18号の夜
「おかえりー、しのぶさん。」
パソコンに向かったまま声をかける。ただいま、と疲れた声が返ってきた。
深夜である。豪雨と強風のすさまじい埋め立て地に第一小隊帰還のトレーラー音が響いたのは、20分
ほど前のことだった。荒れ狂う台風に振り回され、特車二課の総員「居住」状態が続いている。
「風速40Mだってね〜。大丈夫だった?」
「大丈夫じゃないわ、もう、最悪よ。」
言われて顔を上げ、後藤はぎょっとした。
「この風の中レイバー動かして作業続けるなんてどうかしてると思わない?しかも下手に事故処理しよう
とするから・・・・・・。」
後藤は返事もせずしのぶの姿に見入った。しのぶはたったいま脱いだオレンジのベストをタオルで拭っ
ている。
なるほど「最悪」だ。
頭からバケツの水をかぶったような惨状だった。たった今ほどいた黒髪はぺたんと背中にはりつき、水
滴を落としている。白いシャツなど着ていないのと同じで、肌の色とブラジャーの淡い水色が目に痛い。
苦労してブーツを脱ぐしのぶのズボンはぴったりとヒップラインをあらわしている。
後藤は音もなく立ち上がった。
「・・・・・・言うにこと欠いて労災にしたくないから黙っててくれですって。警察をなんだと・・・・・・、後藤さん?」
顔を上げたしのぶのまつげから、水滴が一粒、落ちた。
「!」
後藤に両手首を決められ、そのまま壁に押し付けられる。
「ちょ、なにするの!」
後藤はしのぶの手首を壁に押し付けたまま、身を少し後ろに引いてしのぶの体を俯瞰した。
「しのぶさん・・・・・・、これはまずいよ。」
「しょうがないでしょ!合羽着ててもこうなんだから。離しなさい!」
身をよじるしのぶの耳に顔を寄せて、ゆっくりと後藤が囁く。
「たまんないよ。そんな恰好見たら。」
「なにバカな・・・・・・、んん・・・・・・、」
濡れた唇がふさがれた。同時に強く抱き締められ、雨で冷えた体が後藤の体温を意外なほど心地よく
迎える。
「あったかいでしょ。」
「・・・・・・濡れるわよ。」
「本望だねえ。一緒に着替えようよ。」
「んぁっ・・・・・・、」
濡れたシャツの上から背中を指でなぞり下ろし、そのままシャツの中に両手を入れる。
「濡れててやりにくいねえ。」
「だからやめなさいよ!」
「それは無理な相談だなあ。だってすごくエッチなんだもの、しのぶさん。」
「な・・・・・・、あぁっ!」
濡れたシャツをたくし上げて乳首を吸う。
「後藤さ・・・・・・、だめ・・・・・・、」
しのぶの声が甘い。
この声だ。この声を聞くと後藤は止まらなくなる。後藤の頭を引き離そうとするしのぶの両手を逆に強く
押さえ、舌で乳首を存分になぶる。
「ん・・・・・・、ふっ・・・・・・、」
「ここ弱いんだから我慢しないでよ。この雨で声なんか聞こえないよ。」
「そういう問題じゃ・・・・・・っ、職場で・・・・・・、」
「もう充分働いたよ。ここんとこ缶づめ状態で我慢し通しだしさ・・・・・・、」
2人の息づかいが次第に荒くなる。抵抗する力がほんの少し弱まった。見上げるとしのぶは顔を紅潮さ
せ、潤んだ目で後藤を睨みつける。
「・・・・・・かわいい。」
後藤がにやりとして呟き、ズボンのベルトに手をかけた、その時。
「・・・・・・はっくしょん!」
大きなくしゃみが隊長室に響いた。立て続けに3つ、しのぶがくしゃみをする。
「・・・・・・。」
後藤の手が止まった。
すっと立ち上がり、無言で席の方へ向かう。
「・・・・・・?」
興ざめしたのかしら。そりゃこんな所であれ以上は困るし、助かったけど・・・・・・。
しのぶがシャツを元に戻している間に、後藤は自分の席を通り過ぎて更衣室へ消えた。大きなバスタオ
ルを持って足早に戻ってくる。
「あ・・・・・・、」
頭から包み込むようにバスタオルでくるまれ、その上から抱き締められた。
「・・・・・・ごめん。」
しのぶが驚いて顔を上げると、後藤は神妙な面もちである。
「あの声聞いたら止まらなくなってさ。しのぶさん風邪ひいちゃうよね。」
バスタオルの上から背中や二の腕をなでる。しのぶはほほえんだ。
「そうよ。風邪引いたら完全に後藤さんのせいですからね。」
「はい。」
「ふふ、バスタオルに免じて許してあげる。まあ私も・・・・・・、」
言いかけて言葉を飲み込んだ。後藤の目が光る。
「なになに?」
「なんでもありません!着替えるわ!」
そそくさと更衣室へ向かうしのぶの手をつなぎとめ、後藤が囁いた。
「台風がやんだら、ね。」
「そうね、風邪ひいてなければね。」
バタン、と閉まる更衣室のドアを眺めながら後藤はため息をついた。
「はやくやまないかねえ・・・・・・。身がもたないよ。」
更衣室の中からくすっと笑い声が聞こえた。
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