ゲーム





平日の深夜にこんな店が混むんだから、やっぱり相当イカれた街だ。
一見の客ならまず入ろうとしないような、無骨なドアを構えたバーは、その店内も期待に違わず殺風景だった。椅子とテー
ブルと酒しかない簡素な空間を、いわくありげな客達の密談と哄笑が埋めている。
余所者の違和感は百も承知で、次元はカウンターに張りつき、もう二時間は飲んでいた。店の雰囲気なんかどうだってい
い。この気分を拭い去ってくれるなら、どんな酒だって構わなかった。
四杯目のラムを飲み干した時だ。

「・・・・・・よろしくて?」

隣にすっと座った女のか細い声に、次元は返事をしなかった。黙って手を挙げバーテンを呼ぶ。

「――― 同じのを。あんたは?」

慣れていないのだろう。女は少し迷ったのち、マティーニを頼んだ。長い黒髪から覗く容貌も楚々とした振る舞いも美しいと
言って差し支えないが、どこかアンバランスな印象を与える女だった。どう見てもおぼこい感じなのに、妙な落ち着きもある。
白いブラウスの胸元で揺れるボウタイを気づかわしげに触り、それから次元の視線に気づいて、女は無理に笑ってみせた。
「・・・・・・ずいぶん、召し上がっていらっしゃるのね。」
「嫌なことがあってな。」
「・・・・・・そう。」

バーテンが出したマティーニに口をつけ、女は微かに眉根を寄せた。初めて飲むのかもしれない。

「あんたもじゃねえのか。」
「――― 、」

不躾な問いに弾かれたように、女がこちらを見る。お上品なナリをちらりと見やり、次元は煙草を持つ手でグラスを煽った。

「よっぽど捨て鉢にでもならなきゃ、こんなとこに来ねえだろ、あんた。」
「・・・・・・。」

グラスをそっと置き、女は俯いた。思い切って顔を上げ、次元を見る。

「伺ってもいいかしら。」
「どうぞ。」
「恋人はいらっしゃる?」
「ああ。」
「・・・・・・そう、なの。」

あまりにあっさりと返されて、出鼻をくじかれたらしい。女は少しグラスに触り、再び次元を見た。

「嫌なことというのは、その方の――― ?」
「・・・・・・。」

黙りこくる次元を女が見つめる。興味本位ともその場つなぎとも違う、妙な熱心さがその眼差しにはあった。しばらく次元の
返答を待ったのち、ふ、と息をつき、カクテルへと視線を戻す。

「ごめんなさい。やっぱり・・・・・・、」
「俺が馬鹿だった。」
「――― 、」

驚いてこちらを見る女を見つめ返し、次元は煙草を口にやった。

「それだけだ。」
「・・・・・・。」

天井に向かって煙を吐く次元を、女は眺める。グラスを取りこくんと飲んで、思い詰めたように口を開いた。

「・・・・・・しゃも、」
「ん?」

不意に店の奥で起こった大きな笑い声に、女の言葉は掻き消された。少し慌てたような顔をしてから、女が言い直す。

「わたくしも・・・・・・、わたくしが、悪かったの。」
「・・・・・・そうかい。」

煙草を揉み消し、次元は立ち上がった。二人分の勘定を置いたその手で、女の腕を取る。

「出ようぜ。」
「・・・・・・!」

強引に女を連れてゆく帽子の余所者を、いくつもの好奇の目が無遠慮に眺める。ものともせずに次元はドアを開けた。



     *



路地裏に女を引っ張り込み、暗がりで腰を抱いた。
抗い身をよじりながらも、往来に聞こえるのが嫌なのだろう、女が抑えた声を出す。

「おやめになって・・・・・・!」
「どうしてだ。」

細い顎を強引に捕らえ、覗き込みながら次元は尋ねた。

「どうしてって・・・・・・、恋人がいるのでしょう?」
「ああ。」

何か言いかけた女の唇に、唇を押しつけた。

「・・・・・・!」

突き飛ばそうとする女を抑え込み、ひとしきり唇の感触を確かめる。やがて身を離し、次元は言った。

「――― やっぱイマイチだな。」
「!」

目を吊り上げる女の顎をつまみ、強く引っ張る。刹那、闇をつんざくような白い光が、ひゅん、と二人の間を走った。

「――― あっぶねえな。どっから出したんだ?」
「くっ・・・・・・!」

仕込み刀を握る手をがっちり捕まれ、女が次元を睨み上げる。極薄のマスクをひっ剥がされたその顔は、よく知る男のも
のだった。
石川五右ェ門だ。
さっきまでのしとやかな所作はどこへやら、腕をぶんぶん振り回して侍は叫んだ。

「この・・・・・・、浮気者!」
「浮気?」

腕をぐいと引き、次元はスカートの腰を抱き寄せる。真っ赤になった侍の顔を覗き込み、笑って答えた。

「心外だな。俺は恋人とのデートを楽しんでたつもりだが。」
「・・・・・・!」
「ま、ずいぶん妙な趣向の逢い引きだとは思ったがな。こんなもんまでつけて。」

白いボウタイの先をつまみ、くっついている小さな盗聴機に向かって大声を出す。

「ルパンか? ショーはこれで終わりだ。悪ぃな。」

捻り潰してポイと捨て、もう一度侍に口づけた。

「ん・・・・・・!」
「やっぱりこの唇でないとな。あんなフィルム越しじゃ味気ねえ。」

感触を確かめるように丁寧に唇で挟み、軽く引っ張ってやる。ぷぁっ、と顔を離した五右ェ門が、追う次元の唇から逃れな
がら、聞いてきた。

「最初から、気づいていたのか。」
「まあな。」

ちゅっちゅっと音を立てるついでに次元も尋ねる。

「何を企んだんだ? 一体。」
「・・・・・・ルパンが言い出したのだ。」

怒りに赤く染まっていた侍の頬だが、今ほてっているのは羞恥のためらしい。弁解も歯切れが悪かった。

「・・・・・・拙者らの諍いを、あやつは見ておった。お主が出て行った後、賭けを持ち掛けてきたのだ。あの勢いなら間違いな
く他の女の誘いに乗るだろうと。」
「それでこの格好かよ。」

次元は眩暈がした。持ち掛ける方もどうかしてるが、乗る方も乗る方だ。

「それでお前は? どっちに賭けたんだ。」
「分かっていることを聞くな。」

憮然として五右ェ門が言う。

「・・・・・・賭けは成立した。それだけだ。」
「はっは。」

そっぽを向いている男を抱き締めた。黒髪に鼻をうずめて囁く。

「・・・・・・じゃ、お前の勝ちだな。俺は『他の女』の誘いにゃ乗ってねえ。」
「・・・・・・。」

赤い耳たぶをかぷりと噛んだ。途端に侍が抵抗を始める。

「次元、もうよかろう。堪忍してくれ。」
「いいや、まだだ。」

慣れないヒールによろめいた侍を壁に押し付けた。ボウタイをしゅるりとほどき、ブラウスの上から胸をまさぐる。

「俺の詫びが済んでねえ。五右ェ門、悪かった。」
「そ、それはもうよい・・・・・・っ!」

顔は念入りにこしらえたくせに、胸には何も細工をしなかったらしい。薄いシルクのブラウスの下には、男の裸の胸が感じ
られた。すぐにぷつりと尖ったものを見つける。やけに滑る布越しに、二つの突起を軽く引っかいた。

「くふっ!」

なめらかな布のおかげで、いつもよりくすぐりやすい。指先で布ごとこしょこしょといじめてやると、五右ェ門は可哀相なくら
い反応し始めた。いつもの着物の上からとは違う、はじめての感覚なのだろう。

「くぁっ、っふ、やめ・・・・・・!」

払おうとする侍の手を、逆に掴み返した。壁に押し付け、今度は舌で布ごと乳首を愛してやる。

「んんん!」

必死に声を抑えているが、その尖り具合で侍がどんなに感じているか、次元には分かった。唾液で湿って少しざらついた
生地がぷりぷりの乳首を摩擦するように、舌で布を捩じ込んでやる。

「ん、あ、ならぬ、次元、じげん・・・・・・!」

切羽詰まった声に、次元は視線だけ上げた。泣き顔の侍が必死に訴えてくる。

「もう分かった次元、詫びはよい、拙者も悪かったのだ。」
「そうか。」
「だからもうやめ・・・・・・、」
「やめねえ。」
「な・・・・・・ぜ・・・・・・?」
「興奮してんだ。」
「―――!」

乳首を強く吸うと、堰が切れたように侍がはしたない声を上げる。タイトスカートの中央はもうはっきりと盛り上がり、男の漲
りの形をあらわにしていた。

「すげえ・・・・・・、そそる・・・・・・。」

思わず漏らした感想に、なぜか侍ははっとした。自由にならない手の代わりに額を次元に押し付け、ごりごりと押し返してく
る。切なげな声が「次元」と問うた。

「ん?」
「何故そんなに興奮する。お主やはりおなごの方が・・・・・・、」
「それは違うな。」

答えながらもう一つの乳首に唇を移した。唾液を含ませじゅううう、と吸い立てる。

「んあああ・・・・・・!」
「こんなにして・・・・・・、見てみろ、ここ。」

薄手の白いブラウスは水を吸って突起に張り付き、左右の乳首の周りだけが透けている。五右ェ門がぶんぶんと首を振っ
た。

「見ないでくれ、次元!」
「それだ、五右ェ門。」
「・・・・・・?」

もの問いたげに薄目を開ける五右ェ門に一つキスをして、次元はひざまずいた。スカートの屹立に舌を這わせながら、笑
って見上げる。

「こんなにおっ勃てて・・・・・・、恥ずかしいだろ。」
「言うな!」
「恥ずかしいと、お前めちゃくちゃ感じるだろ。」
「―――!」
「だから興奮すんだ。」

スカートに手を差し入れてまくり上げようとした。急に五右ェ門が裾をむんずと掴んで抵抗する。

「ならぬ!」
「何だ今さら。これ以上恥ずかしいことなんてねえだろ。」
「ならぬ! 頼む次元、やめ・・・・・・、っあ!」

聞き分けがないので乳首を両方強くつまんでやった。脱力する侍の手を払いのけ、スカートを一気にまくり上げる。

「な・・・・・・!」

頭をぶん殴られたようなショックが、次元を襲った。

「な・・・・・・、な・・・・・・、何だこりゃあ!」

びんびんにいきり立つ侍のペニスを覆っていたのは、小さな紫の下着だった。ほとんどレース地で、腰のところは紐がか
わいらしく蝶々に結ばれている。女の下着にあるまじき形状に歪んだその隙間から、侍の一番敏感な先っぽがはみ出て
露を滴らせていた。

「だから・・・・・・、見るなと・・・・・・、」

蚊の鳴くような声が、上から降ってくる。

「――― この、大馬鹿野郎!」

めったに出さない大声に、侍が体を震わせた。はー・・・、はー・・・、と息が上がるのを抑えることができない。間近に顔を
寄せると、侍の蜜口からくぷぷ、と雫が零れた。

「なんだってこんなもんつけてやがんだ!」
「ふ、褌ではスカートに形が浮くと、」

ルパンが、と言う前にかぶりついてやった。

「あぁあ・・・・・・っ!」

はみ出た亀頭をベロベロベロベロと音を立てて舐めずり、その下の竿を下着ごと乱暴にしごいてやる。

「っあ、じげ、やめ、拙者、もう・・・・・・!」

救いを求める侍の声が、ほとんど耳に入ってこない。ひとたまりもなく五右ェ門は達した。びゅるっ、と放つ瞬間、わざと唇
を外し、下着とスカートが派手に汚される様を次元はじっと見つめる。崩れ落ちそうになる侍を支え、陰茎がだんだん萎ん
で下着に納まってゆく様まで目に焼きつけた。ふー、ふー・・・、という自分の荒い息が、びしょびしょのそこをなぶっている。

「じげ・・・・・・、」
「早くしまえ。」

侍の腰を掴んで立ち上がり、そのままくるりと向こうを向かせた。

「お主、」
「いいから。早く。」

促して、自分は壁に肘をつき頭を押しつけた。「はーくそ・・・」と呻く。ルパンの野郎、ぶっ殺す。あれはやべえ。ど真ん中じ
ゃねえか。
前かがみのまま深呼吸を繰り返す次元の背に、侍が声をかける。

「・・・・・・次元、」
「悪い五右ェ門、ちょっと黙っててくれ。それやべえんだよ。」
「・・・・・・気持ち悪いか。」
「逆だ。そんなん見せられたら加減できねえ。」
「・・・・・・。」

ざっ、という足音がした。
突然肩を掴まれ振り向くと、壁にどんと背を押し付けられた。

「ごえ・・・・・・、」
「じっとしてろ。」

少し乱暴に次元を制し、侍がしゃがみ込む。ベルトをガチャガチャ外す音に、次元は心底慌てた。

「いや、いい、五右ェ門。変な気ィ遣うな。」
「うるさい。これは詫びだ。」
「う・・・・・・!」

全然鎮まっていないそれを引きずり出し、侍が一気に頬張る。喉の方まで飲み込まれたかと思うと、唇がじゅぽじゅぽとそ
れを吸い立て始めた。

「くっ・・・・・・!」

光景から目が離せない。いつもそうだが、五右ェ門のフェラチオはその物理的刺激よりもビジュアルが壮絶にいやらしかっ
た。普段は禁欲を絵に描いたようなお堅い侍が、んっ、ふっ、と息を漏らしながら、漲った男のものを夢中でしゃぶっている。
しかし今日、次元の視線は淫らなおしゃぶりの先にあった。
しゃがんだ侍のスカートがどんどん引き上がり、そこから紫のものがちらちら見えているのだ。

「・・・・・・くそお!」

せっかく我慢したのに!
しゃぶらせたまま、侍の腰をぐっと掴んで立ち上がらせた。「んむ・・・!?」と混乱する男の黒髪に手を入れて口淫を続け
るよう促す。もう片方の手で、スカートを腹までまくり上げてやった。けしからん下着は尻に食い込んで役割をほとんど果
たしていない。丸見えの尻を撫で回し、割れ目に食い込んでいる布を少しだけずらした。

「んんんん・・・・・・っ!」

指は案外奥まで入った。口に含んだまま尻の穴を掻き回され、五右ェ門がくぐもった嗚咽を漏らす。ヒールの音がカコ、カ
コと鳴った。女の格好で尻を丸出しにした侍が、上も下もいっぱいに頬張らされて羞恥に耐えている。たまらなかった。

「――― 駄目だ、」
「ん、あ・・・・・・、」

口のものを引き抜かれ、五右ェ門が朦朧とした顔を上げる。抱き上げて唇に接吻した。

「ん――― 、」

壁に背を預け、侍をきつく抱き締める。頭を撫でながら、次元は先に詫びた。

「悪い・・・・・・。めちゃくちゃやっちまうぞ。」
「・・・・・・。」

五右ェ門が唇を重ねてくる。それから身を離し、黙って壁に手をついた。

「ごえ――― 、」
「何も言うな。」

尻を高く掲げ、脚を開く。生唾を飲んで後ろに回る次元の視線をきっと百も承知で、侍は紫の下着をずらしてみせた。

「・・・・・・!」

何も言える訳がない、こんなの見せられて。
気がつくと一番奥まで捩じ込んでいた。

「ぐ、ぅあ・・・・・・!」

喉の奥で潰したような侍の声に、自分がどれだけ性急だったかを知る。「悪い」と呟き、次元は侍の胸を後ろから抱いた。

「きついか、大丈夫か。」
「――― 何度も謝るな。」

侍が首を捩じ向けてこちらを見る。涙の跡の残る目が、薄く笑った。

「めちゃくちゃやるのだろう、やってみろ。」
「―――!」

何か考えるより先に、腰が動いた。
侍の体が胸まで壁につくくらい、肉棒を突き入れる。腰を引き、カリ首がぎりぎり出ないところまで抜いてはまた奥まで突く
ことを繰り返した。

「んんっ、んく、んん・・・・・・!」

律動に押し出されるように、侍の喉から呻きが漏れる。後ろから見ると本当に女のようにも見えた。犯しているのが五右ェ
門だという確証が欲しくて、ブラウスをスカートから引き抜き、男の背中をさらけ出す。筋肉のつき方、しなる腰のライン、そ
して何より引き締まった小さな尻は、確かに愛しい侍のものだった。撫で回し、突き入れる。次元のものをいっぱいに飲み
込んだ穴が、ずらされた紫の下着の下に見え隠れしている。それだけで訳が分からないくらい興奮する自分に、次元は我
ながら引いた。こんなのは本意でない。五右ェ門が悦いのかどうか、確かめる余裕すらないなんて。
最初で最後だ、これは――― !
自分に言い聞かせながら、今までにない激しさで、次元は腰を振り続けた。



     *



ずずず、と壁をずり下がってゆく侍の体を、慌てて抱き抱える。壁の下の方は、侍が三度放った精液ですごいことになって
いた。同じ数だけ次元が放った侍の中も、推して知るべしだろう。ずにゅるると抜いた。

「ん・・・・・・んん、あ・・・・・・、」

緩みきった声を侍が上げる。抜いたそばから、白い液がこぷこぷと溢れた。とりあえずスカートを下げてやり、ふらつく体を
近くの木箱に座らせる。

「・・・・・・すごい格好だな、お前。」

自分のものを納めてジッパーを引き上げながら、次元は呟いた。白かったブラウスは壁に押しつけられて真っ黒にすすけ、
裾が破れたスカートには白い液体が点々と飛び散っている。太股から地面へは、おもらししたように雫がぽたぽた垂れて
いた。

「・・・・・・殺すぞ。」

五右ェ門が珍しく物騒な言葉を口にする。

「全部お主のしたことではないか! こんなザマでどうやって帰るのだ!」
「そうだな、じゃこうしよう。」

座っている侍をそのまま抱え上げ、姫抱きにした。

「これならいろいろ隠れるだろ。」
「な・・・・・・! 降ろせ!」
「我慢しろ、車に乗るまでだ。」

姫抱きにすると五右ェ門はいつも嫌がり暴れるのだが、今回ばかりはその利点を認めざるを得ないらしい。不服顔ながら
も首に腕を回してきた。思わずキスしたくなるのを我慢して、次元はひょいと往来に出る。
駐車場までの道のりに、幸い人影はなかった。ほっとした表情の五右ェ門に、次元は囁く。

「五右ェ門、下着隠せ。また勃っちまう。」
「!」

膝を抱えられてずり上がっていたスカートを慌てて引き下げながら、「次元」と侍は尋ねた。

「店に入った時、なぜ拙者だと分かったのだ。店員もみな男とすら気づかなかったのに。」
「分かるさ。」

車道を前に次元は立ち止まった。何台かやり過ごしてから、ほっほっと走って渡り始める。

「理由なんかねえが、何度やっても俺には分かる。何ならまた試してみろよ。」
「二度と試さぬ。」
「ちぇ。」
「お主・・・・・・、」

五右ェ門が顔色を変える。ちょうど車道を渡り終えたところで、侍は再び暴れ出した。

「ちぇとは何だ。お主やはり女の方がよいのだな!」
「それは違うぞ五右ェ門。お前がその下着をつけてくれるんなら、男でも女でも俺は構わねえ。」
「――― この、大馬鹿者!」

さっき同じ言葉で自分が叱られたのも忘れ、侍はプリプリ怒っている。へいちゃらで次元は続けた。

「ああ、でもたまには女装もいいかもな。」
「なん・・・・・・、」

くわっと開きかけた侍の唇を、キスで塞いだ。ことさらに時間をかけて味わい尽くしてから唇を離し、囁いてやる。

「・・・・・・女の格好のお前となら、外で堂々とこんなことができる。」
「・・・・・・!」

真っ赤になった侍が、ブルブルと首を振って叫んだ。

「お、女でも男でもならぬ! こんな往来でなど・・・・・・!」
「そうかい。」

辿り着いた車の助手席に、どさりと侍を降ろす。

「じゃ、これが最後だ。」
「・・・・・・。」

んちゅー、と音がするくらい強く唇を吸った。意外にも侍は抵抗しない。嬉しかった。つい没頭した。
――― 愛してる、五右ェ門。

「・・・・・・げん、次元!」
「あ。」

呼び戻されてはっと気づいた。いつの間にか助手席の五右ェ門の上にのしかかっている。片方の手は侍の乳首をまさぐり、
もう片方の手はスカートをたくし上げている。視線の先にはあのいまいましい紫の下着があった。

「違うんだ五右ェ門、そういうつもりじゃ・・・・・・、」
「早く車を出せ!」
「はいよ。」

もそもそと運転席に移り、エンジンをかける。「よいか次元」と侍が言い渡した。

「帰ったら、すぐに着替えるからな。」
「ああ、分かってるさ。」

我ながら白々しいと思った。



――― ああ、分かってるさ。
棒読みのような次元の口調に、侍は戦慄した。
分かっておらぬ。絶対こやつは分かっておらぬ。
五右ェ門には確信できた。一方で、自分に自信を持つことができない。
断るぞ。絶対に断る。
たった今いじくられた乳首がまだつきつきと疼く。いまいましい下着の下で息づき始めた不埒な息子に、断る、断るぞと言
い聞かせた。

車内は異様な沈黙に支配されている。
無言の二人を乗せた車は唸りを上げ、闇に消えた。













2012年8月のインテと、同じく8月のグッコミ(ルパンプチオンリー開催)で出した無料コピー本「4⇒※5_2」に収録した作
品です。
女装ゴエにしとやかな女言葉を喋らせたい! あと、「この浮気者!」って怒らせたい! そう思って書き始めたのですが、
なんか紫の下着に全部持ってかれたような気がします。こんなはずじゃなかった、次元同様、私もそう主張したいです(^−^)。
実はこれを書いてる最中に4期の女装ゴエが公開されて、あああやっぱ普通の女装じゃゴツいよなー!と頭を抱えました。
こっちの女装はルパンがちゃんと意匠を凝らしたため、ゴツくなくなったものと考えてください(^−^)。





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