別世界





無我の境地に、ふとそれは届いた。しっとりとして、華やかな香りだ。
それから、くつろいだ声が聞こえた。

「ふー。」

瞑想をやめ、五右ェ門はゆっくり浮上を始めた。内なる世界の奥底から意識を呼び戻し、そっと目を開ける。最初に見えた
のは、ビールのラベルだった。

「悪ぃな、邪魔したか。」

缶をテーブルに置いた男が、向かいのソファーにどっかと座る。「いや」と五右ェ門は答えた。目に映るこの世界に、自分
がいるという実感がまだ湧かない。手にしていた愛刀をぐっと握ると、やっと自分の居場所がはっきりしてきた。男の裸の
肩にはタオルがかかっている。さっきの香りは石鹸か、と思いながら、口を開いた。

「珍しいな、ビールとは。」
「喉が渇いたんでな。」

ゴッゴッと音を立てて男は麦酒を飲む。喉元から鎖骨へと液体の筋が一本伝った。

瞑想から戻ると、世界はいつも生まれたてのように新しい。

浅黒い肌を滑る透明な粒を、五右ェ門は新鮮な驚きを持って眺めた。雫の動きで、男の上半身が意外に隆起しているの
が分かる。肩や腹のカーブがこんなにも美しかったかと、つい見入ってしまう。

「――― いい体だな。」

ぶほ、と次元が泡を飛ばした。

「なんだ、突然。」
「いや、」

言ってしまってから、五右ェ門も慌てた。少し突飛だった。

「――― 特に鍛えている訳でもないのに、と思ったのだ。体格がよいのは生まれつきか。」

お茶を濁すような物言いに気づいたのかどうか、男は「そうだな」と自分の体を眺める。一口ぐびりとやったビールを置き、
それから、含みのある目で侍を見た。

「でもな、」

立ち上がり、こちらへやってくる。
あ、と思った。

「――― 全く鍛えてない訳でもねえぞ。」

言いながら隣に腰かけ、そっと侍の頬に触れる。
――― 不覚。
きっかけを与えてしまった自らの粗忽さを心の中で五右ェ門はなじった。気取られぬように、会話に興じる振りをする。

「初耳だな。お主も鍛練などしているのか。」
「まあな。」
「ほう・・・・・・、」

無骨な指が、頬をくすぐるように撫でる。優しいシグナルに気を取られつつも、思いがけぬ話に興味が湧いた。

「どうやって鍛えておるのだ?」
「・・・・・・。」

頬に触れていた指が、不意に髪の中へ入ってきた。

「―――!」

次の瞬間、五右ェ門は男の腕の中にいた。抱き締めた男が、頬ずりして囁く。

「――― 内緒だ。」
「・・・・・・、」

何だそれは。
頭を撫で始めた男に憤慨の意を表わすべく、五右ェ門は首を振った。

「教えてくれてもよいではないか。内緒にする話でもあるまい。」
「そりゃお前はそうだろうが。」

ぶんぶんと首を振る侍を「こら、動くな」とたしなめながら、次元はところ構わずキスし始めた。

「触るな、むっつり助平め。」
「そりゃねえだろ、矜持の違いって奴だ。」

言い合う声の合間に、ちゅっ、ちゅっという湿った音が混じる。抗う手を取られ、とうとうソファーに押し倒された。

「!」
「・・・・・・なあ、」

侍を見下ろす男が、肘を折り顔を寄せてくる。

「キスしていいか。」
「何を、今さんざん・・・・・・、」
「五右ェ門。」
「――― 、」

いつもこうだ、と五右ェ門は悔しく思う。熱のこもったこの低い声で名を呼ばれると、心が瞬時に溶けてしまう。ぎゅっと目を
瞑り、しかめつらのまま言ってやった。

「・・・・・・好きにしろ。」
「・・・・・・、」

ふ、と笑う空気が伝わってくる。すぐに厚い唇が押しつけられた。意外に余裕なく割り入ってくる舌を、五右ェ門は少しだけ
噛んでやる。途端に舌が引きずり出され、男の唇に挟まれてしまった。口の中で思い切り吸われた舌を離す瞬間、鼻から
抜けるような甘い声を、二人はほとんど同時に出した。

「ん・・・・・・、」

見つめ合い、それから頬を重ねて、ゆっくりと抱き合う。
耳元で深く吐き出される次元の息を聞きながら、しばし五右ェ門は体の重みに酔った。

「矜持の――― 、」
「うん?」

蕩けたような声で、次元が返す。

「矜持の違いと言ったな。」
「ああ、」

またその話か、と男は笑った。覗き込む次元の前髪が垂れてくるのを掻き上げてやりながら、侍は続ける。

「鍛練を見せないのが、お主の矜持ということか。」
「まあ、そういうことかな。」
「見られるのは嫌か。」
「・・・・・・。」

なんとなく、次元は目をそらした。言い訳するようにごにょごにょと口の中で呟く。

「――― 格好悪いじゃねえか。」
「・・・・・・、」

呆気に取られた後、笑いが込み上げてきた。くっくっと肩を揺する侍に、次元が口を尖らせる。

「なんかおかしいか。」
「いや――― 、すまぬ。思い出したのだ。」
「何を?」

――― あいつな、
いつかの夏に聞いた、ルパンの言葉が蘇る。
――― かっこいいとこだけ見せたいのよ、お前には。

なるほど、こういうことかと五右ェ門は得心する。掻き上げた前髪をわしゃわしゃと乱して、言ってやった。

「――― 内緒だ。」
「・・・・・・この野郎。」

かっ、と開いた男の口が、五右ェ門の唇にかぶりつく。笑って逃れようとする五右ェ門を捕まえて、男は齧るようなキスを繰
り返した。唇が触れてくるたびに、侍は舌を少し入れてやる。じゃれ合うような接吻はやがて深い接合に変わった。大きく開
いた唇の間で二つの舌が、まるで性器のようにまさぐり合う。

「ふ・・・・・・、」
「ん・・・・・・、」

感じきった唇と舌が、ようやく離れた。侍の頭を両手で挟んだまま、男は呆けたような顔でこちらを見つめている。唇につい
た雫を拭ってやりながら、五右ェ門はつい笑ってしまった。どうしても言わずにおれない。

「・・・・・・お主、拙者の前で常に格好よい訳でもないぞ。」
「なんだと?」

我に返ったような男の頬をつまみ、囁いてやる。

「今のその顔など、なかなかに間が抜けておる。」
「馬鹿言え、今が一番雄々しい顔じゃねえのか。」
「ぶっ、」

たまらず五右ェ門は声を上げて笑い出した。

「難しいものだな、理想の姿と現実を一致させるのは。」
「ちぇ、」

五右ェ門の指を握って封じ、次元は「それなら言うけどよ」と頬を膨らませる。

「お前だってな、人に見せられない顔になるぞ。」
「嘘をつけ。」

反射的に五右ェ門は言った。

「拙者はそんな緩んだ顔はせぬ。見えぬと思って適当なことを。」
「本気で言ってんのか。」

次元は本当に驚いたようだった。「あのよ・・・・・・」と、どこか言いにくそうに頭を掻く。

「悪ぃが、いつもとろっとろの顔してるぜ、お前。」
「信じぬ。」
「いや、だから、」
「拙者は、」

男から視線を外し、五右ェ門は言った。こんなことを言いたくはなかったが、仕方がない。

「・・・・・・お主も知っておろうが、拙者は、羞恥心の強い人間だ。みっともない顔を晒す恥辱には耐えられぬ。まして、好き
な者の前でなど・・・、」
「・・・・・・。」

穴が空くほど次元に見つめられ、侍の語尾はだんだんあやふやになった。言いながら気づいてしまったのだ。結局、自分
も次元と同じではないか。慌てて「いや」と付け足した。

「決してお主の前で格好つけようというのではないぞ。ただ、――― ふが!」

急に抱き締められ、五右ェ門の弁解は半端なまま終わった。顔中に唇を押し当ててくる男は、何だか知らないが感激して
いるらしい。混乱する侍の頬をちゅー、と吸い、次元は「そうか・・・」と漏らした。

「・・・・・・頑張ってたんだなお前、あれで。」

どういう意味だと問う間も与えず、次元は身を離し、すっくと立ち上がった。

「待ってろ。」

言い残し、部屋の隅へ向かう。男が抱え上げたものを見て、侍は絶句した。

「見せてやりてえんだ。五右ェ門。」

どん、とソファーの真ん前に鏡を置き、次元が言う。

「お前が俺の前で我慢して我慢して、どんな顔になってるか。」
「・・・・・・。」

等身大の鏡は、洒落者のルパンが外出前によく覗き込んでいるものだった。今は、声も出せない侍の驚愕を映している。

「・・・・・・な・・・・・・、」

やっと声が出たと思ったら押し倒された。

「んん! んむ、んむむ・・・・・・!」

唇を塞がれて抗議もできない。手足をバタつかせ、どうにか頭を外して、五右ェ門は叫んだ。

「馬鹿もの! 何を考え・・・・・・、」
「五右ェ門。」
「――― 、」
思いもよらぬ真剣な瞳に、つい気圧されてしまう。大まじめな顔で、次元は言った。

「好きだ。・・・・・・なんか、改めて、好きだ。五右ェ門。」

やられた。

ノックダウンした五右ェ門の唇に、次元がそっと唇を重ねる。好きだと繰り返すそれは、侍の顎を舐め、首を吸い、喉元へと
急所を辿っていった。こんなにたやすく打ち負かされてしまう自分が信じられない。しかもいま口を開くと言ってしまいそう
なのだ。「拙者もだ」と。

――― こんな酷い責め苦があるか!?

手慣れた様子で次元は侍の着物をするすると解いてゆく。見まいとしても、すぐ側に置かれた鏡が縺れ合う二人を映して
いるのが、気配で分かる。
どうしようもなく息が荒くなった。つい先刻まで無我の境地にいた自分が、こんな状況で高ぶっているなんて。男を呪いか
け、いや己の招いたことだと省みる。ぐるぐる考えているうちに、ほとんど半裸にされてしまった。

「・・・ちょっと、立ってるな。」

呟いた男の唇が、乳首に吸いつく。途端にぴん!と伸びた侍の白い脚が、鏡の端に映り込んだ。

「あ・・・・・・、あ・・・・・・、あ・・・・・・、」

どうしてこんなに感じてしまうのか分からない。そこにある鏡のせいだと思いたくない。口に含んだ先端を舌先であえかにく
すぐりながら次元の手は下腹へと移り、袴のさらに下、褌の中へと潜り込んだ。完全に勃起してしまっているそれを優しく
包み、乳首を愛するのと同じくらい緩やかに、しごき始める。

「ぁあ・・・・・・、っは・・・・・・、」
「五右ェ門、今日お前・・・・・・、」
「言うな!」

次元にしがみつき、侍は必死に制した。頼むから言うな。自分の体が常より感じやすいのはもう分かっている。それだけで
もいたたまれないのに――― 、

「次・・・・・・元・・・・・・!」

言うなと禁じたその口が、欲望に衝き動かされて開いてしまう。先刻から疼いてたまらない場所がじんじんと熱を放ち、五
右ェ門の腰を曖昧にくねらせる。

「・・・・・・。」

乳首を含んでいた男が、こちらを見上げた。はっとして五右ェ門は目を伏せる。気づかなくてよい。たったいま自分が浅ま
しくも、何を欲しがってしまったか。

「・・・・・・初めてだな。」

感極まったような声が、呟いた。

「お前がおねだりするなんて。」
「・・・・・・!」

違うと言うことができなかった。先走りまみれの男の指が股ぐらを後方へと滑るだけで、体が激しく震えてしまう。
辿り着いた指が、蕾をとん、と突いた。

「っあ!」

痺れるような快感が、体を駆けた。
そのまま秘密の場所に入ろうとして、指が入口をほぐす。

「あ・・・・・・、あ・・・・・・、」

もう隠すこともできなかった。早く、早く入ってきて欲しい。あの場所を中から愛して欲しい。
まるで全部分かっているかのように、男は躊躇なく動いた。まっすぐに伸ばした指が、焦らしもせず肉壁のあわいを入って
くる。

「んんん・・・・・・!」

欲しかったまさにその場所に、指がぴたりと添った。沸き上がる快感に耐えかねて男の肩に押し付けた額を、次元が頭ご
と抱き、そっと引き離す。

「・・・・・・。」

男は何も言わなかった。五右ェ門の顔をただ見つめ、中に入れた指をゆっくり動かし始める。みっちりと包む肉の圧迫を味
わうように、指全体が侍の中を行き来した。

「ふ・・・・・・っ、ぅっ・・・・・・!」

慈しむような愛撫から、快感が溢れて溢れて止まらない。顔を覗き込まれているのが分かっていても、反応を抑えることが
できなかった。抑えるどころか―――!

「五右ェ門――― 、」

次元が驚いた声を上げる。何も言い訳できなかった。片膝を大きく開き、あからさまなポーズで、五右ェ門は伝えてしまっ
たのだ。
もっと、もっと動かして欲しいと。

「・・・・・・。」

不意に次元は指を抜いた。はっとする侍の肩に手を入れ、起き上がらせる。
促されるままに体を起こした刹那、五右ェ門は息を飲んだ。
そうだった、鏡が―――!
存在を忘れかけていたそれに映る者が誰なのか、侍には一瞬分からなかった。いや、見えた瞬間に頭が否定した。そん
なはずがない。こんなに緩みきった赤い顔で、口の端からよだれを垂らした男が、まさか自分であるはずが――― 、

「・・・・・・な、五右ェ門。」
「!」

吐息混じりの囁きに、思わず体がびくんと跳ねた。男の低い声が、耳に流れ込んでくる。

「とろっとろだろ。」
「・・・・・・!」

目を瞑ったまま五右ェ門は激しく首を振った。違う、これは違うと思うのに、もう一度鏡を見ることができない。それ以上追
及せず、次元は侍のこめかみに唇を押し当てた。五右ェ門を鏡に向かって膝立ちにさせ、先程愛した場所へ後ろから指を
挿れる。

「う・・・・・・!」
「も少し、開け・・・・・・。」
「ん・・・・・・、」

体はおそろしく従順だった。言われるがまま、犯しやすいように膝を開いてしまう。男の指が入ってきた。さっきより一本増
えている。ずっ、ずっと突き上げられるような感覚が、視界を閉ざした体中に強烈に響いた。やっと一番奥まで入ったそれ
がゆっくり引き抜かれたかと思うと、ずくずくと音を立てて出し入れし始める。

「んっ! っぐ! んんっ・・・・・・!」

口に拳を当てて抑えても、喉から声が漏れてしまう。膝がだんだん開いていることも、尻を突き出してしまっていることも分
かっていた。どうしようもなかった。

「たまんね・・・・・・、」

喉を鳴らした男の指が、中でぐりぐりと壁をえぐる。自分の尻が一緒になってはしたなく揺れている。発情しきった声で、男
が「五右ェ門」と呼んだ。

「すげえ、エロい・・・・・・、」
「っんん・・・・・・!」

陰茎の先端に何かが当たった。ぴちゃ、という水音と同時に平たいものが蜜口を撫で回す。男の掌だと気づくと同時に、絶
頂がきた。出る、と思った瞬間、

「ああ・・・・・・あっ・・・・・・?」

尻穴に突っ込まれていた指が急に引き抜かれ、そこが空洞になった。思わず落胆の声を漏らしてしまう。行き場を失い、
膝から崩れ落ちそうになった体を、男が後ろからぐっと抱き締めた。

「五右ェ門・・・・・・、」

甘い声がした。それから、口を開いた尻穴に、熱いものがちゅ、とキスするように当てられる。それだけで体が歓喜にわな
なくのが、もう男にもばれている。

「・・・・・・入れていいか。」
「――― 、」

ぶん殴ってやろうかと五右ェ門は思った。いいかもくそも―――!
目を瞑ったまま、あてがわれたそれを握り、ただ一言だけ言った。

「早く・・・・・・!」
「・・・・・・!」

息を飲む音が聞こえた。なぜか男は動かない。しばらく経ってからようやく五右ェ門を抱き直し、掠れた声で言った。

「・・・・・・目、開けろ。」
「・・・・・・!」
「見てくれねえと、入れねえ。」

この―――!
殺意が目を開かせた。鏡の中の男を睨みつけようとして、そのまま五右ェ門は硬直した。
何という、顔を―――!
色だの欲だのを通り越し、恋人の顔はただただ辛そうに見えた。見たこともないくらい赤い顔をして、歯を食いしばり、とも
すれば荒ぶりそうな吐息を必死に我慢している。
こんなになりながら、あの意地悪な声を出していたのか――― 。
ふ、と笑う侍を、次元が鏡越しに覗き込む。

「・・・・・・何だ?」
「いや。」

――― 次元。

力を抜き、五右ェ門は膝立ちの姿勢を崩した。男の股間の上に腰かけ、背後の首に腕を回す。鏡の中の男をちらと見てか
ら腰を少しずつ前へずらした。そのままゆっくり膝を開く。男が喘いだ。

「五右ェ門・・・・・・。」
「見ていてやる、次元。」
「―――!」

鏡の中、白い股を全開にした男が、不敵に笑う。

「―――挿れろ。」

告げた途端、男が膝にがばっと手を入れた。勢いよく侍を抱え上げ、屹立をもどかしく侍の穴にあてる。先端がすぼみに
埋もれた。

「あ・・・・・・、」

やっとその場所を見つけて歓喜するように、男のものが潜り込み始める。ひく、ひくと収縮を繰り返しながら少しずつ拡げら
れ、ゆっくりと男を含まされていく自分の孔を、五右ェ門は息もせず見つめた。
見てはいけないものを、とうとう見てしまった。
なんという恥知らずな体だろう。光景に興奮して、おっ広げたペニスが透明なよだれを幾筋も垂らし始めた。五右ェ門には
もう、それを咎めることもできない。

「あ・・・・・・、あ・・・・・・、」
「上手だ。」

荒い息まじりに次元が囁く。本当はガツガツ押し込みたいだろうに、こんな蕩けるような挿れ方をしおって。なじる代わりに
五右ェ門は、肩に乗る男の髭を引っ張った。「いで」と呻き、次元が侍の前に腕を回す。体を支えるその手が胸を這い、乳
首をつまんだ。

「んっ・・・!」

やわやわと揉みしだきながら、男がゆっくりと腰を波打たせ始める。軽く力を加えられた乳首がつんと訴える快感と、突き
上げられるたびに尻穴の奥から疼いてくる快感が、みなぎる陰茎へとぎゅんぎゅん集まってくる。全く触れられていないそ
こが、一番めちゃくちゃにされている気すらする。

「やっぱお前、今日、すげ・・・・・・!」

荒い息混じりに次元が漏らす。律動が激しくなった。入口近くの一番敏感なところと、奥の一番恥ずかしいところがもうとろ
とろになって、男の劣情を受け止めてはねぶり上げている。

「溶ける・・・・・・、五右ェ門・・・・・・、」
「〜〜〜〜〜!」

男が、絶対に出してはいけない声が出た。
くる、と思った。
遅いかかる絶頂がいつもと違う。地の底から響くような衝動が、重く低く押し寄せては重なって引くことをせず、五右ェ門を
いつまでもなぶり続けた。鏡の中では、口を半分開いた男が、長い喘ぎを上げながらやられ放題に揺さぶられている。突
き上げられるたびに白い液が、蜜口からとろっ、とろっとだらしなく漏れた。

「・・・・・・!」

次元が無言でそこに手を伸ばす。息も絶え絶えに五右ェ門は制した。

「触るな・・・・・・、」
「五右ェ門・・・・・・!」

男が泣きそうな声を出す。泣くな馬鹿者、泣きたいのはこっちだ。こんな格好を見せつけられて、まだこんな、恥ずかしい、
言葉を――― 、

「いいから、もっと・・・・・・、」
「ごえ――― 、」
「突いて、くれ、じげん・・・・・・!」
「・・・・・・!」

次元の顔が変わった。
両膝をすくい上げられ、下半身が完全に宙に浮く。次の瞬間、尻から脳へ強烈な衝撃が走った。
赤ん坊のような格好で乱れ揺れる両脚の間で、自分の尻の穴が男にずぼずぼといいようにされる。気が狂いそうだった。
音を立てて腹を打つ自分のものからはもう何も出ない。放り出されたような快感の波間を、どう泳いでいいのか分からない。
獣のように腰を振る次元と、鏡の中で目が合った。自制をほとんど失った貪婪な男の眼と、とうに別の場所へ行ってしまっ
た自分の眼。見つめ合った瞬間、二人は鏡から目を離し、互いの唇にのめり込んだ。

「じ、げん・・・・・・、」
「ああ・・・・・・、」
愛している、という言葉だけ思い出した。



     *



命からがら窮地を脱した時でさえ、こんなに疲れなかったと思う。
ソファーから落ちかけた重い体をどうすることもできず、二人は重なったままただ荒い息を吐いた。
先に口を開いたのは五右ェ門だった。

「・・・・・・やはりお主の顔は、間が抜けておった。」
「お前な・・・・・・、」

喘いだきり、次元がしばらく絶句する。ひゅー、ぜー、と呼吸した後、やっと二の句を継いだ。

「――― 本気で言ってるのか? 自分がどんな顔してたか、まさか見てなかったんじゃねえだろうな。」
「見ておらぬ。」

全てを承知で言い切った。なかったことにする。もうそれしかなかった。

「・・・・・・分かった。」

呟いて次元が腕を伸ばす。ずり落ちかけた侍をぐい、と引き上げ、まだ激しく上下する胸の上で抱き留めた。耳だか頬だ
かよく分からない場所に口づけて、囁く。

「・・・・・・じゃまた今度やろう。」
「・・・・・・。」

五右ェ門は返事をしなかった。
代わりに愛しい男の首へ腕を回し、きつく抱き締める。

鏡の中の二人が笑っていた。













2012年8月のインテと、同じく8月のグッコミ(ルパンプチオンリー)で無料配布した「4⇒※5_2」に収録した作品です。
たぶん気づく方はあまりいないと思いますが、私の作品にしては珍しく、エロシーンがゴエ視点です。あまり書いたことが
ないな、と思って挑戦したのですが、私にはものすごく難しかったです。たぶん今までの上位3位に入るくらい書くのに時
間がかかりました。
この作品の「4⇒※5_2」掲載にあたっては、じろたんさんが挿絵を描いてくださいました。じろたんさん、ありがとうございま
した(^−^)!
じろたんさんの挿絵は ⇒ こちら





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