戯曲





   真夜中の和室 山鳩の鳴き声がする
   布団にうつぶせて五右ェ門が本を読んでいる
   襖が細く開く


次 もう寝たか?
五 いや


   寝間着姿の次元が入ってくる
   五右ェ門の隣に寝そべり、横から本を覗き込む


次 また五輪書か
五 うむ
次 もう何十回も読んでんじゃねえか
五 千回はくだるまい
次 すげえな


   次元、寝転がり、頭の上で手を組む
   五右ェ門は本を置いて頬杖をつく
   次元、天井を見つめながら


次 宮本武蔵が一番か?
五 何?
次 お前が尊敬する人間の話だ。一番は武蔵か?
五 ・・・・・・


   五右ェ門、本を再び手に取り眺める


五 一番尊敬しているかと聞かれると、ちと違うな
次 じゃあ誰だ? 沖田総司? 塚原卜伝とか?


   五右ェ門、首を振る


五 有名な剣豪の逸話は、後の作家が作ったものが多いのだ
次 そういうもんか
五 名もない侍が、地に足をつけて道を極めんとする、そういうのが一番尊いと思う
次 ふーん
五 おもしろいな。お主に尋ねられるまで、考えもしなかった


   五右ェ門、次元の鎖骨のあたりにのへっと顎を置く
   次元、頭を撫でる


五 拙者も一つ聞いてよいか
次 ああ
五 お主はどうして銃を持つようになったのだ?
次 ・・・・・・それこそ、考えたこともねえな


   次元、頭を撫でる手を止めて思い出す風


次 ・・・・・・多分、一番手っ取り早かったんだ。ガキの頃から周りはろくでなしばかりだったからな
五 ふむ
次 映画の影響もあった
五 ボガードか
次 よく知ってるな
五 さすがに覚えた
次 切符切りの目を掠めて、よく映画館に潜り込んだもんだ
五 こそ泥だな
次 そうさ、生粋のな


   二人笑う
   次元、五右ェ門の手を握る
   五右ェ門、握られた手を持ち上げて、つくづくと眺める


五 でかい
次 そうか? お前の方が指長いだろ、ほら(手を合わせる)
五 ふむ、全体の大きさは同じか
次 ここだけ固いな
五 剣ダコだ。お主もここが固い。マグナムタコだな
次 やな名前だな


   手をぱたんと落とし、二人折り重なったままじっとしている


次 顎、少しずらせるか
五 すまぬ(身を離す)痛かったか
次 ちょっと尖ってんだよな、お前の(五右ェ門の顎を撫でる)
五 お主のも尖っておるぞ
次 それ髭だろ


   次元、撫でていた顎を静かに引き寄せる。
   短いキス


五 (髭をつまむ)尖っておる
次 嫌か?


   五右ェ門、髭に頬を寄せる


五 嫌ではない
次 そうかい


   二人、目をつむる


次 気持ちいいな
五 うむ


   間
   山鳩が再び鳴き始める


次 寝たか?


   返事はない
   次元、五右ェ門の額に唇を押し当て、背中をゆっくり撫でる
   やがて手が止まる


   寝息


   山鳩の声がやむ
   五右ェ門、身じろぎして顔を上げる


五 ・・・・・・いつの間に(寝ていたのか)


   次元の腕を外さないように片肘をつき、寝顔を眺める
   頬にキスをする
   そのまま眺めている













2012年8月のインテと、同じく8月のグッコミ(ルパンプチオンリー開催)で出した無料コピー本「4⇒※5_2」に収録した作
品です。
私は会話を書くのが大好きで、地の文を書くのは正直めんどくさいので、それなら脚本書けばいいんじゃん!と短絡的に
考えて書いたのがこの作品です。書き始めてみると、会話だけで状況や因果関係の説明をすることの難しさがよく分かり、
結局ストーリーではなく一情景を描写することしかできませんでした。やっぱり普段の小説の方が書きやすいな(^−^)!





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