっと詰まった。

「・・・・・・そ、想像に任せる。」
「にょほほほ、照れちゃって。お前も隅に置けねーのな♪」

うりうり、と侍を小突くルパンの脇で、不二子だけは次元を凝視している。内心舌打ちしながら、次元は素知らぬ顔を押し通した。
さてはこの女、全部知ってやがったな。

「ぃよ〜し!」

ルパンが晴れやかな声を出す。

「五右ェ門も戻ったことだし、仕事の話していっかな。」
「仕事か、久々だな。」
「不二子ちゃんが言ってたお宝があんだろ、こ〜れがなかなか手ごわくってな。お前さん達の力を借りたいのよ。」
「けっ。」

シャツに腕を通し、スラックスを引っかけながら、次元は鼻を鳴らした。

「いいけどよ。この女と一緒ってのは気に食わねえな。」
「・・・・・・次元、後でちょっと話があるわ。」
「俺にはねえ。」
「・・・・・・あなたね!」

堰が切れたように、不二子が大きな声を出す。

「どういうつもりか知らないけど、遊びや冗談なら許さないわよ!」
「何の話だ。」
「不二子! やめぬか!」

慌てて五右ェ門が仲裁に入る。あわや一触即発、という瞬間、

「不〜二子ちゃん♪」

ルパンの声がかかった。

「心配いらないって。こう見えてこいつ、大喜びだぜ?」

つん、と次元の頭を指で突く。三人は一斉に凍りついた。不二子がおそるおそる口火を切る。

「・・・・・・ルパン、あなた知ってたの?」
「な〜んの話かな?」

ウインクを一つ飛ばし、ファミリーの長は意気揚々とドアを開けた。

「さーお前ら行くぞ! お宝が待ってるぜ!」

飛び出して行くルパンを、次元は呆然と眺める。

「・・・・・・あの野郎。」

スポンと帽子をかぶせられ、我に返った。帽子の上から頭を一つ叩いて、五右ェ門がルパンの後を追う。口元にはひそやかな
笑みが浮かんでいた。やれやれ、と次元も笑う。

「・・・・・・何やってんだ、行くんだろ。」

まだぽかんとしている不二子の頭を、次元もポンとやった。女が次元を睨み上げる。

「・・・・・・幸せにしないと承知しないわよ。」
「まるで小姑だな。」
「何ですって!」

パアン、と外でクラクションが鳴った。ほら行くぞ、と次元はジャケットを引っ掴む。慌てて不二子も後に続いた。

「・・・・・・後で全部教えてよね。」
「やなこった。」
「あらそう。・・・・・・ねーえごえもーん! どうやって次元とキス・・・・・・!」
「ななな何を騒いでおるのだ二人とも!」

往来にまで聞こえそうな女の大声に、血相を変えた侍が飛び込んでくる。かしましく出てゆく三人の声に再度のクラクションが
重なり、やがて上がった発進音と共に、すべての音は次第に遠のいていった。













いやはや長くてすみません(^−^)。
「UNDO」は直前の操作を取り消すときに使うコマンドですが、「魔法を解く」という意味もあるようなので、タイトルにしました。
他にも「脱がせる」とか「ゆるめる」とかいう意味があるようです。なかなかいい言葉ですな(^−^)。
五右ェ門の獣化には猫派とか狐派とかいろいろあると思いますが、私は狼派です。ちなみに次元は野良犬です(^−^)。




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