リバース
「ん、」
最初にふと漏らすその声が好きだ。
「 ごほん。」
すぐに拳を口に当て、咳ばらいするその癖も。ごまかしたつもりなんだろうがな、頬が赤いぜ。まあ、そういうところも、
「 好きだ。」
「・・・・・・。」
囁くと必ず、お前はきゅっと目を瞑る。
それから意を決したように顔を上げ、うわずる声でこう言うのだ。
「・・・・・・拙者もだ。」
「 五右ェ門・・・・・・!」
衝き動かされるままに押し倒そうとして、思わぬ抵抗感に次元は戸惑った。いつもなら柔らかく腕の下に組み敷かれる侍
が、今日は頑なに手をつき、倒されまいと踏ん張っている。
「 なんだ、嫌なのか?」
「次元!」
突然肩を掴まれ、次元はひるんだ。異様な気迫を漂わせ、厳かに侍が言う。
「・・・・・・今宵は、拙者がしたい。」
「 ?」
一瞬ぽかんとした。
「したい・・・・・・って、いつもしてるじゃねえか。フェラとか 、」
「違う。」
かぶりを振り、侍が肩の手に力をこめる。
「 最後まで、拙者が、したいのだ。」
「・・・・・・。」
やっとのことで、一つの仮定が頭に浮かんだ。 いや、あり得ねえだろ。
「・・・・・・つまり、あれか。お前が入れたいってことか。」
侍が力強く頷く。
「 俺のケツにか。」
「言葉を選べ。・・・・・・まあ、そういうことだ。」
「・・・・・・。」
つかの間絶句した後、次元は深いため息をついた。「あのなあ」と身を乗り出す。
「前にも言ったと思うがな、俺の体はそういうのに向いてねえんだ。悪いが・・・・・・、」
「知りたいのだ、次元。」
五右ェ門が静かに遮った。
落ち着いた声だが、熱がこもっている。
「お主が普段、どのように感じているのか。」
「・・・・・・。」
「本当に拙者の 男の尻などで 、よいのか、何か苦心させているのではないか。拙者も同じように感じて、知
りたいと思ったのだ。次元。」
ちきしょう。
胸の内で毒づいた。
侍の申し出にではない。侍の言葉に、少しだけ胸を熱くしている自分に対してだ。あり得ねえ。あり得ねえ話だが 、
ちきしょう!
突然、ごろんと横になった次元に、「嫌か」と侍が落胆した声を出す。
「・・・・・・一回だけだぞ。」
「次元!」
「ギブって言ったら止めろよ。」
「かたじけない! 心配いたすな、優しくする。」
「・・・・・・。」
顔を輝かせて請け合う五右ェ門を見ながら、次元は心密かに神の名を呼んだ。
同じキスでも、こうも違うもんか。
のしかかられ、侍のキスを受けながら、次元は心底驚いていた。唇を甘くついばみ、侍が次元の頬を、こめかみを、瞼を
食む。こんなに積極的な侍は見たことがなかった。普段がこうならどんなにか 、と思い、いや違うか、と気づく。
自分がどうにも積極的になれないから、自然、こういう構図になっているのだ。
いつもと違うことはもう一つあった。
今ひとつはっきりしない次元のものに比べ、侍の乱れた寝巻の間からちらちら見えるそこは 、
「 ふっ!」
ガチガチにさせたものをまさぐられ、侍が息を弾ませる。
「次元、やめ 、」
「興奮してんのか、五右ェ門。」
次元の手を外そうとする五右ェ門が、ぴくりと動きを止める。赤い顔で次元を見つめ、言った。
「 そうらしい。」
「・・・・・・、」
今ので勃起した。
むくりと起き上がり、無言で侍の褌を外しにかかる次元に、侍が慌てたような声を出す。
「待て、次元、ちょっと。」
「待てねえ。」
「ずるいぞ、お主とて 、」
「う・・・・・・!」
「こんなにさせているではないか。」
いま勃ったばかりのそこを掴み、形を確かめるように侍が手を添わせてゆく。馬乗りの五右ェ門が脚の方へ下がってしま
ったので、次元の手は届かなくなった。寝巻と下着を引き下げ、飛び出した生身のものを侍は黙って撫で続ける。次元の
吐く息が長く、深くなったところで、とうとう顔を上げた。
「舐めてよいか、次元。」
「 随分、サービスがいいな。」
余裕を装う言葉の末尾がもう荒い。気づいているのかどうか、顔を伏せながら侍は真面目な声で言う。
「お主を悦くするためなら、今宵、骨身は惜しまぬ。」
「・・・・・・ありがてえ。しかしそれなら、いつもどおりがいちば うぉ!」
いきなり根本まで咥えられ、思わず声が裏返った。太いものをきゅうっと締めた侍の唇が、上下に動き始める。こんなに
大胆な五右ェ門はめったに見れるものではない。次元は腹を決めた。こうなりゃヤケだ。骨身を惜しまないってんだから、
遠慮はいらねえ。
「五右ェ門、こっち向いて・・・・・・、ぅ・・・・・・、しゃぶって、くれ・・・・・・。」
「・・・・・・。」
荒い息の下ねだると、そこだけ見えている侍の眉が、軽くひそめられた。一瞬の後、次元を咥えたまま、五右ェ門が顔を
上げる。
すげえ 、
息苦しさも手伝ってか、侍の顔は既に紅潮していた。睨むように次元を見てから、再びしゃぶり始める。大きく口を開け頬
張る顔が少しかわいいだけに、咥えているいやらしいものとの差が凄まじい。刺すような視線はこちらに向けられたままで、
「後で覚えておれよ」と言っているようにも見えたが、それは次元をただぞくぞくさせるだけだった。
「五右ェ門・・・・・・、いい・・・・・・ぜ・・・・・・、」
手を伸ばし、次元を含んだ頬を撫でてやった。一瞬、恥ずかしそうに目を伏せたかと思うと、侍が陰茎を口から離す。次元
の腰をぐいと持ち上げ、今度は袋にむしゃぶりついた。
「う・・・・・・、く・・・・・・!」
「ほほもよいのへあろう。」
言ってから、片方の玉を口の中に入れてしまう。中で揉み転がされた途端、次元の背がぴんと反った。待て、五右ェ門待
て、それで前をしごかれたりしたら 、もう 、
気づいているのに違いない。侍の指が、唾液と先走りに濡れた次元を、そっと握った。
「 !」
突き上げる射精感に、次元は必死で耐えた。もう侍を見ている余裕がない。ぬちゃぬちゃといういやらしい音と絶えず押し
寄せる快感に、ひたすら抗いのたうち回った。 次の瞬間、
「うひゃおぉぅ!?」
生まれて初めての感覚が、次元を飛び上がらせる。なんだ今の。尻の 、尻の穴に 、
「・・・・・・何という声を出すのだ。」
穴に当てた舌を離し、五右ェ門が呆れたような顔を上げる。
「いや、五右ェ門、これはなしだ。」
「気持ち悪いか。」
「何ていうか・・・・・・、これはなしだ。」
「 大丈夫。」
真面目な顔で、侍が次元の腰を更に引き上げる。肩に両腿を乗せ、ぐいと双丘を割り拓いた。
「 拙者も、最初はそうだった。」
「いやだから五右ェ門ま 、うおぉぅ・・・・・・!」
こんな感覚だったのか !
いつも自分がしているように舐め散らかされ、次元は奇声を上げ続けた。河童に尻子玉を抜かれるという言葉が頭に浮か
ぶ。実際にあるならこの感覚に近いのかもしれなかった。男としての矜持や気概や大事なものが、舐められるそこから全
部抜けて行ってしまうような気がする。思わずシーツを掴んだ。女のようだと思い、即座に離した。
「 重いな。」
ふう、と息をついて、侍が両脚を肩から外す。ベッドに下ろされるやいなや、次元はぐるりと寝返り侍に背を向けた。そのま
ま枕に突っ伏す次元に、侍が淡々と声を掛ける。
「次元、引き出しを開けるぞ。」
「 マジでやるのか。」
突っ伏したまま、こもる声で言った。ローションを取り出しているのだろう、コトコトと音がする。それから沈黙が訪れた。
不意に肩を叩かれた。
「 次元。」
「・・・・・・。」
「こちらを向いてくれ。」
優しい声だった。
仕方がない。もぞもぞと顔を捩り、片目だけで見上げた。侍が上から覗き込む。
「 やはり嫌か。」
「・・・・・・。」
「どうしても無理なら止める。」
「・・・・・・。」
「 お主が本当に嫌なことはせぬ。いつもそうしてくれているように。」
「・・・・・・。」
ちきしょう、と呟いた。
聞き漏らした侍が、「何だ?」と問う。
「 愛してる、って言ったんだ。」
顔を引き掴み、唇を奪った。
「・・・・・・!」
夢中でしがみついてくる侍の手を取り、握り合った。差し出される舌をこれでもかと吸い尽くし、口内全ての場所に舌で触
れてやる。長い長い接吻の後、侍が微かに呟いた。
「・・・・・・拙者もだ、次元。」
「拙者も何だ、言ってくれ。」
瞼にキスをして、請うた。侍がぎゅっと目をつぶり、息を吸う。
「・・・・・・あ、・・・・・・あいしている。」
消え入りそうな声に、目を細めた。
「よし。頼むぜ。」
もう一度ちゅっとやってから、俯せになる。
「優しくしてくれんだろ。」
「うむ、任せておけ。」
腰を抱え上げ、五右ェ門はボトルの蓋を開けた。トロリと冷たいものが垂らされる感触に、体が跳ねる。尻を撫で回される
と、背中がぞわぞわと粟立ち始めた。
とうとうすぼみに指が当てられる。息を詰めた。
「・・・・・・次元、力を抜け。」
今まで、自分が五右ェ門にどんな無理を強いていたか、よく分かった。
この状態で、力を抜けだと?
固まっている次元に、五右ェ門がふ、と声を漏らす。
「・・・・・・無理もない。」
ローションまみれの手が、次元の前を握った。優しくしごきながら、もう一方の手がくにくにと入口をこね始める。
「う・・・・・・、」
「気持ちのよい方に集中しろ、次元。」
背中にキスしながら、侍が囁く。さっきイキそうになったきりお預けを食らっていたそこは、あっという間に勃ち上がった。侍
の手に合わせて、腰が勝手に揺れ始める。何度目かにスイングした瞬間、
「 あ、」
指が、つぷ、と入った。
「 そのまま。次元・・・・・・、」
「あ・・・・・・、あ・・・・・・、」
少しずつ、少しずつ、指が入ってくる。痛みはなかった。圧迫感と、とうとう拓かれてしまったという茫然とした感慨があるの
みだ。スムーズに進まなくなると侍は指を抜き、ローションを足してはまた差し挿れた。奥の方まで入ると、その指をゆっく
りと回し始める。
「痛いか? 次元・・・・・・、」
「・・・・・・。」
痛くはないが、ちょっといま、声が出ない。
中でこね回される指が、ある場所に当たるたびにはっとするほど響くことに、次元は気づいていた。
くそ、俺はそっちはないと思ってたのに。
侍に悟られたら終わりだ。声を殺し、次元はただ息をすることに努めた。
「 次元・・・・・・、」
侍の指が止まる。窺うように囁いた。
「ここか・・・・・・?」
「!!」
なんで分かったんだ!?
直接響くそこを中で攻められ、握られたものがビン、といきり立つ。とっさに枕の下に頭を突っ込んだ。抑えられない。泣く
ような声が出た。
「次元・・・・・・、」
不意に指が引き抜かれた。枕を引きはがし、息を荒げた侍が唇に貪りついてくる。
「お主、ものすごく・・・・・・、」
「なんだ。」
「・・・・・・いや。」
唇を離し、侍は笑った。
「言うと怒るから、言わぬ。」
「・・・・・・。」
さて、と起き上がり、侍は次元をコロンと仰向けにした。
「覚悟はよいか、次元。」
「くそお・・・・・・、俺が挿れてえ・・・・・・。」
「諦めろ。」
楽しそうに言い、侍が次元の脚を開かせる。ものをそこにあてがうと、男の顔になった。
ぬ゛っ、と圧力がかかった。
「う・・・・・・、」
やはり指の比ではない。
こじ開けられるような感覚に、思わず腰が逃げる。強いて追わず、侍は少し入ったものをその都度抜き、ローションを足し
てはまた押し拓いた。丁寧な、誠実な進め方。侍らしいと思った。
とうとう納めきった頃には、二人とも汗だくになっていた。見下ろす侍が次元、と呼ぶ。
「なんだ? ・・・・・・動かさねえのか。」
「・・・・・・拙者、お主の中にいるのだな。」
「 言うなよ。」
顔を背けようとする次元を制し、侍が唇を寄せてくる。勘弁してくれ、と思った。愛しくてたまらなさそうな顔しやがって。俺
も普段、こんな顔してんのか?
接吻の後、糸引く唇で、侍が言う。
「突くぞ、次元。」
「 お手柔らかに頼むぜ。」
「保証はできん。」
ゆっくり、ゆっくり侍が動き始める。
こいつ、こういう動き方するのか。
痛みも忘れ、次元は侍を見上げた。ガツガツと獣のように動く次元と違って、侍の抽送はしなやかだった。ゆったりと奥ま
で届かせ、最後にずん、と打ち込んでくる。あ、と声が漏れた。舌打ちしたくなった。動きながら、侍が微笑む。
「気持ちよいか、次元?」
「いいわけねえだろ。」
「そうか。 拙者も微妙だ。」
とろけそうな顔しやがって。何が微妙だ。
言おうとした途端、
「・・・・・・っあ・・・・・・!」
侍の動きが激しさを増した。小刻みに奥を突かれるたびに、侍の汗が上から落ちてくる。振り乱す黒髪の間から男の目が
次元を捉え、じっと見据えて離さない。次元、次元、という声が、うわ言のように漏れた。
「五右ェ門、もう一回 、」
揺さぶられながら、思わずねだっていた。
通じたらしい。次元の脚を抱え上げ、深く突き上げながら、侍が搾り出すように荒々しく言う。
「 次元、愛している・・・・・・!」
これが聞けたなら、よしとするか。
咆哮を上げ、侍が体をびくびく震わせる。中へ思い切り注がれる感覚に耐えながら、次元は自分を慰めるように、言い聞
かせた。
*
「 痛かったか、次元。」
放心したように寝転がる次元に顔を寄せ、侍がそっと伺う。抱き寄せ、額にキスしてやった。
「まあな。でも、だいぶマシな方なんじゃねえか。」
「難しいな、なかなか。」
「お前はどうだったんだ。知りたかったんだろ。」
「うむ。こちらはこちらで大変だな。中はだいぶきつかった。」
「はっは。」
あまりに直截な感想に、思わず笑った。「だが」と侍が呟く。
「 あんなに愛おしい気持ちになるものとは、知らなかった。」
「・・・・・・ちぇ。」
俺だけで良かったのに、と独りごちた。「ずるいぞ」と侍が起き上がる。
「今まで内緒にしておったのだな、お主。」
「別にしてねえよ。だから愛してるっていつも死ぬほど言ってるだろ。」
「拙者も時々あれをやりたい。」
「冗談じゃねえ、1回だけだと言ったぞ、俺は。」
「 次元。」
急に侍が声を潜める。嫌な予感がした。
「何だ。」
「正直に言え。 お主、少しは感じていなかったか。」
「この野郎・・・・・・!」
有無を言わせず押し倒した。これ以上この話を続けるのはヤバい。侍の手を取り、自分のものに触らせる。
「それより、こいつをどうしてくれるんだ。俺はまだイッてねえんだぞ。」
「む。」
「 それに、」
侍の跨ぐらを掴み、後ろへ指を伸ばした。
「 あ、」
「お前のここはどうなんだ、疼いてねえのか?」
むずむずと指を捩じ込むと、侍が急に暴れ出す。
「・・・・・・次元、よせ! 今日はならぬ!」
「なんで。」
「 。」
赤い顔を拳で隠し、侍は呻くように言った。
「あんな感じを・・・・・・、知ってしまったからには、いま逆の立場は、恥ずかしくてならぬ。」
「・・・・・・ほーう。」
次元の目が光る。侍の顔にはっと後悔の色が浮かんだ。
「つまり、かわいいと思われるのが嫌だと。」
「 !」
「分かってるんだぜ。お前さっきそう思っただろ。今度は俺がかわいい所を見せてもらう番だ。」
つつ、と撫でる太腿の上が、もうひくひくし始めている。首をぶんぶんと振る侍の耳たぶを食み、囁いた。
「大丈夫、本当に嫌なことはしねえよ。」
「 。」
「五右ェ門・・・・・・、愛してるぜ・・・・・・。」
「く・・・・・・、」
ほとんど抵抗を止めた侍の、頬はまだ羞恥に染まりきっている。本当にごくたまになら、こういうのもいいもんだな、と次元
は思った。
侍には絶対言わねえけどな。
なんというまんまなタイトル(^−^)。
「ジゲゴエのリバを書いてみたい」と日記で漏らしたところ、6人(推定)の方から賛同をいただいたので、書いてみました。
やべえ!
す ん げ え 楽 し か っ た(^−^)!
果たして次はあるんでしょうか。それは謎です(^−^)。
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