2日後(下)
「ところで門限は大丈夫ですか、お嬢さん?」
しのぶは後藤を睨みつけた。
「・・・・・・年増をからかうと痛い目見るわよ?」
「わあこわい。」
「・・・・・・大丈夫よ、言ってきたから。」
「お母さんに?」
「そ、言っちゃった。」
いたずらっぽい声に、後藤はにやりとした。
「何て言ったの?」
「教えません。ちょっとスピード出し過ぎよ。」
「・・・・・・急げって言ったくせに。」
「いくらなんでもとばしすぎです。仮にも警察官でしょう?」
「仮にもはひどいなあ。警察官だから、張ってるとこの検討がつくんじゃない。」
「それ以上言ったら告発するわよ。」
「しのぶさんとのデート中に違反しましたって? それは手間が省けていいなあ。」
「なんの手間よ!」
口調は怒っていても声が弾んでいる。後藤は声を上げて笑った。
「いや〜、楽しいねえ。」
しのぶはわざとぷい、と横を向いて答えない。珍しく星の見える夜だった。ビルや看板の後ろを鮮やか
に流れていく光を、子供のような気持ちで眺める。
楽しい!
でも絶対言うもんですか、としのぶは腕を組んだ。
「もう少しで着くからね。」
後藤が歌うように言ってハンドルを切る。しのぶにも行き先はうすうす分かり始めていた。
「・・・・・・ちゃんと片づいてるの?」
「意外ときれい好きですよ、ぼく。」
「それは意外ね、たしかに。」
「他にもいっぱいあるよ〜、しのぶさんの知らないことが。」
「・・・・・・。」
しのぶが不審顔で後藤を見る。
「大丈夫、美少女フィギュアなんかは隠してあるから。」
びしょ、と目を剥くしのぶに、
「うそ。じょーだん。」
後藤は車を停めた。
「着いたよ。」
ふくれっつらでしのぶは車を降りる。ぴん、と張った空気に思わず大きく息を吸いこむと、後藤がすっと
横に立った。
「行こうか。」
しのぶの手を取り、歩き始める。節くれだった手が温かかった。
なんとなく黙ってしまう。しのぶが握られた手を少しもぞもぞさせると、後藤はぎゅっ、と握り返して来た。
そのまま指を絡め合わせる。
エレベーターの中で1度だけキスをした。
「どうぞ。」
ドアを開け、後藤が中へ促す。以前にも来たことがあるのに、今日はまったく違う部屋のようだ。ドアの
前でなんとなく気後れしてしのぶは後藤を見上げる。
「ん?」
しのぶを試すように片眉を上げる後藤に、分かったわよ、としのぶは息を吸って足を踏み入れた。ばた
ん、とドアが閉まると同時に暗闇が訪れる。
「んっ・・・・・・!」
分かっていたのに声が出てしまう。後ろから抱きすくめられ、ぞり、という髭の感触と一緒に、熱く滑った
ものが首筋を這い回った。乳房を揉みしだかれ、別の手が太股を撫でまわす。
「ちょっと、まだ靴も・・・・・・!」
「黙って。」
「んん・・・・・・。」
後ろから唇を塞がれ、抗議の声が甘いうめきに変わる。押し流される自分が少し怖い。ブラウスのボタ
ンが外されているのが分かった。
探り当てるような指がブラジャーの中に入り、突起を見つける。
「あっ・・・・・・。」
後藤が嬉しそうに「あ。」と囁いて指を止める。
思わず身を引こうとするのを追いかけ、両の手がそれぞれの乳首を甘く撫でた。
「んああっ・・・・・・!」
「やっぱり、ここすごいんだ。」
暗闇で、いったい何がされているのか分からない。尖った乳首がさまざまな感触を敏感に感じとってし
まう。耐え切れず身をよじった瞬間、腰に後藤の熱いものが当たった。後藤の興奮を感じて自分の息も
荒がるのが恥ずかしかった。
「なんていやらしいんだ。」
「な!・・・・・・後藤さんでしょう!?」
「じゃ、見せてあげる。」
ぱっ、と電気がついて明るさに思わず目をつぶる。再び目を開けた途端、しのぶは息を呑んだ。
「・・・・・・ほら。」
暗闇で気づかなかった鏡が目の前にあった。
なんて格好・・・・・・!
ブラウスははだけ、押し下げられたブラジャーの上から乳房がこぼれている。たくしあげられたスカート
からのぞくストッキングは、腿の辺りが伝線していた。上気した頬。潤んだ瞳。
後藤が後ろでごくり、と喉を鳴らした。男の顔になっている。
「・・・・・・!」
抵抗しようとしたが遅かった。のしかかられ、重みに耐えかねて廊下に腰を落とす。両手を握ったまま
後藤の舌と唇が尖った乳首をぴちゃぴちゃとしゃぶった。
「んっ、んっ・・・・・・!」
「その声がもう・・・・・・、」
たまんない、と後藤は囁いてしのぶの下腹部に手を入れた。
「・・・・・・すごいよ、しのぶさん。」
しのぶは両手で顔を覆った。言われなくても分かっている。ぬるぬるとしたその場所を滑る指の感触に
腰が浮き、自分でもよく分からない声が出た。後藤の息が荒い。耐えられなかった。
「後藤さん、もう・・・・・・!」
愛撫を続ける後藤の手を押しとどめる。後藤がゆっくり顔を上げた。
「いいの?」
「・・・・・・。」
しのぶが目を伏せてうなずく。後藤はポケットをごそごそ探りながら、しのぶの唇をついばんだ。
「エッチだなあ〜。こんな玄関先でおねだりするなんて。」
「・・・・・・!」
後藤の頭や背中をどんどん叩いた。後藤はそれを受け流しながら準備を済ませ、改めてしのぶにのし
かかる。
「・・・・・・ごめん。」
「・・・・・・知らない!」
「あんまりしのぶさんがかわいいから。」
「適当なこと言わないで。」
後藤が真顔になった。
「適当じゃないよ。」
「・・・・・・。」
「すごくかわいい。」
「・・・・・・。」
「好きだ。」
「・・・・・・ん。」
後藤の目がふっと笑った。熱いものが押し当てられ、そのままゆっくり入って来る。しのぶの顎がのけ
ぞった。
「・・・・・・あったかい。」
「熱い・・・・・・!」
人ではない何かになったように2人は動いた。自分の声は聞こえず、お互いの声だけが耳に入る。
膝に力を入れてしのぶが昇りつめた直後、後藤も声を上げた。
2人の荒い息だけが廊下に響く。後藤が先に身を起こし、しのぶの鎖骨を舐めた。
「ごめん、こんなとこで。」
「・・・・・・ほんとよ。」
「我慢できなくってさ。」
「・・・・・・。」
自分もそうだとは言えず、代わりにしのぶは後藤のおでこへキスした。
きつい抱擁。
「さあ、ほんじゃ上がろうか。まずは靴をお脱ぎください。」
後藤がにやりと笑って言った。
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