Don't Remind Me








五右ェ門は困惑しきっていた。

きらきらするような朝の光に照らされて、隣の男は幸せそうに眠っている。それは別によいのだが、弱ったのは、男が、しっかり握
った侍の手を唇に押し付けていることだった。

「・・・・・・いつの間に・・・・・・。」

手を繋いで寝た覚えはない。というか、ないと思うがよく分からない。そろそろと半身を起こしながら、侍は、朧げな記憶を辿った。
昨夜は     

      !」

突然、光景が蘇る。あまりの記憶に卒倒しそうになった。



     *



ごくたまに、そういう日がある。
昨夜の侍はまさにそうだった。どこに触られても何を囁かれても激しく感じてしまい、いつもなら絶対出さぬような声が出た。何と
かして我慢しようとしたのがまたまずかったらしい。ますます興奮した恋人はいつもよりも執拗に五右ェ門を愛し、喘ぎよがる侍に
さんざん恥ずかしい言葉を言わせたのだ。思い出すだけで死んでしまいそうな言葉の数々が、脳裏に浮かぶ。

「ほら言ってみろ五右ェ門、何が欲しいんだ?」
「っ・・・・・・、」
「ん?」
「・・・・・・。」

どうしても言えなかった。だから、黙ってその欲しいものに顔を寄せ、唇と舌で訴えたのだ。荒い息を吐き、男は笑った。

「ふ・・・・・・、しゃぶってたってダメだぜ。ちゃんと言ってみろ。」
「くっ・・・・・・、」

口の中のそれはいつ爆ぜてもおかしくないくらいに漲り、後から後から先走りを溢れさせている。今すぐ欲しかった。本当にどう
かしていたのだ。唇からそれを放し、俯いて、侍はとうとう言ってしまった。

「お主の・・・・・・、
・・・・・・、まらを・・・・・・、」

それを聞いた時の、次元の目が忘れられない。

「・・・・・・いい子だ。」

ゆっくりと頭を撫で、それから、次元は、低い声で囁いたのだ。

「・・・・・・どこに?」
      !」

殺意が湧いた。それをぶちあてるように睨んだが、欲情にたぎった男は全く動じない。

「どうした、言うまでお預けだぜ。」
「く・・・・・・!」

お預けと言っておきながら、男の指は、既にたっぷり可愛がったその場所をまたいじくり始めた。指をつぷん、と入れては抜くこと
を繰り返す。

「・・・・・・っ、次元・・・・・・!」
「ん? どこだ?」
「・・・・・・っふ・・・・・・、そこだ・・・・・・!」
「『そこ』じゃねえだろ。」

男の指がくにくにと侍の中をこねくり始める。熱い。でもそこじゃない、もう少し奥、分かっているくせに     

「次元・・・・・・!」

それから、自分は何か言った。
言った途端、次元にきつく抱き締められたのは覚えている。「分かった」と男は囁いた。
それから、うわずる声で、こう言ったのだ。

「・・・・・・拡げて、見せてくれ・・・・・・。」
「な・・・・・・!」

その後のことは、思い出したくない。



     *



修業をしなければ。
猛烈にそう思った。侍の手に口づけたままのんきにぐうぐう眠っている男を睨み下ろし、その手を引きはがそうとした。

「!?」

ぐい、と逆に引き戻された。バランスを崩してベッドに倒れ込んだ侍の両手を掴み、次元がのしかかってくる。

「・・・・・・お主! 起きておったのか。」
「ああ、さっきからな。」

一晩中繋いでいた侍の手の甲にまたキスして、男はニヤリと笑った。

      ゆうべのこと思い出してた。」
「!」

「かわいかったな」と、男は目を細める。

「覚えてるか、お前から手ェ繋いできたの。」
「嘘をつけ。」

思わず身をそむけようとする侍をとどめ、次元が首筋に唇を押し当ててくる。その時になってやっと、侍は二人とも裸であることに
気がついた。

「離せ、拙者は修業に      、」
「行くなよ。」

ぎゅっと抱きしめられて、下腹に熱いものがあたる。息を飲む五右ェ門の耳を食み、次元が囁いた。

「昨日のお前を思い出してたら、勃っちまった。」
「阿呆め。」
「そうだな。でも人のことは言えねえんじゃねえか。」
      あ!」

無骨な手にさすられたそこは、もう言い訳できないくらいに硬くなっている。「正直に言えよ」と次元が囁いた。

「お前も、思い出してたんだろう?」
      違う、」

ひくん、ひくん、と体が震えてしまう。必死で逃れながら、抗弁を探した。

「これは      あれだ、朝勃ちだ。」
「ぶっ、」

なぜか男は吹き出した。それから、やおら侍の唇を吸った。

「んん・・・・・・、」
「五右ェ門・・・・・・。」

侵入してきた舌が、侍の舌の裏をなぞる。口内のあちこちを触れられるたびに官能のスイッチが入って、昨夜の記憶が開きそう
になってしまう。

「エロかったな・・・・・・、昨日。」

侍の唇から抜いた舌を、今度は耳の穴に捩じ込みながら、次元が熱っぽく囁いた。脳裏に浮かぶ痴態の断片を追いやるように、
侍はぶんぶんと首を振る。

「忘れたのか? どういうのが悦いか、全部教えてくれたじゃねえか、その口で。」
「んんっ!」

両手が左右の乳首に触れる。指先で掠めるように先端をくすぐられると、それだけで股間がじんじんと疼き始めた。

「最初は、くすぐられるようなのがいいんだよな。」
「・・・・・・っ、」

あっという間にぴんぴんに勃ってしまった乳首を、今度は指の腹で押し潰すようにしてこね回す。

「感じるようになったら、だんだん強くして欲しくなるんだろ。」
「・・・・・・あ、・・・・・・あ・・・・・・、」

思い出した。
それを全部言った訳ではないが、「こうか?」「・・・こっちのがいいか?」という低い囁きに唸ったり声を上げたりして、昨夜の侍は
自分の性感の機微をかなりつまびらかにしてしまった。恋人はそれをちゃんと覚えていて、復習するように丁寧になぞっている。

「五右ェ門・・・・・・、」

乳首をいじくりながら、切なそうに男が顔を寄せてきた。それで思い出す。昨夜の次元も、こんなふうにして何度も侍に口づけを
せがんできた。
額同士を合わせたまま侍を見つめ、男はじっとキスを待っている。この顔がずるい、と侍は思うのだ。吸い寄せられてしまう。触
れたくなってしまう。
愛しいと、思ってしまう。
厚い唇に、噛み付くようにキスをした。途端に唇を捕らえられ、舌が容赦なく口内に入ってくるのを、侍はもはやはっきり歓びと捉
えている。自分の体が信じられなかった。ついさっき殺意を抱いた相手と、朝の日が差し込むベッドの上で、こんな風にもつれ合
っているなんて。
乳首をこね回していた手の片方が、するすると下に下りていく。腹を撫で下ろし、尖った腰骨を愛しそうにさすってから、片脚をが
ばあ、と開かせた。引きずり出した侍の舌を強く吸いながら、男の指は侍の下生えをゆっくりと梳いた。

「んん・・・・・・、」

甘い予感に、屹立したものが思わず揺らめいてしまう。そこをわざとらしく迂回して、男の指は更にその下へと這った。昨夜さん
ざん愛した穴の淵にたどり着くと、迷いもせずにすぼみの中心へ侵入してくる。

      くちゅ。

耳を覆いたくなるような水音が上がった。

      昨日の俺ので、いっぱいだな。」
「うぅ・・・・・・!」

恥じ入る声を味わうように、次元がまた唇に吸い付いてくる。昨夜拓かれたばかりのそこはまだ蕩けた感覚を覚えていて、ぐちゅ
ぐちゅと泣くような音を上げ、二本の指をすっかり飲み込んでしまった。

「ここも昨日、教えてくれたっけな。」
「ああっ!?」

一番感じるところを正確に探り当てた指が、その場所をぐうっと押したかと思うと、円を描くようにこね始めた。

「じ、げん・・・・・・! ならぬ、それは・・・・・・!」
「知ってる。めちゃくちゃ悦いんだろ。」

覚えている。昨夜はこれで何度も吐精させられたのだ。あの高ぶりを再び求めて、腰が勝手にくねり始める。どんな淫らに動い
ているか自分でも分かっているのに、もう抑えられない。今すぐ吐き出してしまいたい。
激しい絶頂を迎えようとした瞬間、

      くそっ!」

突然指が抜かれ、次元が跳ね起きた。同時に腰を高く抱え上げられて、混乱する。

      次元!?」
「もうたまんねえ。挿れていいか、五右ェ門。」

両脚を開いて押さえ、次元が侍の真ん中を凝視して、ごくりと喉を鳴らす。急に、凄まじい羞恥が駆け上がってきた。穏やかな日
差しの下、拡げきったぐちゅぐちゅの場所が男の眼下に晒されているのだ。

      待て!」

思わず叫んで、男から逃れていた。「どうした」と、次元が抱き締めてくる。

「明る過ぎる。これでは、全部、見え      、」
      見てえ。」
「ならぬ、見るな・・・・・・!」
「・・・・・・。」

男が息をついて「分かった」と言う。

「こっち来い、五右ェ門。」
「・・・・・・?」

促され、一緒にベッドから降りた。壁に向いて立たせた侍を、後ろから性急に次元が掻き抱く。

「これなら俺も見えねえ。いいだろ?」
「次元・・・・・・。」
「頼む、五右ェ門。」
「・・・・・・。」

部屋が明るいことに変わりはない。それでも、男が精一杯侍を気遣ったのは分かった。      それに、これ以上は、自分も待
てない。
脚を少し開き、自ら腰を動かして、男の濡れた先端を探した。

「五右ェ門・・・・・・、」

侍が許したのを察し、次元がすぐにそれを侍に押しあてる。

「挿れるぞ・・・・・・。」
「んん・・・・・・、」

ずにゅ、と先端が入って来る。いつもそこを受け入れる時は少し痛いのに、今日はほとんど抵抗なく飲み込んでしまう。それどこ
ろか、もっと奥に早く欲しくて腰がうごめいた。

      奥が、いいんだよな・・・・・・、」

荒い息と共に吐き出すように、次元が囁く。そんなことまで昨夜言ったのか。侍の動揺を見透かすように、男は重ねて言った。

「あんなにねだったじゃねえか。一番奥をガンガン突いてくれって。」
「まさか・・・・・・、」
「いくぞ。」
「あっ!」

不意打ちの一撃が、脳天に火花を散らす。瞬時に全てがどうでもよくなった。言ったかどうかは分からないが、一番いいところを
次元は知っている。それは確かだ。
まっすぐ立っていると、衝撃が分散してしまう。手を壁につけ、腰を少し突き出した。それだけのことで、侍の芯を次元が直撃する
ようになる。突かれるたびに、喉の奥から変な声が出た。「気持ちいいか」と聞かれ、こくこく頷いた。

      そうだ。」

次元が思い出したように言う。

「突かれながら、ここもねだったっけな、昨日。」
「・・・・・・あ・・・・・・!」

左右の乳首に手が伸びる。つままれ、引っ張るように指で揉みしだかれながら後ろを掻き混ぜられると、もう訳が分からないくら
い気持ちよかった。腕の力が抜け、ずっ、ずっ、と上体が壁をずり落ちていく。
不意に、男の動きが止まった。

      ?」

達したのか、と一瞬思ったが、注がれる気配がない。
後ろを振り返り、はっとした。
上体が落ちたせいで捧げるように突き出されてしまった尻が、次元から丸見えになっている。瞬き一つせず結合部を見つめる男
の口から、はー、はーと荒い息が漏れた。

「見るな次元、さっきあれほど      !」
「すげえ・・・・・・、クる・・・・・・。」

聞こえていない。釘付けのそこに、次元はそっと指を這わせた。

「さ、触るな!」
「目一杯拡がってるぜ、ここ・・・・・・。」
「はぅ・・・・・・!」

あり得ない場所を指で触れられて、羞恥に目が眩む。侍の淵をなぞったまま、男は熱いものを再び抽送し始めた。

「分かるか五右ェ門、俺のに合わせて、開いたり閉じたりしてるのが。」
「言うな、馬鹿者・・・・・・!」

隠そうとして尻に手をかざす。空しい抵抗だった。あっさり剥ぎ取られ、壁に押し付けられてしまう。
低く、次元が呻いた。

      もう駄目だ。」
「あ      !」

衝撃が倍になった。
ズン、ズンと音がするほどの突き込みが届くたびに、五右ェ門の奥で歓喜が生まれる。体中をその波が駆け巡るのに、一点だけ
切なさで狂いそうになっている場所があった。わななく体を捩じ向け、男を見た。
余裕のない顔で、次元が笑う。

「言ってみろ、五右ェ門。」
「〜〜〜!」

何も考えなかった。男の手を掴み、その場所を触らせていた。

「ここも・・・・・・! 次元・・・・・・!」
「・・・・・・!」

男の返事はなかった。代わりに、あてがわれた手が、ぐしょ濡れの侍を握る。後ろに打ち込まれるのと同時に荒々しく尖端までし
ごき上げられ、切なさが狂喜に転じて爆発した。

「あ! あ! あ!」
「くそ・・・・・・、もうイクぞ・・・・・・!」
「あ・・・・・・!」

侍の液が派手に飛び散ると同時に、次元が最後の一突きをぶっ放す。かっと熱くなった奥に激しく注がれる感覚と、眩しい光の
記憶を最後に、侍は気を失った。



床に崩れ落ちそうになった侍を、次元は慌てて抱きとめた。
突っ込んでいたものが抜け、侍の尻から白い液が、一筋二筋、伝い落ちる。またムラムラと催しそうになるのを堪えて、腕に力を
入れた。とりあえず侍が重い。
どさり、とベッドに寝かせた五右ェ門は、先刻と打って変わって幸せそうに目を閉じている。乱れた黒髪を梳いてやりながら、悪か
ったな、と次元は独りごちた。昨夜の話、あることないこと言っちまって。でも、本当のこともあったんだぜ。

「次元・・・・・・、」

ぴく、と動いた侍の手が、次元の手を探してさまよう。触れてやると、指と指を絡め合わせ、安心して侍はまた眠ってしまった。

      ほらな。

どうせお前はまた忘れるんだろうが。

繋いだ手を唇に押し当てる。
まあいいかと笑い、次元もまた目を閉じた。












無料コピー本「4⇒※5」に掲載した作品です。月子さん宅のチャットで、「明るいから全部見えちゃうのをイヤがるゴエと、それを
バックで解決する次元」というお題が出たので、これで消化しました(^−^)。
次元の言った「あることないこと」について、半分くらいゴエは本当に言っちゃってると思います(^−^)。





→BACK