しかえし








ハイウェイを流れる郊外の景色なんて、どこの国も大差ない。
ラスベガスまであと10マイルという標識を目の端に映し、次元はウィンカーを出した。退屈なドライブの終わりにこの仕事の
顛末を思い返すと、ついため息が出る。

女は美人だった。ひょんなことから知り合ったが、頭の回転も武器の扱いも仕事相手としては十分で、何より、女を感じさ
せないその無頼な雰囲気が次元を気楽にさせた。手伝ってやるかという気になったのもそのせいだ。

いや、余計な肩書きを知らなかったからか。
独りごち、ハンドルを切る。

共にお宝を目指した女の正体は、宝の持ち主によっていとも簡単に明かされた。FBI捜査官としては恐ろしく型破りな女の
目的は、最初から宝ではなくその持ち主の地下組織だったらしい。今にして思えば、潜入から組織潰滅までの一連の流れ
の中、次元に救い出され脱出する所まで全て計算に入っていたのだろう。筋書き通りに進んだ礼のつもりか、女は、次元が
最後に宝をかっさらうのをあっさり許した。特段の会話もなく別れた後に残ったのは、でかいダイヤと頬のかすり傷一つ、そ
れに、変な女だという感慨だけだった。

悪くない結果なのになぜか気が重い。やれやれと首を回し、帰り着いたガレージに車を突っ込んだ。薄暗い家に入り、何と
なく人影を探す。アジトの中は静まり返っていた。

女と共にアジトを出る時、五右ェ門は何も言わなかった。

もとより、こういう時に引き止めたりはしない男だ。黙って見送るその無表情が少し気にはなったが、やましい所がない以上、
気兼ねして出立を見合わせる次元でもなかった。ただ、戻ってきた時のこの座りの悪さは、もう少し想定しておくべきだった。
アジトは何やら薄ら寒い。一人落ち着いてくつろぐ気にもなれなかった。

      旅にでも出るか。

思い立ち、部屋を見回した。
文庫本を一冊拾い上げると、もう他に持って行くものは思いつかない。最後に、いつも侍が瞑想していたソファをちらりと見
やる。

      あばよ。

逃げるように、ドアを閉めた。





ガレージに一歩入った瞬間、次元は言葉を失った。

「・・・・・・何してんだ、お前。」

助手席で腕組みしたまま、仏頂面の侍が口を開く。

「付き合う。」
「・・・・・・。」

思わず身を固くして、それから次元はん?と思った。なんなんだこの観念したような気分は。後ろ暗いことなんか何もない
ってのに。のろのろとドアを開け、一応聞いた。

「行きたいとこあんのか。」
「ない。」
「・・・・・・じゃメキシコでいいか。」

適当に言い、侍を見ないようにしてエンジンをかける。

「行く前にスーパー寄ろうぜ。どうせメキシコにゃ和食なんて・・・・・・、」

すっと差し出された紙切れに、次元は口をつぐんだ。

      預かった。」

侍がボソリと言う。

「・・・・・・。」

一読し、帽子を深く被り直した。黙って車を出す。
さりげない愛の言葉が、この気まずさの正体をはっきりさせた。出立の前から女の中でそれは始まっており、手紙を侍に預
けることで、彼女はそれを終わらせたのだ。
ハイウェイに乗ってから、ようやく次元は口を開いた。

「・・・・・・悪かった。」
「・・・・・・。」

侍が腕組みを解く。

「拙者ではなく、あの女子に謝るべきだ。」
「・・・・・・。」

そうかもしれない。そうでないような気もした。

「・・・・・・お主に他意がないのはよく分かっておる。ただ、ちと無責任だ。」

言いながら侍はダッシュボードを開け、次元の煙草を取り出した。断りもなくライターを鳴らし、すぱすぱ吹かし始める。

「・・・・・・こんなことは言いたくないが・・・・・・、」

煙の塊と共に吐き出した。そのまま何か言い淀んでいる。

「・・・・・・お主には、自分で思っている以上に・・・・・・、魅力がある。」
「・・・・・・。」
「もっとわきまえろ。」

返事のしようがない。「俺にもくれ」とごにょごにょ言ってみた。

「・・・・・・。」

こちらを睨めつけた後、侍はぷいと顔を背けてまた煙を吐く。

「あのなあ、」

つい声が出た。

「お前、こういう時は優しくして俺を困らせるって言ってなかったか。」
「・・・・・・難しい!」

言い捨て、五右ェ門は鼻あらしを吹いた。どうにもいたたまれず次元は頭をバリバリと掻く。無意識だろうが、この侍は、時
々愛情を丸出しにしやがるから困る。
ウィンカーを出し、後続車にどうぞ追い越してくれと伝えた。それから車を路側帯に停める。エンジンを切り、まだそっぽを向
いている侍の方へ身を乗り出した。

      なあ五右ェ門、あの女とは・・・・・・、」
「分かっておる。」

向こうを向いたまま、侍が遮る。

「あの女子に懸想されても、お主は全く心を乱しておらぬ。腹が立つのは、それを拙者が      、」

そこまで言って、口を閉ざす。後は言ったも同じだった。

「・・・・・・浅ましく喜んで何が悪い。」
「!」

思わず侍が振り返る。視線を離さずはっきりと告げた。

「俺はお前のもんだ。五右ェ門。」
「・・・・・・!」

息を詰めた侍の顔が、みるみる赤くなってゆく。

「・・・・・・そういうことを、いま言うな。」
「大事なことだ。」
「・・・・・・。」
      五右ェ門、」

もう一度手を伸ばした。身をよじり侍は逃れようとする。

「おい、」
「拙者、やはり降りる。」

侍がドアに手を掛ける。息をつき、次元はすっと身を離した。

      分かったよ。」

諦めたような音色に、侍の手が一瞬止まる。見逃さなかった。キーを回しギアを入れて、アクセルを目一杯踏み込んだ。

      次元!」

バランスを崩した侍が怒号を上げる。「降りたきゃ降りな」とのんびり言った。
猛スピードで流れる景色を、五右ェ門は歯噛みして眺める。

「停めろ、次元。」
「いやだね。」
「・・・・・・。」

チキ、という音を耳が捕えた。一瞥をくれて、次元は笑う。

「そうだな、いっそ俺ごとぶった斬れ。そうでもしなきゃ停めねえぜ。」
「・・・・・・。」

鯉口を切ったきり、侍は唸っている。威嚇が効く相手かどうか、十分分かってんだろうに。歌うように、次元は煽った。

「どうした、早くやれよ。」
「・・・・・・!」

ちゃっ、と刀の音がした。
次の瞬間、予想だにしないことが起きた。

「ぐぇ!?」

刀を置いた侍の、右手が次元の股間をわし掴んでいる。
思わずハンドルを取り逃がしそうになり、すんでのところで体勢を立て直した。
ぎゅう、とものを握り込み五右ェ門が凄む。

「車を停めろ、次元。」
「・・・・・・。」

ごくりと喉を鳴らし、それから次元はアクセルを踏み込んだ。

「お主・・・・・・!」

色を変える侍を掠め見て、ニヤリと笑ってみせる。そういうことなら受けて立つぜ。
手を離すこともできず、五右ェ門が上ずったような声を出した。

「停めぬか次元、さもないと・・・・・・、」
「さもなきゃ何だ?」
「・・・・・・!」

お互い一歩も引けなかった。とうとう侍が、握った手を動かし始める。

「・・・・・・っ・・・・・・、」

こすられる場所から、疼くような快感が体中へじんじん広がってゆく。汗が流れるのを感じながら、次元はバックミラーを盗
み見た。引っ込みが付かなくなったとはいえ、羞恥の心が大分勝っているのだろう。侍の頬が燃えるように赤い。
むくむくと自らが勃ち上がり始める。ごまかすように、次元は発した。

「どうした五右ェ門! それじゃいつまでたっても停まりゃしねえぜ。」
「・・・・・・!」

敢然と侍が顔を上げた。と思った瞬間、視界から消えた。
まさかそこまでやるとは思っていなかった。
スラックスの上からちゅうううと吸われ、次元は思わずブレーキを踏みかけた。必死で堪え、前方に集中する。もはや完全
に硬くなったそれを唇ではみながら、五右ェ門が見上げる。

「まだ・・・・・・、ほめぬか・・・・・・、」
「ぜってー停めねえ!」

腹から声を出した。「くっ」と呻いて侍がジッパーをつまむ。下着の中で張り詰め窮屈を主張していたそれが、びよんと飛び
出した。息つく間もなく、温かい五右ェ門の舌にねぶり上げられる。

      こんなに、激しく、されたこと、あったか!?

指が白くなるほどハンドルを強く握り、次元は息を上げぬよう必死で堪えた。恥も外聞もなく侍が口を開き、裏筋から亀頭ま
で舐め回している。ちゅば、しゃぶぶぶ、と上がる水音に、侍がいまどんな顔をしているのかを想像せずにいられない。

見てえええ!

しかし車を停めたが最後、こいつは降りて行っちまう。
ほとんど泣きたい気持ちで、次元はアクセルを踏み続けた。

「・・・・・・。」

不意に五右ェ門が顔を潜らせる。直後に襲われた感触に、思わず声を上げた。

「ぅお・・・・・・!」

吸い込んだ玉を口の中で揉み転がしながら、侍がびしょびしょのものをしごいている。
くそ、俺がそれ弱いの知ってんだろうが     
思わず片手をハンドルから離し、侍の頭をかき撫でた。「ん・・・・・・」と唸る五右ェ門の声が、心なしか切なげに聞こえる。拡
散しそうになる意識を、次元は必死に集中させた。いま事故ったら死んでも死に切れねえ。
ちゅぽん、と玉を解放した唇が、今度は亀頭に添えられる。少し開いたかと思うと、一気に奥深くまで吸い込まれた。

「ごえ・・・・・・!」

侍の頭が激しく上下し始める。ん、ふ、という声と共に、先端が喉に入るのが分かる。そんな奥まで・・・・・・! しょっちゅう喉
につかえさせてえずいていた侍が、いつの間に、こんな     
突然絶頂が来た。
      はええよ!
潰れたガソリンスタンドを目でとらえ、思い切りハンドルを切る。五右ェ門がきゅうう、と口の中を締めた。

「・・・・・・!」

体を突っ張らせてブレーキを踏むのと、温かい口にぶっ放すのが同時だった。
はあっ、はあっ、はあっ・・・・・・、
ハンドルに突っ伏したまま肩を上下させる。危なかった。冗談抜きで命が危なかった。
ごくん、という音がした。侍が口を拭いながらそそくさと体を離す。

「・・・・・・こら。」
「!」

むんずと腕を掴んだ。掴まれたまま、侍は出て行こうとして身をよじる。

「離せ、次元!」
「離すかよ。」

後ろからはがい締めにして、暴れる五右ェ門の前に手を伸ばした。

「どこ行くつもりだ、こんなにおっ勃てて。」
「あ・・・・・・っ!」

まさぐったそこは、褌がずるずる滑るくらい濡れていた。レバーを引き、助手席ごと押し倒す。身を起こそうとする侍の、まだ
濡れている唇を吸った。

「んん・・・・・・、」

手早く帯を解き、ガチガチのそこを布の上から強く揉んでやる。次元の口の中に、侍の荒い息が漏れ始めた。舌を絡ませ
深く口づけながら、脚を開き袴を引きはがす。裸の内股から褌まで何度も撫でてやると、荒い息は悶えるような声に変わっ
た。ゆっくり抜いた舌から、侍の唇に唾液の糸が垂れて落ちる。力が抜けたようにぐにゃりと横たわる侍の耳元に唇を寄せ、
囁いた。

「・・・・・・お返し、しなきゃな。」
「・・・・・・!」

さらけ出した褌の上に顔を移す。白い布の両脇から親指だけ入れて、くにくにと確かめた。

「や・・・・・・、め・・・・・・、」
「すげえ・・・・・・、溢れてる。」

ぐいと持ち上げた布が尻に食い込んだらしい、「んん!」と叫んで五右ェ門が跳ねた。空いた隙間から引っ張り出したもの
は、もうびんびんにそそり立っている。つつ、と指で撫で、五右ェ門を見上げた。

「しゃぶるぜ、五右ェ門。」
「・・・・・・。」

見下ろす侍の睫毛が震えている。腕が伸びて来た。次元を引きはがすのだと思った。
白い手は、次元の手をきゅう、と握った。

「・・・・・・!」

指と指を絡め合わせる。侍の目を見つめながら、舌をいっぱいに出して愛しいものへあてがった。そのまま、溢れる液を掬
うように舐め上げてやる。

「じ・・・・・・、げん・・・・・・、」

侍の声がとろけている。竿に垂れた先走りを全部しゃぶり取ってやると、はむ、と亀頭の部分だけを口に含んだ。舌で探り
当てた尿道を押し開くように、ぐりぐりとほじってやる。

「・・・・・・っ!」

繋いだ手が、痛いほど握られた。五右ェ門の腰が浮き上がる。声も発せず耐えているが、次元には分かる。大好きだもん
な、これ。もっとほじくって欲しいんだろ。
執拗に執拗に尿道をいたぶりながら、空いた方の手で竿の部分をしごき始めた。侍が顔をのけ反らせては息を吐くというこ
とを繰り返す。達する寸前なのだ。しごく勢いを強めた。「じげん」と侍が呼んだ。

「拙者・・・・・・、果てそうだ・・・・・・、」

律儀な申告に目を細め、次元は頷いた。しごく手を外し、一気に丸ごと飲み込んでやる。根元から先端へ強く吸い上げては
また根元まで屠り、吸い上げた。三度目に飲み込んだ瞬間、

「んっ・・・・・・、あああ・・・・・・!」

甘い喘ぎと放たれた熱いものが、侍の絶頂を告げた。





喉に絡みつく液体をゆっくり飲みくだし、まだ上を向いているものを舌できれいにしてやる。褌をきちんと元に戻した頃には、
激しく上下していた侍の腹もだいぶ穏やかになっていた。

「・・・・・・悪かった。」

繋いだままの手に唇を押しあてる。長い息を吐いたあと、五右ェ門が「拙者が悪い」と言った。

「・・・・・・己の浅ましさを、お主のせいにした。」
「俺のせいでいいぜ。」
「ならぬ。」

やれやれと身を起こす。ぎし、と鳴る座席の音で危うく聞き漏らすところだった。小さな、小さな声だった。

      好きだ。」

思わず見下ろした。倒れたシートに横たわり向こうを向いたまま、侍はまだ袴をごそごそ整えている。キーを回し、エンジン
をかけた。

      帰るぞ。」
「?」

侍がこちらを振り返る。

「メキシコは明日だ。今すぐお前を抱き尽くしてえ。ここじゃちっと狭い。」
「・・・・・・。」

侍がリクライニングをぐん、と戻した。前方を見据え、はっきりした声で言う。

      早く出せ。」
「・・・・・・!」

凄まじい唸りと共に、排気が上がる。

「お前、もうすんなよ。」
「すぐ着くならな。」
「・・・・・・。」

スタンドを飛び出した車は、あっという間に彼方へ消えた。















「おしおき」の逆パターン、次元が出奔した場合、ですね。
こいつら次の日も絶対メキシコ行かないと思います(^−^)。
アメリカの高速道路について少し調べたのですが、いわゆるサービスエリアというのはないんですね。ガソリンスタンドやコ
ンビニがあるだけなんだって。楽しいのにねサービスエリア。変な名産品とかあって(^−^)。



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