After Job








巨大なドームの天井が、ゆっくりと開き始めた。
徐々に広がってゆく星空に向かって、派手な気球が上昇を始める。
あの途方もない労力に見合う大団円と言ってよかった。次元と五右ェ門が苦心したダミー映像とルパン人形は、無数に配
置された防犯カメラと警官達を見事に撹乱し、だだっ広い会場にたった一箇所、無人の場所を生み出した。まさにそこから
浮き上がろうとしている気球に乗り込み、振動が腹に伝えてくる愉悦を味わいながら、たまの苦労も悪くないなと次元は思
う。
ドームの屋根を抜けるとき、そのへりに男がぶら下がり、何事か喚いているのが見えた。とっつぁんだ。だんだん小さくなる
その姿に向かって三人並んで仲良く手を振った後、ルパンがシャンパンの詮を景気よく飛ばした。頬をなぶる夜風にグラス
を高々と掲げ、男たちは成功を祝い合う。

「な〜かなかどうして、とっつぁんの準備も周到だったでないの♪」

作戦が図に当たり、ルパンは有頂天だ。今夜ばかりはそれを茶化さず、「そうだな」と次元は素直に相槌を打った。

「まったく、あのおっさんは加減てもんを知らねえから困る。」
「加減を知らぬのは、ルパンも同じであろう。」

目の下にひどい隈をこしらえながら、五右ェ門も珍しく相好を崩している。早くも空になった侍のグラスにおかわりを注いで
やりながら、ルパンが呵々と笑った。

「手加減抜きでやり合うから楽しいんじゃないの♪」
「付き合わされるこっちの身にもなれってんだ。」

うそぶきながらも、次元は機嫌よく下界を見下ろした。気球は風に乗り、早くも都心を離れつつあるようだ。

「で、こいつはどこに向かってんだ?」
「ん? 言ってなかったっけ? シベリア。」
「なんだと!?」

事もなげなルパンの返答に目を剥いた。五右ェ門も思わず腰を浮かす。

「いやね、不二子ちゃんがど〜しても今すぐ来てぇルパァンv なんって言うもんだからよ。うしししし♪」
「冗談じゃねえ! 今すぐ降ろせ!」
「ルパン、拙者もシベリア行きは御免こうむるぞ。」

顔色を変えて抗議する二人に、ルパンはのんびりと言ってのけた。

「し〜んぱいいらねえって。お前らはちゃーんとイイとこで降ろしてやるよ。」

確かに気球は少しずつ降下し始めている。ただ、つい先刻までと打って変わって、下界はずいぶん暗いようだった。

「山ん中じゃねえのか? 一体どこで降ろすつもりだ。」
「ま〜ま、着いてからのお楽しみ♪」

しばらくすると、遠くにチラチラと灯りが見えてきた。白くたなびく煙のようなものも見える。不意に、五右ェ門が鼻をうごめか
せた。

「・・・・・・温泉の匂いだ。」
「お、さ〜すが五右ェ門。」

言われてみれば、微かに硫黄の匂いがするか? 次元が鼻をふんふんさせている間に気球は下降を続け、灯りのさざめく
町の少しはずれあたりにズン、と降り立った。どうも田んぼの真ん中らしい。

「さ、降りた降りた! この後はシベリアまでノンストップだぜ。」
「・・・・・・。」

顔を見合わせ、五右ェ門と次元は何となくもそもそと気球から降り立った。「じゃ〜な♪」とルパンが手を振る。何と言ってい
いか分からない次元に代わり、五右ェ門が口を開いた。

「ルパン、かたじけない。」
「いいってことよ! ご・ほ・う・び♪」

ウィンクを飛ばして、ルパンがバーナーの火力を上げる。舞い上がる熱風と共に、再び気球は上昇を始めた。ヒラヒラとハ
ンカチを振っている男を見上げ、お節介め、と次元は呟く。こんな辺鄙な所に降ろしやがって。そりゃまあ、ありがたくないと
言ったら嘘になるが。

「さてと。五右ェ門、まずは宿を・・・・・・、」

す、と手を繋がれ、次元は絶句した。

「ゆくか。」
      お、おう。」

自然に恋人モードになった侍に、こちらがドギマギする。仕事中は敢えて追いやっていた胸苦しさが、急にせり上がってき
た。
真っ暗な田んぼは冬枯れて、夜露のせいか少し湿った匂いがする。砂利を踏む二人の足音だけが、辺りに響いた。
真っすぐ前を向いて歩く侍は一見普段どおりだったが、喜んでいるのが次元には分かる。繋いだ手が、時々きゅっと締まる
のだ。侍に知れないように、細く息を吐いた。

      今すぐ抱き締めてえ。

やはりここいらは温泉街であるらしい。通りに出ると、旅館が幾つか並んでいた。
手近にあった厳めしい門をくぐってみる。中庭も立派で、だいぶ年季の入った旅館のようだ。既に人は寝静まっている時間
だったが、番頭らしいのが出て来てきちんと挨拶した。何もない平日だからか、運よく部屋は空いているらしい。夜中なので
食事は出ないが、風呂に入って寝られるなら何でもよかった。

      こちらでございます。」

仲居に案内された部屋は、いかにも古風な日本家屋といった雰囲気だった。天井が低い。丁寧に磨かれた柱やずっしりと
したちゃぶ台が、時代を感じさせた。仲居のこと細かな説明を端座して真面目に聞く侍の後ろに次元は立つ。露天風呂が
ある、というくだりだけ耳にとめ、後は聞き流しながら、焦れたように爪先で畳をなぞった。
最後に、侍からの心づけをスマートに受け取った仲居が、「ごゆっくりどうぞ」と襖をぴったり閉じる。
五右ェ門が立ち上がるのと、次元が両腕を伸ばすのが同時だった。

ものも言わずに抱き合った。
ずっと、早く、こうしたかった。
目を瞑り、ただ深い息を吐いて、互いの体温に浸る。

      長かったな。」
「うむ・・・・・・、」

背中をゆったりと撫でているだけなのに、五右ェ門の声はもう熱を帯びている。赤い耳元に囁いた。

      露天、行くか?」
「・・・・・・。」

侍は少しためらった。露天風呂には他の客がいるかもしれない。大好きな温泉に行くか、このまま二人きりでいるか、迷っ
ているのだ。ただそれだけのことも、次元には嬉しかった。笑って瞼にキスしてやる。

      行こうぜ。」
「よいのか。」
「いいさ、体も冷えたしな。」
「・・・・・・かたじけない。」

そう言って笑う五右ェ門を、もう一度抱き締めた。



     *



脱衣所は無人だった。独特の湿気た匂いが日本を実感させる。すたすたと脱衣所を突っ切り、露天に通じるガラス戸を開
けて、次元は「おっ」と歓声を上げた。

「喜べ五右ェ門、誰もいないぜ。」
「・・・・・・別に誰かいたとて、構うまい。」
「何言ってやがる。」

侍の背後に回り、掻き抱いた。

「人がいたんじゃ、こういうことができねえだろ。」
「・・・・・・!」

後ろから袷に手を入れて耳を軽く食み、「脱がせてやるよ」と囁いた。前をくつろげ、袴の帯に手を掛ける。

「よせ、人が、」
「来ねえよ。」

すとんと袴を落とすと、上着の裾が広がって揺れた。わざと肌には触れないようにして、ゆっくりもろ肌を脱がせてゆく。腕
のあたりまで脱がせたところで、我慢ができなくなった。はやるまま褌へ手を伸ばした途端、侍が激しく抵抗を始める。

「もうよい、後は自分で、」
「ダメだ。」
「〜〜〜!」

突然、侍は後ろを向いた。振り向きざま次元に抱きすがり、面食らった男にがむしゃらに口づけてくる。

「・・・・・・ん、む・・・・・・、」
「・・・・・・。」

髭を両手に挟み、吸い尽くすだけ吸い尽くしてから、侍はやっと顔を離した。はぁはぁと軽く息を荒げるその顔を覗き込み、
ニヤニヤと次元が尋ねる。

「・・・・・・人が来るからダメなんじゃなかったのか?」
「・・・・・・。」

赤い顔を伏せ、侍は黙って次元のネクタイをぐいと引っ張った。勢いで近づいた侍の唇を、今度は次元が塞いでやる。貪ら
れながらも一心にネクタイを解く侍のサラシを、ぐるぐるめくって剥いていった。素肌に触れるたびに、侍の腹がひくんと震
える。最後の端切れを落とすが早いか、待望の場所に手をやった。

「!」
      五右ェ門・・・・・・、」

唇を離し、思わず次元はそこを見た。勃起しているのはだいぶ前から分かっていたが、それにしても     

「すげえな・・・・・・。」
「・・・・・・!」

じゅぶじゅぶと音を立てるそこを褌ごと揉み込まれて、侍の息が止まる。

「やめ・・・・・・、」
「もう、イッちまうんじゃねえか・・・・・・?」

囁いた途端、

「いて!」

どん、と突き飛ばされ、次元はよろめいた。残りの褌を自ら剥ぎ取り、衣類を籠に突っ込んで、侍が脱兎のごとく露天へ駆
け出してゆく。

      ちぇ。

少し笑い、悠々と背広を脱いだ。




カラリ、とガラス戸を開けると、侍は露天の淵で湯をかぶっているところだった。

「悪かったよ、五右ェ門。」
「・・・・・・。」

声をかけると、渋い顔でこちらを振り返る。次元を見た途端、困ったように目を逸らした。

「・・・・・・少しは隠したらどうだ。」
「意味ねえだろ。」

いきり立つものを意に介さず、侍の隣にしゃがみ込む。そそくさと湯桶を置いて腰を上げる侍を見やり、ニヤニヤした。

「お前もだろ。」
「うるさい。」

ざぶんと湯に足を突っ込み、侍はどんどん向こうへ行ってしまう。「おい」と声を掛け、手早く湯をかぶった。

「そんなに警戒すんなよ。悪かったって。」
「・・・・・・。」

返事はない。しょうがねえなと嘆息して、次元も湯に足を入れた。気球で長く風に晒されて体が冷えたせいか、少し熱めに
感じる。とりあえずその場で湯に身を沈めた。チリチリと熱い感覚が一気に押し寄せ、去ってしまうと、体が自然にくつろい
でゆくのが分かる。長い息を吐いてから、「五右ェ門」と遠くの男に声を掛けた。

「なあ、こっち来いよ。」
「・・・・・・。」
「何もしねえ。誓ってもいいぜ。」
「信用できん。」
「・・・・・・。」

即答に思わず苦笑した。そりゃそうだ。言ってる俺だって自信がねえ。湯をすくい、顔にかけて揉んだ。
ざばあ、と向こうで水音がした。

「・・・・・・?」

目を開けた。立ち上がった侍が、ざぶざぶとこちらに向かって歩いてくる。まさか、もう上がるのだろうか。
見ている次元の前まで来て、突然侍はぐるりと背を向けた。かと思うと、勢いよく座り込む。

「わぷっ!」

湯しぶきに思わず手をかざした。水を拭って顔を上げると、目の前に侍の頭頂部があった。次元の爪先あたりに腰を下ろし、
膝を抱えて空を見上げている。

「よい月だ。」
「・・・・・・そうだな。」

嬉しくて声が上ずりそうになるのを我慢した。さあっと冷たい風が吹く。束の間、湯気が真横に流れた。

「・・・・・・。」

少しずつ、少しずつ脚を開きながら、次元は前ににじり寄った。腕を湯から抜き、そろそろと前へ伸ばす。湯が大きく動いて
波が立った。侍はきっと気づいている。
後ろからそっと掻き抱いても、侍は何も言わなかった。ただふうー、と長い息を吐く。

「・・・・・・気持ちいいな。」
「うむ。」

薄雲が風に流されて、半月をおぼろに隠す。しばらく二人、その柔らかな光を眺めた。
侍の頭が、肩にもたれかかってくる。

「・・・・・・。」

ほんのり紅い首筋が、目の前に無防備に晒された。濡れて輝くその肌に、ごく自然に口づける。軽く吸うと侍は少し身じろぎ
した。それから、全身の力をゆっくり抜いた。
完全に委ねてくる体の重みを、心地良く受け止める。よく分からねえが、幸せってのはこういうもんかもな、と思った。独り
笑う次元を侍が振り返り、目で問うてくる。

      幸せだ。

告げる代わりに、唇を食んだ。

「ん・・・・・・、」

多分、伝わったと思う。
水音に、ちゅ、ちゅ、と不埒な音が混じった。
抱き直そうと胸に回した手が、つんと尖った突起を掠めた。唇を求めていた五右ェ門が、「っ」と息を漏らす。こちらに捩じ向
けていた首を戻そうとするのを押さえて唇を塞ぎ、乳首を湯ごとふよふよとなぶった。やっと唇から逃れた侍が、抗議の声
を上げる。

「じげ・・・・・・!」
「好きだ。」
「!」

不意打ちをモロに食らい、侍の顔が真っ赤になる。

「好きだ、五右ェ門。」

黙って前を向いてしまった男の耳を食み、繰り返し囁いた。目をぎゅっと瞑り、侍が一言、「ずるい」と呟く。そうかもしれない、
と笑った。

「すまん。      でもな、」
      あ・・・・・・!」

腹をぐっと抱えて引き寄せ、侍の前に手を伸ばす。

「許してくれ。長いこと堪えてたんだ。」
「・・・・・・っ・・・・・・!」

手に触れたものを握り込んだ。ずっと堪えていたのはどうやら次元だけではないらしい。はち切れそうなそれを軽く撫でると、
「じげん」と切羽詰まった声が上がった。

「ならぬ、こんな所で      、」
「イキそうか? もう。」
「・・・・・・。」

湯に髪を半分浸けて、侍が小さく頷く。猛烈な昂ぶりが次元を襲った。

「やめ・・・・・・、次元!」

熱いものを強く握り、にゅぐにゅぐとしごき上げる。勃起がさらに大きくなって、次元の手の中で切なげにうねった。もう片方
の手で尖った乳首を引っかくようにつまびいてやる。濡れたうなじをきつく吸うと、食いしばった歯の奥から、侍がくぐもった
ような音を漏らした。声を出すまいと必死なのだろう。湯が不規則に跳ね、二人を中心に激しい波が広がっていく。
正直、いま人が入ってきたらアウトだ。でも久しぶりに抱いた侍の反応はやば過ぎた。自分が甘かった。もう止まらない。

「イっていいぞ、五右ェ門。」
「・・・・・・!」

激しくかぶりを振る侍の両膝に自分の膝を入れた。がば、と開くと、狂ったように侍が暴れだす。脚をがっちり固定し、無防
備に漲るそこを執拗に愛撫した。もう筋が幾つも浮き出ている。身を離そうともがく上体をぐっと抱き、首筋に歯を立てた。

「・・・・・・!」

侍の息が荒々しく弾む。腹に力が入り、体全体が震え始めるのは、侍が達する前触れだ。頭を真っ白にして、次元はひた
すら男を愛し続けた。熱いものがびくびくと震えた、その時     
不意に手首を掴まれた。

「次元!」

ふーっ、ふーっ、と吐き出す息と共に、切れ切れの声で侍が請う。

「ここでは、嫌だ。頼む・・・・・・!」
「・・・・・・。」

振り返り訴える侍の目に、涙が浮いている。急に我に返った。

「・・・・・・すまん。血が上った。」

目元に口づけ涙を吸いながら、行き過ぎを詫びる。拘束を緩め、横抱きにして膝に乗せてやると、侍はくったりと抱きついて
きた。

「おい、大丈夫か?」
「う・・・・・・む・・・・・・、」

押し当てられた侍の首が、がんがん脈打ってひどく熱い。頬も肩も背も、少し異常なくらい赤かった。ゆでだこのような、と
言っていい。

「お前、のぼせたんじゃねえか?」
「分からんが・・・・・・、ちと、目が回る。」
「・・・・・・。」

肩で息をしている男を抱きかかえ、ざばあと次元は立ち上がった。侍が狼狽した声を上げる。

「次元!?」
「悪かった、五右ェ門。戻るぞ。」

殊勝な顔をして詫びる次元を、侍がぼうっとした顔で見つめる。
それから、「遅い」と言って笑った。



    *



すうすうと寝息を立て始めた侍の額に、まだ汗が浮いている。タオルで押さえ、吸い取ってやった。茶道具の盆の蓋を取り、
赤い顔をあおいでやる。
真夜中で本当によかった。適当に浴衣をかぶせただけの侍を姫抱きした姿など、目撃した方もされた方も不幸というものだ。
「大丈夫だ」と言いつつぐんにゃりしている侍を部屋に連れ帰り寝かせると、「大丈夫だ」とまだ言い募りながら、侍の目はす
ぐに閉じてしまった。
全く自業自得だ、とため息をつく。こんな状態に気づかないほど夢中だったとは、我ながら情けない。
五右ェ門が、んむ、と喉を鳴らし、またすぐ眠りに落ちる。やたら太平なこの寝顔を眺めるのもずいぶん久しぶりで、しばし
見入った。本懐を遂げることはできなかったが、こういうのも悪くはない。侍にしてみればいい迷惑だろうが。
外の空気を入れてやった方がいいか、と思いつく。
古風なネジ式の鍵を開け、木枠の窓をガタガタと開けた。澄んで冷たい夜の空気が入ってくる。水の流れる音が聞こえた。
近くに川でもあるのだろうか。窓枠に腰掛け、懐の煙草を探した。

      次元。」

寝床の方から声がした。顔を上げると、侍が横になったままこちらを見ている。「起きたか」と答え、腰を上げた。

「どうだ、気分は。」
「うむ、喉が渇いた。」
「そうか。」

冷蔵庫に向かい、ミネラルウォーターを取り出した。布団に戻ると、侍が起き上がりかけたまま中途半端な姿勢で固まって
いる。

「どうした、大丈夫か。」
「・・・・・・ちと、眩暈が。」
「無理して起きるな。」

肩を支え、再び寝かしつけた。「かたじけない」と律儀に詫び、侍が水のボトルに手を伸ばす。ふと考えが浮かび、ひょいと
かわした。「次元」と咎める侍に、微笑んでみせる。

「横になったままじゃ、飲めねえだろ。」
「・・・・・・。」

困惑の眼差しで見上げる男の前で、ボトルの水をあおる。口に含んで見つめてやると、侍の喉がんく、と鳴った。次元の意
図を悟ったらしい。

      ん。」

濡れた唇を寄せた。睫毛を伏せて少し迷ったのち、侍が微かに顎を上げる。
尖り気味の唇にゆっくり口づけた。先に次元が口を開いたのがまずかったようだ。水が一筋、二筋、侍の頬を流れた。

「・・・・・・難しいな。」

笑いながらまた水を含む。赤い顔で睨む男におおいかぶさり、今度は遠慮なく唇を押し付けた。そのままにしていると、た
めらいながら侍が唇を開く。少しずつ、少しずつ流し込んでやった。次元の襟を掴み、喉を鳴らして侍がそれを飲む。繰り
返すうちに、零さず飲ませてやれるようになった。

      まだ欲しいか?」

何度目かの接吻の後、熱っぽい顔を覗き込んだ。侍が、おとなしく頷く。

「・・・・・・うむ。」

ずくん、ときた。
濡れて光る唇に、吸い寄せられる。再び水を含み、口づけた。侍がそれを上手にこくこくと飲む。
全部飲み干してしまっても、唇を離さなかった。張り飛ばされる覚悟を決め、そろそろと舌を入れてみる。予想外のことが起
こった。
侍の舌先が、そっと触れてきた。

      、」

気がつくと、貪っていた。
水で少し冷たくなった互いの舌が、絡め合った途端に熱を帯びる。引き込んだ舌を思うさま吸うと、侍が微かな息を漏らし
た。猛烈な衝動に突き上げられる。離したくないと強く思う。
がむしゃらに抱き上げた瞬間、

      あ、

男の体温の思わぬ高さに、次元は我に返った。
そうだった。
さっき反省したばかりじゃねえか。また同じ轍を踏むつもりか。引きはがすようにして、侍を床に下ろした。
二人同時に、大きな息を吐く。横たわる侍の髪をくしゃ、と撫で、次元は荒い息と共に詫びた。

「すまねえ、調子に乗った。」
「・・・・・・。」
「まだ飲むか? いるなら      、」

ふいに手首を掴まれ、声が途切れた。

「水は、もうよい。」
「・・・・・・。」
「次元      、」

それだけ言って、侍が口をつぐむ。

「・・・・・・いいのか。」

一ミリも動けなかった。かろうじて掠れた声だけが出る。

      今、俺はめちゃくちゃに抱くぜ。」
「かまわぬ。」

はっきりとした声だった。

      抱いてくれ、次元。」

強く、優しい男の顔で、侍が微笑む。まるで抱くぞと言われたようだと次元は思った。




「・・・・・・声が・・・・・・、」

一糸まとわぬ体に手当たり次第口づけていると、侍が何か言った。

「ん?」
「・・・・・・お主は、声が狡いな。」

少しぼうっとした顔で、次元の手を握ってくる。「そうか」と笑い、裸の胸の乳首をぺろ、と舐めた。

「あ、」
「俺に言わせりゃ、お前の声の方が・・・・・・、」
「んっ・・・・・・、ん・・・・・・!」

よほどクるがなと囁いて、強く吸い立てた。思わず侍が高い声を上げる。ほら、やっぱりすげえ。

「・・・・・・尖ってきたぜ。」

声が狡いなら、たくさん聞かせてやる。もう片方も指でいじめながら、ちゅ、ちゅ、と吸い続けた。

「前より敏感になったか? こんなにすぐ硬くはならなかったがな、昔は。」
      !」

涙目で侍が睨みつけてくる。唇を離し、代わりに舌を突き出して、突起をこね回しながら囁いてやった。

「『いい』って言ってくれよ。五右ェ門・・・・・・、」
「〜〜〜!」

握る手に力が入る。涙をぽろぽろとこぼし、震える声で侍が漏らした。

「・・・・・・た・・・・・・まらぬ・・・・・・、」

      くそ。

堪んねえのはこっちだ。
優しく歯を立てて最後に思い切り鳴かせてやってから、ようやく次元は唇を離した。間を置かず、激しく上下する鎖骨を強く
吸うと、侍が痙攣したように体を震わせる。くっきりと痕をつけてしまってから、「いけねえ」と気がついた。

「まずかったかな、明日も温泉入るだろ。」
「何を・・・・・・、白々しい・・・・・・、」

息を荒げながら、侍が呻く。

「いいのか? 一応気をつけた方がいいだろ。」

ニヤリと笑い、手首を握って万歳のように掲げさせた。不審気に見下ろす侍の腋の下を全開にする。
毛深くはないが、やはり男だ。それなりに生えている辺りの真下をぺろりとやると、ひくんと脇腹が震えた。間髪入れず強く
吸った。

「・・・・・・!」

完全に油断していたのだろう、侍があられもない声を上げる。

「ここなら見えねえだろ、跡がついても。」
「よせ、次元・・・・・・!」
「ん? もっと上がいいのか?」

舌で茂みを掻き上げくすぐってやると、侍が身をよじって暴れ出す。塩辛い男の味をじっくりと味わい、派手に舐め散らかし
ながら、今度は下の方へ移動していった。

「・・・・・・っ・・・・・・、っく・・・・・・!」

堪えても堪えても抑えきれないらしい。泣くような声を上げ、侍はのたうち回った。脇腹まで下りて来た頃には、もう声も出
なくなっている。瞼を手で押さえぜいぜい言っている様子を見ると、さすがに悪い気がしてきた。

      大丈夫か、五右ェ門。」

頭を上げた侍が、きっと睨みつけてくる。

「・・・・・・少しは・・・・・・、加減しろ・・・・・・!」

荒い息と共に吐いた涙声が、裏返っている。思わず頬が緩んだらしい。「何がおかしい」と侍が息巻いた。

「・・・・・・そんなに気持ちよかったのか。」
「たわけ、お主が不意をつくからだ。別に・・・・・・、」
「でもよ、」

剥き出しの屹立に手をあてた。侍が「ぉふ!」とのけ反り、白い喉をさらけ出す。

「涎ダラダラだぜ、ここ。」

幾筋も流れている先走りを拭うようにしてしごくと、恥ずかしい水音がぬちゃぬちゃと上がった。侍が体を反転させ、次元の
手を振りほどく。俯せになったのはむしろ好都合だった。前に手を入れて引きずり上げ、尻を高く掲げさせる。

「あ・・・・・・!」
慌てて隠そうとするが、もう遅い。目の前に突き出された尻の肉を強引に割り拡げると、奥できれいな菊門がひくひくひく、
と開閉しているのが見えた。何も考えずに唇を押しつける。枕に突っ伏した侍が、吠えた。
尖らせた舌をぐりぐりと穴に捩じ込み、抜いては、割れ目に沿ってゆったりと舐め上げる。枕の奥から、侍の喘ぎがとめど
なく漏れた。勃起したものから透明な液が布団に向かってつー、と落ちる。中途半端に浮かせた腰は頼りなく震え、今にも
くずおれてしまいそうだ。

      ほら、これ使え。」

腹の下に掛け布団を突っ込んで、支えてやった。振り返る侍に向かって、ウィンクしてみせる。

「病み上がりだから、楽にしてないとな。」
「な、」

噛み付かんばかりの勢いで、侍が口を開く。

「よくも      、」

言葉になったのは、そこまでだった。

      っぁああ・・・・・・!」

尻穴に指を突っ込まれ、侍の声が急に緩んでほどけた。指に絡ませていた侍の先走りのおかげで、中はよく滑る。次元が
侍の体を気遣ってやれるのも、そろそろ限界に近かった。

「熱いな・・・・・・。」
「うう、うぅ・・・・・・、」

きゅうきゅう締め付けてくる中を、夢中でこする。一本じゃもの足りなさそうだ。指を増やして奥まで突っ込み、二本いっぺん
に激しく出し入れした。少し膨らんだ場所をぐうっと押してやると、侍がもどかしそうに尻を突き出す。

「じ、げん、次元・・・・・・!」
「ん?」
「・・・・・・もう・・・・・・、」
「もう、何だ?」
「・・・・・・!」

射殺しそうな目で侍が睨み付けてくる。ぞくぞくする。羞恥に震えている耳元へ唇を寄せようとして、ぐいと体を乗り上げた。
勢いで指が深い所に達し、侍が引き攣れたような声を上げる。そのまま奥を掻き混ぜながら、囁いた。

「『もう』、なんだ? 五右ェ門。」
「・・・・・・!」
「なあ・・・・・・、」

根本まで突っ込んだ指を激しく回し、中をぐるぐると拡げてやる。温泉で吸ったうなじが一箇所だけ赤いのを見つけ、全く同
じ場所を強く吸った。

「ぁぁぁあ・・・・・・、」
「気持ちいいのか? このままイクか?」
「んっ、んんん・・・・・・!」

尻を高く上げた恥ずかしい格好で、侍が更に身悶える。次元にしか見せない痴態を晒し、次元だけを求めている。今すぐ与
えて死ぬほど悦ばせたい。というか、もうヤバい。
突然、侍が次元の手を掴んだ。

「ごえ・・・・・・、」
「・・・・・・。」

自身を穿つ指をずっ、と抜き取り、腹の下の布団を押しやって、侍は自ら仰向けになった。びん、と反り返ったかわいいも
のが、白い腹に糸を垂らしている。次元の喉が派手に鳴った。こちらを見据え、大きな深呼吸を一つして、侍が、両膝の裏
を抱え上げる。目の前でゆっくりと開かれてゆくそこに、次元は釘付けになった。

「・・・・・・!」

無防備な姿を晒し、真っ赤になって、侍が口を開く。

「どうして欲しいか、見れば分かるであろう。」
「・・・・・・、」

微動だにできない次元を睨みつけ、侍は切羽詰まった声を上げた。

「入って来い、次元。お主を感じて、果てたい・・・・・・!」
「・・・・・・!」

      やべえ・・・・・・!

膝を、掬い上げていた。
殴り掛かるくらいの勢いで、侍の腕が絡みついてくる。熱い菊門に先端をあて、押し込めた。

「あ・・・・・・!」

包み隠さぬ歓喜の声が上がる。次元に拡げられてゆく侍の肉壁が、喜びに震えてうねり、猛っている。

「くっ・・・・・・!」

半分くらい挿れたところで、次元はぴたりと侵入を止めた。「次元・・・・・・?」と侍が掠れ声で問う。

「ちょっと      、じっとしてろ。」

込み上げる猛烈な射精感に耐え、喘ぐように言った。言うことを聞かず侍が、尻を揺らして更にくわえ込もうとする。思わず
「こら!」と叫んだ。

「待てって! 五右ェ門!」
「待てぬ!」
「イッちまいそうなんだよ!」
「構わぬ!」

次元の顔をがし、と掴み、侍が怒りの形相で叫ぶ。

「もうずっと欲しかったのだ! 次元!」
「・・・・・・!」

唇を塞ぐと同時に、奥まで突っ込んでいた。途端に放出する熱い奔流に、侍が、喉の奥で恍惚の声を漏らす。
長い口づけをようやく離すと、微笑む五右ェ門と目が合った。息を弾ませながら、髭に手を伸ばしてくる。

      気にするな、次元。」
「くっそ・・・・・・、」

布団に突っ伏し、屈辱に呻いた。

「挿れただけなのに・・・・・・。」
「気持ちよかったか。」
「ああよかったよ。」
「それならよいではないか。」
      この野郎、」

髭を撫でる白い手をひっ掴み、腹の間へずぼっと突っ込んだ。反り返る侍自身を探り当て、握らせてやる。

「じ・・・・・・!」
「何がいいんだ。お前まだこんなじゃねえか。」

思わず引こうとする五右ェ門の腰を抱え直す。突っ込んだものが抜けないように、ぐいと引き寄せた。

      どうする、五右ェ門。」

ぬるぬるの先端を、掴んだ侍自身の手でじりじりと嬲らせてやる。再び荒い息を漏らし始めた男を見下ろし、悠然と笑って
みせた。

「こっちでイクか? それとも      、」

まだ中に納まっているものをゆっくり回して、掻き混ぜてやる。

「・・・・・・あ、あ・・・・・・、」
「こっちがイイか? 選んでいいぜ。」
「・・・・・・。」

目の淵まで赤くした五右ェ門が、少し恨めしそうに次元を見上げた。がっ、と顔を引き寄せ、耳元で囁く。

      両方だ。」
      、」

返事もせずに唇を塞いだ。あの侍が、どうして欲しいか自ら言う、それだけのことがどうしてこんなに嬉しいのだろう。まった
くどうかしてる。くそ、と呟いた。

「・・・・・・くそ・・・・・・、好きだ・・・・・・、」
「『くそ』は余計だ。」

侍が笑う。「お前も言えよ」と囁いたら、笑ったまま「くそ」と返してきた。

      この野郎。」

膝をがば、と抱え上げた。侍の腹につくように両脚をひっくり返してやり、中で完全に復活した自らで、真上からぐりぐりと大
きく掻き混ぜてやる。

「んっ、」

堪え切れずに侍が嗚咽を一つ上げた。たったいま放った液体が、熱い尻の中で卑猥な音を立てる。掻き回すのを止め、次
元は浅く深く出し挿れを始めた。堰を切ったように、侍の声が漏れ始める。

「んむっ、んんっ、んくっ・・・・・・!」
「く・・・・・・っ、すげ・・・・・・!」

もはやとろとろになった侍の中が、次元をくわえてむしゃぶりつき、何度もしごき上げてくる。快感に持って行かれそうになる
のを紛らそうとして、眼下でぶんぶん揺れる侍の陰茎をぎゅう、と握りしめた。「あ!」と侍が叫ぶ。

「触る、な・・・・・・!」
「『両方』って、言った、ろ・・・・・・、」

突き立てるタイミングに合わせて熱いものを容赦なくしごいてやる。嫌がってみせるくせに、腰を高く突き出し前をおっぴろ
げて揺さぶられるその格好は、次元に貪ってくれと言わんばかりだ。愛しい、と思った。侍からも、何かそんな言葉が欲しく
なった。

「五右ェ門      、」

ねだろうとして、やめた。
うっすらと涙を滲ませ、侍がこちらを見上げてくる。熱を帯びたその瞳も、上気した頬も、たった一つのことを次元に告げて
いる。それで十分だった。切れ切れに「じ、げん」と呼ぶ男に、次元は笑いかけた。

「俺もだ、五右ェ門      、」

      愛している。

囁いた瞬間、侍が大きく体を震わせた。手の中の愛しいものから、熱い液体がびゅくびゅくと放たれる。言わなくていい。で
も悪ぃな、顔だけ見せてくれ。濡れて額に張り付く長い前髪を掻き上げ、昇り詰める侍の顔を、じっくり眺めた。恍惚の表情
を浮かべた侍が、きゅううと目を瞑り、小さく「うっ」と声を漏らす。たまらなかった。濡れた唇を塞ぎ、めちゃくちゃに腰を降っ
た。

「・・・・・・っ! ・・・・・・っ!」

絶頂を迎えた直後に再び激しく責められ、侍が声にならない叫びを上げる。低く唸り、次元が最後の一突きをぶち込むと、
白い両膝がまっすぐに伸びた。
びゅー・・・・・・と流し込む感覚を味わいながら、荒い息と共に囁いてやる。

      分かるか、出てるの。」
「・・・・・・。」

涙をぽろぽろ零しながら、侍は次元を睨んだ。それから、恥ずかしそうに頷く。
はーくそ、たまんねえ。
たっぷり出し切ってから、侍の腰をゆっくり床に下ろした。そのまま身体に全体重をかけて寝そべると、侍の腕が背に回さ
れる。重みを受け止める男の唇を何度もついばんだ。次元の下でもぞもぞと動き、侍が掠れた声で言う。

「・・・・・・抜かぬのか。」
「抜きたくねえ。」

即答し、まだ芯を持つそれを中で動かした。「こら、よさぬか」と侍がくすぐったそうにする。

「よさねえ。今までどれだけ我慢したと思ってんだ。」
「待てと言うに・・・・・・、ん・・・・・・。」

ごちゃごちゃ言う唇を塞いでやった。押し留めようとする侍の力が、妙にか弱くて心許ない。そこでようやく次元は、侍の体
のことを思い出した。

「そういやお前、具合はどうなんだ。」
「・・・・・・今更だな!」

侍が声を上げて笑う。大きな息を吐き、自らに乗る次元の腰を抱いて見つめ返した。

「よくないと言ったら、お主はやめるのか。」
「そりゃまあ・・・・・・、」
「ならば、具合はよい。」
「なに?」
「これ以上我慢する方が、体に悪い。」
      五右ェ門・・・・・・、」

莞爾と笑う侍を抱き締めた。愛しさを唇に乗せて、ぶつけるようにキスをする。応えてくる舌を強く吸い合ってから、ゆっくり
と抜いた。同時に、侍に埋めた自身をずっ、と抜き取る。

「・・・・・・あ、」

微かな声を放ち、侍が不服げな顔をする。

「次元・・・・・・、」
「休憩しようぜ。無理するこたねえ。」
「無理などしておらぬ。」
「じゃあ、こういうのはどうだ。」

額を寄せ、次元は囁いた。

「抜けば、またいやらしいおねだりが見られるだろう?」
「・・・・・・!」

顔色を変える侍を、よっ、と抱え上げた。

「な、何をする!」
「露天に連れてってやるんだ。おとなしくしてな。」

来た時と同じように姫抱きすると、侍が狂ったように暴れ出す。うまくいなして、足で襖をすぱんと開けた。

「馬鹿者、降ろせ!」
「騒ぐと周りの客が起きちまうぜ。」
「〜〜〜!」

恐怖に顔を引き攣らせて、侍が黙り込む。ニヤリと笑い、耳元に唇を寄せた。

「心配すんな、皆寝てるさ。」
「・・・・・・覚えておれ。」
「忘れるもんか。」

廊下に面した木枠の窓が、夜風にカタカタと音を立てる。その向こうに湯煙が見えた。立ち止まると、抱えられた五右ェ門
が顔を擦り寄せてくる。少し微笑み、二人は唇を重ねた。


夜はまだ長い。

















以下ループですね、分かります(^−^)。
エロ書き必修科目(というのがきっとある)の一つ、温泉ものです。多分秩父あたりと思われます。行ったことないけど。
一応、「Before Job」の続きです。
いやーしかし、男2人だと、一緒に温泉に入るのに何の言い訳もいらないから楽ですな(^−^)!



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