カミングアウト








「よせ・・・・・・、次元・・・・・・、」

押し返す侍の腕の力が、何だかひどく曖昧に感じられた。
頼りない拒絶は、余計にむずむずと劣情を掻き立てる。わざと繰り返し手を伸ばしながら、次元は侍の反応を素直に楽しんでいた。二
人きりの深夜、たっぷりある時間をこんな風に始めるのも、悪くない。
三度目にまさぐった懐の手を、とうとうピシャリと叩かれた。

「いて、」
「次元!」

キッ、とこちらを見据え、侍が叱り付ける。

「よせと言うに!・・・・・・ルパンが帰ってくるであろう!」
「なんだそれか。」

威嚇する様まで愛おしいんだから、我ながら本気でイカれている。はたいた手をひょいと持ち上げ、次元は口付けた。「心配ねえよ」と
囁く。
ひょんなことからこういう間柄になってしまってからはや一ヶ月、二人はまだそれをルパンに打ち明けられずにいた。いやむしろ、絶対
に知られる訳にはいかない。

      あれ見ろ、五右ェ門。」

次元が指さした壁には、簡素なカレンダーが掛かっていた。ところどころにピンクのハートマークがついている。

「不二子とのデートの日にはな、ああやって印つけてやがんだ。」
「・・・・・・そうなのか。」
「そうさ、だからな、」

ベロンと耳を舐め、きつく抱きしめた。明らかに侍の抵抗は弱まりつつある。

「・・・・・・今日はあいつ帰って来ねえよ。」
「・・・・・・。」

たくし上げた袴の裾から手を入れ、腿を撫でた。触れるか触れないか程度に手が褌を掠めると、侍がふ、と息を吐く。

「まだしたくないか? 五右ェ門。」
「・・・・・・。」

急に侍が、次元の股間を揉みしだいた。

「ご、ごえも・・・・・・!」
      誰もしたくないとは、言っておらぬ。」
「・・・・・・!」

それから二人、無言になった。


     *


次元の部屋に場所を移した。満月に近い月が、絡み合う裸の二人を煌々と照らす。
吐く息と音だけで、どちらが達しそうなのかもう明らかだった。
仰向けになった五右ェ門の下で、同じく仰向けの次元が小刻みに動き続ける。大きく広げた次元の膝にがっちり両脚を固定され、あら
れもなく広げきった侍の秘所を、男のものが容赦なく抜き挿しした。浅黒い手に柔らかくホールドされた侍のものが、爆発寸前まで屹
立しぬらぬらと光っている。

「次元・・・・・・、もう・・・・・・!」
「もう、ちょっと、我慢、しろ、俺も・・・・・・、」
「我慢、できぬ・・・・・・! は、げし・・・・・・!」

不意に、二人の動きがやんだ。

「・・・・・・次元・・・・・・、」
「・・・・・・ああ。」
「帰って来ないのではなかったか。」
      ちっ、」

シーツが舞い上がると同時に、白い光が一閃した。
音もなくドアの上半分が傾き始め、バターン、と部屋の内側に向かって倒れる。
立っていたのは、硬直した女一人だった。

「よう不二子、何の用だ。」

マグナムを構え立ったまま、真っ裸の次元が挨拶する。

「・・・・・・覗くつもりはなかったのよ。」

しれっと言い、不二子は微笑んだ。

「・・・・・・お主、ルパンと会う約束はどうした。」

枕で前だけ押さえた五右ェ門が斬鉄剣をかざしても、女の様子は一向に変わらない。

「ルパン? 頭にきたから吊して来ちゃったわ。」

ひでえな、と次元が呟いた。お構いなしで不二子が続ける。

「あなたたち、知ってるんでしょ。あのブロンドとルパンが組んだ仕事のこと。」
「知らぬ。」
「なんだそりゃ。」
「・・・・・・。」

同時に発せられた言葉を値踏みするように眉をひそめてから、不二子は肩をすくめた。

「どうやら、無駄足だったみたいね。」
「説明してもらおうか。」
「いいけど、その物騒なものしまってくれない?」
「・・・・・・。」

ごそごそと二人は獲物を下ろした。ベッドに座り煙草に火をつけてから、「で?」と次元が促す。

「ルパンがあんまりシラを切るから、あなたたちに聞くって言ったら、今日だけはやめろって何だかすごく慌てるじゃない。だから怪しい
と思ったのよ。」

次元と五右ェ門を交互に見て、「そりゃ止めるはずよね」と不二子が付け加える。二人の顔色がさっと変わった。

「・・・・・・ちょっと待て、ルパンが何て言ったって?」
「今日だけは絶対にアジトに行くなって。そりゃもうすごい剣幕だったわ。」
「・・・・・・。」

同時に肩を落とす二人を見て、不二子もはーあ、とため息をついた。

「・・・・・・まあいいわ、おかげで素敵なものが見れたし。」

思い出したように、五右ェ門が真っ赤になる。

「なんなら混ざってくか?」

投げやりな次元の提案に侍が目を剥くより早く、「冗談じゃないわ」と不二子は切り捨てた。踵を返しかけ、あ、そうそうと振り返る。

「五右ェ門、痛かったらちゃんと言うのよ。男って夢中になると見境なくなっちゃうんだから。」
「余計なお世話だ!」
「拙者も男だ!」

くすくす笑い、不二子は背中で手を振った。

「じゃあね、お邪魔さま。」

女の影が消えると同時に、二人の口から盛大なため息が漏れる。

「・・・・・・ルパンの野郎。」
「・・・・・・気付いていたのだな、あやつ。」

はあああ、とまた一つ吐いてから、二人は顔を見合わせた。

「・・・・・・なんかもう、気がそがれたな。」
「うむ。」
「寝るか。」
「うむ。」

もそもそとベッドに潜り込み、しばらく沈黙が続いた。
突然、五右ェ門が起き上がる。

      お主、寝るのではないのか。」
「寝るぜ。」
「・・・・・・。」

不審気な様子を残したまま、侍はまたベッドに入った。ものの一分もしない内に、また「次元!」と跳ね起きる。

「いい加減にしろ、お主・・・・・・!」
「・・・・・・ちょっとだけ、な。」

伸びてきた腕に引きずり込まれ、シーツがばたばたと派手に動く。

「何がちょっとだ、そんなところ・・・・・・、ん・・・・・・、」
「お前だって・・・・・・、納まってねえじゃねえか・・・・・・、」
「お主がするから・・・・・・、ふ・・・・・・!」
「俺のも、してくれよ・・・・・・、」
「ん・・・・・・、」

また部屋は無言になった。


     *


翌日、もう日が高くなりかけた頃、ルパンはようやくアジトに帰り着いた。いつも賑々しく帰宅する男が、今日は猫のようにひっそりとド
アから滑り込む。

「よう、ルパン。」

びくう!と肩が震えたのは、急に声を掛けられたからでは決してなかった。
リビングに、ガンマンと侍が立っている。

「・・・・・・よう。」

沈黙が、三人を包んだ。
意を決したように、ルパンが口を開く。

「きの、」
「来た。」
「・・・・・・あそう。」

話はそれで終わった。
三人揃ってはああ、と息を吐く。次元が頭をバリバリ掻いた。

「・・・・・・ま、その何だ。」
「今まで気を遣わせて、すまぬ。」

五右ェ門が頭を下げる。

「いや〜、オレもいつ言おーかと思ってたんだけっどもね。」
「・・・・・・。」

お前いつから知ってたんだと聞こうとして、次元はやめにした。

「・・・・・・メシでも食いに行くか。」
「いいね、オレおごっちゃうよ? おめでとうランチ。」
「よさぬか、ルパン。」

部屋を出かけ、「ところでさ」とルパンが足を止めた。

「不二子ちゃんにはバッチリ見られちゃったの?」
「・・・・・・あいつに聞け。」
「聞いてはならぬ!」

五右ェ門が真っ赤になって叫ぶ。

「・・・・・・もーいーよ、分かったよ。」
「五右ェ門お前な、どうにかしろその分かりやすいの。」

ドヤドヤと出て行く三人の声は、ドアが閉まってもしばらく続いた。












「情事」を書いたときに、「次元と五右ェ門は気を遣っているのでしょうが、実際はルパンにバレているということが二人にバレるのはい
つでしょうか(笑)気になります。」というコメントをいただきました。「情事」の方は既にバレているという設定だったので、単発でそういう
シチュを書かせていただきました。コメントをくださった方、分かるかしら(^−^)。ありがとうございました!






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