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                                              漢侍受祭 お題「縛」







 ゆっくりと4回。ノックをしたら、それが合図だ。

 既に寝ていたらしい。半身を起こした五右ェ門が、警戒心も露わにこちらを見上げている。後ろ手に鍵
をかけ、笑ってみせた。そんなに身構えるなよ。楽しい夜の始まりだ。

 ベッドの縁に腰をかけ、黒髪をそっとかき上げる。迷惑そうにしていても、顔が赤いぜ。首筋を軽く吸っ
ただけで、もう左手が毛布を鷲掴みにしてやがる。分かってるんだ。正直になれ。いつもの乱れた姿を見
せてくれ。

「・・・・・・戯れ事を言うな。」

 いきなり五右ェ門に身を翻され、次元は面食らった。

「なんだ突然? どうしたんだ? 俺ァ何か悪いこと言ったか?」

 ベッドの上に座り直し、五右ェ門はすっと背筋を伸ばした。

「拙者、いまだかつて乱れたことなどござらん。」
「なんだと!?」

 耳を疑う次元に一瞥をくれ、侍は滔々と語り始めた。

「武士たるもの、いかなる時も精神を平静に保っておかねばならん。たとえお主との、その・・・・・・、む、」

 睦み事のときも、とごにょごにょ言う。

「・・・・・・決して心を乱さぬよう、己を律しておる。例えるなら澄み切った水面のごとく、さざ波ひとつ立てぬ
心持ちで・・・・・・、」
「バカ言ってんじゃねえ!」

 たまりかねて遮った。

「何がさざ波ひとつだ、おまえいつも乱れまくってんじゃねえか!」
「なんだと!?」

 今度は五右ェ門が目を剥く番だった。

「こう言っちゃ何だがな、あのときのおまえときたら、そりゃもうヤラしいなんてもんじゃねえぜ。」
「違う! それは・・・・・・、」

 五右ェ門が口ごもる。

「・・・・・・お主の見る目がやましいのだ。お主の卑猥な妄想が、拙者の姿を淫らに見せているに過ぎん。」
「赤い顔して何言ってやがる!」
「問答無用! 拙者は毛筋ほども乱れたりしておらん!」

 はあはあと息を切らして2人は睨み合った。

「よーし、分かった。」

 次元がゆらりと立ち上がる。

「そんなに言うなら白黒はっきりさせようじゃねえか。」
「!!」

 有無を言わさず飛びかかった。激しく抵抗する侍を抱きすくめ、無造作に顎を掴む。舌の侵入を拒んで
固く結ぶ唇を何度も甘噛みし、ついでに瞼も耳も鼻も舐めてやる。のしかかる次元に倒されまいとして、
五右ェ門が思わず後ろに手をつくのを見逃さなかった。帯を解き、しゅる、と引き抜く。

「な、何をする!」

 背中で両の手を縛り上げ、ベッドの柵に結び付ける。一仕事終えてから、次元はふう、と息をついた。

「・・・・・・なに、どうも意見が食い違うようなんでな。2人できっちり確かめようじゃねえか。毛筋ほども乱れ
たりしねえんだろ?」
「しかしこんな・・・・・・、縛り付ける必要がどこにある!」
「肝腎なところでおまえに逃げられたんじゃ、元も子もねえからな。お前の言う通りだったら、その時は好
きなようにしろ。切り刻まれようがなぶり殺されようが、文句は言わねえよ。」

 五右ェ門がキッと睨みつける。

「・・・・・・その言葉、嘘はないな。」
「誓ってもいい。愛してるぜ。」
「・・・・・・。」

 大きく息を吸い、五右ェ門は腹にぐっと力を入れた。

「承知した。・・・・・・受けて立とう。その代わり、拙者が勝ったら覚えておれよ。」

 軽い眩暈に、次元は耐えた。
 こんなに楽しい夜になるとは思わなかった。



     *



 拒むのではなく、受け流す作戦らしい。
 意外にあっさりと唇は開いたが、舌を割り入れてもいつものような反応はなかった。構わず舌を絡ませ、
上顎と舌先をくすぐり尽くす。たっぷり味わってから身を離すと、唇から糸がつ、と落ちた。

 後ろ手に縛られたまま目を瞑り、侍は深い息を吐いている。三角座りの膝がきっちり閉じているのを見
て、次元はほくそ笑んだ。

「キスしただけだぜ。もう勃ってんのか?」
「馬鹿にするな。」
「じゃあ見せてみろよ。」
「・・・・・・断る。」

 ぐい、と膝を掴んで押し開くと、白い褌がさらけ出された。布をピンと突っ張らせて屹立したそれが、ヒク
ンと震える。

「エラいことになってんじゃねえか。」
「・・・・・・。」

 瞑目して答えない五右ェ門の顔が、見る間に紅潮していく。赤い頬にキスをして囁いた。

「なあ・・・・・・、触って欲しいか・・・・・・?」
「・・・・・・いらぬ。」
「そうか。気が変わったらいつでも言えよ。」
「!」

 夜着を肩から引き下げ、露わになった白い首を舌でなぞり上げる。おまえの弱い所は全部知ってるん
だ。ひとつひとつ順番に行くぜ。たっぷり時間をかけてな。

 耳たぶを噛み、熱い息を吹きかけると、ベッドに縛り付けた帯がギッ、と激しく引っ張られた。逃がさね
えよ。鎖骨に口づけ、わざと音を立てて吸い上げる。赤い痕を4つほど付けてから、舌を下方へと這わせ
た。ぷっくりと立っている乳首付近で舌を止め、ちらりと見上げると、五右ェ門が慌てて視線を外す。

「いいんだぜ、見てて。」
「うるさい、見てなどおらぬ。」
「・・・・・・じゃあ、どんなことになってるか、分からねえだろ。」

 突起には触れず、周りを舌でぐるぐる周回しながら「俺が教えてやるよ」と囁いた。

「・・・・・・すっげえ立ってるぜ。いつものピンク色より少し赤いな。舐めて欲しくてたまらねえって震えてらぁ。」
「・・・・・・黙れ・・・・・・!」

 はいよ、と答えて吸い付いた途端、五右ェ門がビクン、と震えた。唇で挟んで軽く引っ張りながら、「ん?
ひまみだれなかったか?」と聞いてやる。返答せず、はああああと長い息を吐く五右ェ門は耳までもう真
っ赤だ。次元の熱い塊がずくん、と疼いた。

 俺がもたねえな、こりゃ。

 含んだ口の中で激しく舐めながら、もう片方の乳首もくすぐってやる。五右ェ門の顎がぐっとのけ反っ
た。喉仏を激しく上下させて、それでも決して声を上げようとはしない。

「大好きだろ、これ。ずいぶん頑張るな。」
「好きな・・・・・・ものか・・・・・・!」

 掠れ声が次元を煽る。もっと聞かせてくれ。チュウチュウと派手な音を立てて、いたぶり続けた。
 侍の忍耐力は驚異的と言ってよかった。口元から一筋、よだれが伝うくらい感じているくせに、吐息一
つ漏らさない。可哀相に、と呟いてまた舌を移した。臍にキスして、脇腹にむしゃぶりつく。いつもなら激し
く感じるその場所にも、微かに身を震わせるだけで、侍は耐えた。

「・・・・・・すげえな、おまえ。」

 思わず感嘆の声を漏らす。押し殺すように、五右ェ門が笑った。

「・・・・・・恐れ入ったか。」
「ああ。大したもんだ。こんなになってるのに、まだ我慢できるなんてな。」

 察知した侍が素早く膝を閉じるのより早く、手を滑り込ませた。ひどく濡れた褌を掴むと、五右ェ門がひ
ゅう、と音を立てて息を吸い込む。膝に、腹に、ぐっと力を込め、決然と上げた顔が美しかった。

「・・・・・・おまえの言うとおりだ、五右ェ門。」

 どくんどくん脈打つそれをゆっくり撫で上げても、五右ェ門は眉一つ動かさない。あらぬ方向を睨みつ
ける瞳に、うっすらと涙が滲み始めた。

「・・・・・・俺の目がおかしいってのはどうやら本当らしい。おまえが耐えれば耐えるほど俺にはヤラしく見
えて・・・・・・、」

 渾身の力で膝を開いた。

「・・・・・・もう我慢できねえ。」
「・・・・・・!!」

 褌を引き、飛び出したものに唇を付けた。ねぶり上げながら、さらけ出した穴の入口をほじくると、逃れ
ようとして五右ェ門がめちゃくちゃに暴れ出す。

「五右ェ門、俺の負けでいいぜ。もう我慢するな。欲しいんだろ。」
「欲し・・・・・・く・・・・・・など・・・・・・!」

 食いしばった歯の間から呻き声が漏れる。ひくひくとうごめく穴だけが雄弁なのに、どんなにキスしても
舐めても五右ェ門は身をよじり、耐え続けた。

 ふと身を離し、侍を眺めた。
 荒い息を吐いてぐったりしていた五右ェ門が、思い出したようにまた体勢を立て直す。全身を紅潮させ、
勃つものすべてをビンビンに勃たせて、それでもまだ自ら律しようと気を漲らせる様はたまらなく淫らで、
しかしなぜか神々しくすらあった。

 よく分からない感情が次元を動かす。
 仕方ねえな。
 捕まえていた足首から手を離した。

「・・・・・・分かったよ。」

 五右ェ門がぼんやりと次元を見る。

「・・・・・・?」
「だから、俺の負けだ。悪かった。これ以上無理強いはしねえよ。」
「・・・・・・まことか。」

 ふううう、と五右ェ門の全身から力が抜ける。
 痛かったか?と帯をほどこうとして、手を止めた。いきり立つものが目に入る。

「・・・・・・抜いてやろうか、それ?」
「・・・・・・いらぬ。」
「どうすんだよ。」
「心を澄ませれば、自ずと鎮まる。」

 思わず笑ってしまった。

「・・・・・・何がおかしい。」
「いや、ほんとすげえなおまえ。俺にゃ真似できねえや。」

 帯を解くのをやめ、五右ェ門の向かいにどっかと座った。
 侍が不審気に身を引く。

「・・・・・・おい、早くほどけ。」
「ちょっと待ってろ。」

 ごそごそとジッパーを下ろし、息子を引っ張り出す。五右ェ門の表情が変わった。

「・・・・・・何の真似だ。」
「俺ァおまえほど我慢強くないんでな。もう限界だ。どうせその帯をほどいたらおまえに切り刻まれるんだ、
その前に思いを遂げておきてえ。」

 まだよく飲み込めていないらしい。ぽかんとしている五右ェ門を見据えたまま、自らに手をあてがった。
 ゆっくりしごくと、途端に血液が集まり始める。ふうっ、と息が漏れた。
 理解したのかしないのか、侍はじっと見つめている。
 先走りが滲み始めた。速度を早め、荒い息を上げた。「愛してるぜ」と笑った。

 侍の体が、ぐらりと大きく揺れた。

「・・・・・・次元。」
「なんだ、ちょっと待ってろ。もう少しなんだ。」
「・・・・・・ほどけ。」
「なに?」


「・・・・・・今すぐこの帯をほどけ。」


 五右ェ門がゆっくり顔を上げる。

 この世に鬼がいるのなら、きっとこんな形相だろう。

 やめろ、聞くんじゃねえ、という頭の中の声に、耳を貸すことができない。気圧されるまま、次元は侍の
背後に回り、震える手で帯を解いた。

 次に起こったことを、いまだに次元は思い出すことができない。

 気がつくと、五右ェ門の腹の下にいた。
 組み敷いた侍の顔が、垂れた黒髪の陰になってよく見えない。
 恐ろしい沈黙が2人を包んだ。
 窺うように、五右ェ門、と呼ぼうとした瞬間、

 熱いものに次元は飲み込まれた。

「んん・・・っ!・・・んんんあああっ・・・・・・!」

 堰を切ったように、五右ェ門の口から喘ぎ声が漏れる。押し寄せる快感に逆らい頭を持ち上げると、い
きり立った自分を、五右ェ門の入口が捉えては引き上げるのが見えた。すぐ上で侍自身がビクンビクン
振れている。

 目にした瞬間、次元はイった。

 一番深い所で五右ェ門がのけぞり、声にならない声を上げる。あつい、と聞こえた。

 熱いものが、五右ェ門からも迸るのが見える。



      *



「・・・・・・無念だ。」

 次元に背を向けたまま、五右ェ門が呟いた。

「まあそうしょげるな。いいじゃねえか。今回は俺の負けだ。」

 侍は黙っている。なあ五右ェ門、と覗き込もうとして、胸倉を掴まれた。

「大体、お主が悪いのだぞ。」
「んあ?」
「お主が、あんな痴態を晒したりするから・・・・・・!」

 口ごもり、また向こうを向いてしまう。思わず、ニヤついた声が出た。

「・・・・・・それで我慢できなくなったってのか。」
「うるさい。寄るな。」
「やなこった。」

 後ろから抱きすくめる。五右ェ門は身を固くしたが、反発はなかった。

「・・・・・・じゃあ、引き分けだ。よかったじゃねえか。」
「いいわけがなかろう。修行が足りぬ証拠だ。」

 次元の腕の中で、五右ェ門が歯ぎしりする。

「見ておれよ・・・・・・、次は絶対乱れん。」

 喜びを噛み殺そうとして、次元は悶えた。












祭投稿2作目でした。やりたい放題です。オレが(^−^)
この作品には、「dolce」の古屋さんが挿絵を描いてくださいました!
古屋さん、ありがとうございます! 誰が漢ってそれはあなたです(^−^)
古屋さんの挿絵はこちら! → 「リミッター」






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