サイレント
突然開いたドアの音が、サラ・ヴォーンの歌声を遮った。
小説を置き、次元は顔を上げる。シーツに突っ込んだ脚を組み直し、「どうした」と聞いた。ノックもしないで入ってくるという
のは珍しい。
「・・・・・・。」
ドアを閉めた侍は、答えもせずに突っ立っている。
さしもの剣の鬼も、何も携えない寝巻姿となると、妙に心許ない感じがする。俯いて床の一点を見つめたままだが、怒って
いるというわけでもなさそうだった。サイドテーブルのグラスを取り一口含んで、次元は次の言葉を待つ。
侍が、顔を上げた。
微妙なまなざしを一瞬こちらに向けたかと思うと、ふいと横を向く。こちらを見ようとしては伏せる視線が、ふわふわと落ち着
かなかった。顔が、少し赤いようだ。
「・・・・・・。」
じわりと疼くような予感に、グラスを置いた。手を伸ばし、囁きかける。
「 来いよ、五右ェ門。」
「・・・・・・、」
侍の頭がぴくりと揺れる。促すように、次元はレコードの針を上げた。部屋が無音に切り替わる。
「・・・・・・。」
白い足が、ゆっくり一歩踏み出した。
少し迷うような足取りが、近づくにつれて大股になる。目の前に立ち次元を見下ろした。
まっすぐな視線には、たった一つの感情が篭められている。
黙って、手に触れた。
次元の手をぐいと掴み、侍がベッドの端に膝を乗せる。自制の効いた所作はそれでもひどく男性的で、こいつに抱かれる
女はこんな心境になるんだろうかと、次元はぼんやり思った。
感情の赴くままにのしかかろうとする侍の顎に指を当て、軽く止める。
「・・・・・・どうしたいのか、言う気はねえか。」
「・・・・・・。」
次元の指をそっと外し、五右ェ門の唇が言葉を奪った。言わないつもりか。それもいい。
柔らかな口づけを交わしながら、侍の襟首に両手を差し入れた。すっと広げて両肩をさらけ出し、そのまま着物を引き下げ
ると上半身があらわになる。自ら帯を解こうとする侍の手首を握って制し、裸体をしばらく眺めた。まだ乳首は柔らかそうだ。
引き締まって、でもどこか無防備な躯。
綺麗だな、と言おうとしてやめた。なんだか怒られそうだ。
鎖骨に口づけ、強く吸った。普段なら痕がつくと言って嫌がる侍が、今日は黙って次元の頭に鼻を押し付ける。解けかかっ
ていた帯に手を掛けると、着物があっけなく落ちた。
急ぐでもなく、褌に手を掛ける。
ゆっくりとはがされて、侍が、所在なさげに身じろぎする。思い出したように乳首を舌ですくってやった。抑えに抑えた侍の
息が、だんだん不規則になってゆく。
長い長い布の端が、とうとうはらりとベッドに落ちた。怒張した侍の尖端に小さな液体が生まれたかと思うと、みるみるうちに
膨らんでゆく。
「・・・・・・。」
膝立ちで両の拳を握り締め、侍は次元を見つめている。きゅっと噛み締めた唇は相変わらず言葉を発せず、ただ頬だけが
燃えるように赤い。
切なげな目の淵に軽く唇を押し当ててから、次元は自分の下着に手を掛けた。殊更にゆっくりと脱ぎ、ようやく侍の肩を引
き寄せる。待ち兼ねて襲い掛かる唇に、宥めるようなキスをした。
「 ふ・・・・・・、」
次元の舌を捕えて引き込み、侍が夢中で吸い始める。時々逃れて頬の内側をなぞってやると、甘いような泣くような息が漏
れた。
ぽと。
何かが落ちたような微かな音に、目を移した。
二人のものからとめどなく溢れる液体がシーツまで届く糸となって、二つの水たまりを作っている。見ていると侍の液がさら
に溢れてきて、糸がまた太くなった。
「すげえ・・・・・・。」
呟く次元の頭を掴み、侍が強引に視線を戻させる。再び唇を貪り合う二人の下で、ぽと、ぽと、とまたあの音がする。ぬる
ぬるのものを今すぐこすり合わせたい衝動を抑え、次元は頭を掴む侍の手を握った。
接吻に没頭していた侍が、薄目を開ける。はふ、はふと唇をはみながら、食い入るように見つめてくるその瞳が、どうして欲
しいかあらわに告げている。目にした途端、次元は唇を離した。
「・・・・・・?」
まだ唇の名残を追おうとする侍をとどめ、次元は囁いた。
「俺もだ、五右ェ門。」
「なに、が、・・・・・・!!」
二本をいっぺんに両手で挟み、しごき上げた。ぬちゃぬちゃと上がるいやらしい水音に反応して、また透明な液が溢れ出る。
侍が腕を掴み、必死で引きはがそうとした。
「まて、ならぬ、次元・・・・・・!」
「いや、こうして欲しかったはずだ。」
「駄目だ・・・・・・、も・・・・・・、」
「イクか・・・・・・? 五右ェ門・・・・・・、」
「 !」
感じた声が音にならず、空気を震わせる。手に勢いよく熱いものがかかり、のけ反っていた頭がぐったりと次元の肩に落ち
た。大きく上下する背を撫で、体を横たえさせる。
まだ意識が朦朧としているらしい。尻を高く抱え上げられても、侍はされるがままに身を委ねていた。むに、と双丘を割り開
かれて初めて、「次元!」と慌てたような声を出す。つるりとした曲線の奥、少し口を開けた秘所をしげしげと次元は眺めた。
「・・・・・・綺麗だな。」
さっき抑えた言葉が、ついこぼれてしまう。
「拡げる、な・・・・・・!」
今さら抵抗する侍に構わず、舌を当てた。
「っふ・・・・・・!」
皺の一本一本を、舌で伸ばして丁寧に舐める。白い尻がぶるぶると震えだした。突っ伏して、声を上げまいと侍は必死に堪
えている。
「気持ちいいか、五右ェ門。」
「・・・・・・!」
シーツに顔を押し当てたまま、侍は答えない。強情だな。ここはこんなにひくついて、認めちまってるってのに。人差し指と
親指で穴を横に拡げ、尖らせた舌をゆっくり挿し入れた。五右ェ門の体が急速に丸まってゆく。
「ん・・・・・・、っん・・・・・・!」
舌で中を少し乱暴に掻き回す。丸めた背がびくんびくんと震える。前に手をあてがうと、濡れそぼった音と共に、侍の嗚咽
がシーツから漏れた。絶対答えないと分かっているのに、また訊ねてしまう。
「どうして欲しい、五右ェ門。」
「 、」
声は出さない。代わりに手が伸びてきた。空しく空を掻いたのち、次元の掌を捕えてぎゅう、と握る。
これが精一杯か。
目を細め、手を握り返す。
なんだかひどく愛おしくなった。
「 分かった。」
立ち上がり、真下の肛門に自身を押し当てる。息もつかせず一気に捻じ込んだ。
「 あぁ・・・・・・!」
侍がとうとうあからさまな声を上げる。陶酔と喜びの混じったその声がもっと聞きたくて、次元はひたすら腰を打ちつけた。
シーツに押さえつけていた侍の顔が捩れたかと思うと、こちらを向いた。求められるままに唇を与えてやる。蹂躙し合う唇の
間で、侍が何か言ったような気がした。
聞き返そうとした刹那、一際高い声が上がった。
「〜〜〜〜〜!」
腰をがくがくと痙攣させて、侍がまたシーツに精を放つ。中がひどく暴れ狂って、手がつけられなくなった。もう腰を動かして
いるのか、動かされているのか分からない。咆哮が聞こえた。自分の声だった。気がつくと、侍の中に放っていた。
*
あちこちを紅く吸われて乱れたままの侍はあまりにも慎みがなくて、何か見てはいけないような気すらする。また劣情が頭
をもたげそうになるのを散らすように、黒髪をくしゃくしゃと撫でてやった。
「どうしたんだ、今日は。」
「・・・・・・なにが。」
まだ蕩けたような目を、侍がこちらに向ける。
「珍しいじゃねえか、お前からねだりに来るなんて。」
「・・・・・・。」
「ねだってなどおらん」という返事が来ると思った。侍が呟く。
「・・・・・・そういう気分になることも、ある。」
「・・・・・・。」
意外さのあまり起き上がった次元を、訝しげに侍が見上げる。
「なんだ、一体。」
「いや、そうならそうと言えよ。」
「・・・・・・。」
侍は何か考えているようだった。やがてごろりと向こうを向き、小さな声で言う。
「・・・・・・口に出すことは、拙者には難しい。」
「・・・・・・まあ、そうだろうな。」
浅ましい欲は秘めておくのが、侍ってもんか。
よっ、と起き上がり、サイドテーブルから水のボトルを取った。
「無理に言わなくてもいいさ。だいたい分かるしな。」
ボトルから水を飲み、侍にほれ、と渡す。背中で受け取り、侍も起き上がった。そのまま握りしめて、黙っている。
「飲まねえのか?」
「・・・・・・たいことも、」
「ん?」
「言いたいことも、ある。」
「なんだ、あるんなら言えよ。」
沈黙の後、侍は口を開いた。
「・・・・・・お主が、」
「ん?」
急にボトルをぎゅううと飲み干す。その勢いで、一息に言った。
「お主が愛おしくてならぬ。」
「・・・・・・!」
背中を向けたまま、侍がボトルをこちらによこす。ひったくり、後ろから襲いかかった。
「な、じげ !」
ギラギラした目を見た途端、侍は全てを理解した。
なるほど、確かに言わずとも分かるものだな。
しかし、拙者はこんなに分かりやすくは 、
喉笛に再び喰らいつかれ、五右ェ門はあっさりと思考を放棄した。
後はただ無音。
月子さんとこのチャットで、がまんじるの話になったのです。がまんじるなら、お互いだっらだらでひたすらちゅーしてるの
がいいなあとか言ったら、「ちゅーでだらだら」が宿題になりました。恐るべし月子チャット(^−^)。
というわけで、たまにはムラムラしちゃうゴエでした(^−^)。
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